2012 Fiscal Year Research-status Report
桿菌の形態形成に関わる細胞骨格蛋白RodZと赤痢菌病原遺伝子発現の解析
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23590531
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
三戸部 治郎 国立感染症研究所, 細菌第一部, 主任研究官 (40333364)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柳原 格 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター研究所, 免疫部, 部長 (60314415)
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Keywords | 病原性 / バクテリア細胞骨格 / 転写後制御 / 構造解析 |
Research Abstract |
赤痢菌の主要な病原因子であるIII型分泌装置の発現を指標に申請者が同定したRodZ蛋白は、近年提唱されている新概念の“細菌の細胞骨格蛋白”(bacterial cytoskeleton)として細菌の形態形成に作用することが報告されている。 初年度は内膜に局在するRodZが、これまで知られていなかったRNA結合活性を持ち、III型分泌装置の転写後制御に関わることを論文で報告した。以降、蛋白の基礎データの集積が重要と考えられたため、研究計画に基づいてRodZ蛋白の構造解析を進めた。 RodZ蛋白は多量体が集合した高分子を形成しており、研究分担者の観察から蛋白が電顕で見える巨大な粒子、Superstructureを形成することが分かった。このSuperstructureが生体でも存在するか調べるため、生菌の可溶化分画を直接ゲル濾過分析にかけたところ、RodZ蛋白は高分子側に分画されたため、RodZは生体でもSuperstructureを形成する可能性が高いと考えられた。 このSuperstructureはBasal complexと呼ぶべき、200kDa程度の複合体が疎水結合で集合することで構成されており、Basal complexは単量体がシステイン残基を介してジスルフィド結合で結合し構成されていることが明らかになった。Basal complexの分子量を新型の質量分析法(後述)で測定したところ、RodZは基本構造としてホモ6量体を取ることが分かった。 細菌のなかでは比較的解析が進んでいるRNA結合蛋白Hfqもホモ6量体を形成することが知られている。RodZの単量体はRNAを結合しないため、RNA結合活性にはHfq同様に6量体の形成が必須であることが予想された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上述のようにRodZはSuperstructureといえる複雑な複合体を形成しており、超遠心分析等で複合体の分子量を求めたが、その決定は大変困難であった。偶然、ゲル濾過分析で非イオン性界面活性剤の存在下でSuperstructureからBasal complexが解離すること、また、低濃度のジチオスレイトールでBasal complexから単量体が解離することが発見されブレイクスルーとなった。 RodZはジスルフィド結合で結合した蛋白をクロスリンクして行う新型の高分子量MALDI-TOF法(COVALX)で測定可能で、Basal complexの分子量が6量体に相当する224,112kDa(RodZ単量体:37.342kDa)と正確に測定することができた。この6量体の形成とRNA結合能がリンクしているのは既存のRNA結合蛋白Hfqとアナロジーがあるように思われた。 さらに研究計画に従い、RodZが他の遺伝子群の転写後調節に作用しているか調べた。新鮮なmRNAとリファンピシンで転写を停止して4分後のmRNAをそれぞれrodZ欠損株と野生型株から精製し、cDNA合成後、マイクロアレイを用いて全てのmRNAの分解速度をrodZ欠損株と野生型とで比較した。その結果、少なくとも約80種類の遺伝子のmRNAがRodZが欠損することで、野生型よりも3倍以上分解が遅くなっていることが明らかになった。 興味深いことに、これらの遺伝子産物の局在を調べると、内膜、ペリプラズム、外膜に存在するものが多いように思われた。また、その遺伝子自体は細胞質に局在しても、オペロンを構成している別の蛋白が細胞質以外に局在している例が多く見られた。以上のことから、RodZが特定のmRNAの菌体内における局在に関係している可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は蛋白の構造解析の結果と、rodZ欠損株と野生型株のマイクロアレイの結果を合わせて2報目の論文報告の準備を進める。 前述した生菌の可溶化分画のゲル濾過分析ではRodZ蛋白は高分子側に分画されるため、生体でもSuperstructureが形成される可能性が高いが、この実験では可溶化後に再結合が起こる可能性もあり直接的な証明にはならない。これに関して、研究計画で述べた、RodZ蛋白が6量体を作りながら細胞膜にアンカリングすることを免疫電顕で観察する系を国立感染症研究所・電子顕微鏡室と協同して作成中である。 RodZのペリプラズム領域の立体構造を認識するモノクローナル抗体はすでに製作済であり、リゾチームで細胞壁を除去した菌体に金コロイドの抗体を結合させSEMで観察する予定である。SEMで条件決定できれば、TEMを用いて金コロイド間の距離測定が可能であると思われる。 マイクロアレイ解析で同定された一連の遺伝子群はrodZ欠損株でmRNAの分解速度が低下しているだけであり、実際に生体内でRodZと相互作用しているかは明らかではない。そのため、初年度に発表した論文で開発したRodZとmRNAのUVクロスリンク法を用いて、一連の遺伝子を調べる。 具体的にはC末側にHis-tagを付けたrodZ遺伝子を持つ赤痢菌に紫外線を照射してRodZ蛋白とmRNAに共有結合をかけ,精製した複合体の蛋白を消化し、残ったmRNAからcDNAを合成し、遺伝子特異的なプライマーでリアルタイムPCRを行う。精製法を工夫したことで、以前より特異性が上がった。現在、80種類の遺伝子ごとに判別を進めており、高い確率でmRNAが結合していることが明らかになっている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
消耗品が十分に足りたため、余剰分が生じた。前年度余剰分は6月にドイツ・ヴュルツブルグで行われる細菌のRNA制御に関する国際会議で発表するため旅費として使用する。 他は当初の予定どうり。
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Research Products
(3 results)