2011 Fiscal Year Research-status Report
新規抗ウイルス剤開発を目指したHPV過形成誘導機構の解明
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23590540
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
酒井 博幸 京都大学, ウイルス研究所, 准教授 (80281731)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | human papillomavirus / ウイルス発がん / 子宮頸癌 / 重層上皮形成 |
Research Abstract |
本年度は、子宮頸癌との関連性の高いHPV16型DNAを用いてウイルス複製系の構築をおこない、その実験系を用いてHPV制御遺伝子の役割をリバースジェネティクス法によって解析した。その結果、E4とE5に細胞分化に応じたウイルス複製制御機能があることを見出した。E4は分化に依存したウイルスゲノムの増幅に関与しており、産生的ウイルス複製に寄与していることが示唆された。E5は未分化の基底細胞でのウイルス複製を抑制し、HPVの持続感染の制御にかかわっている可能性が示された。E6に関しては、これまでに細胞内でのウイルスゲノム維持に必須であると報告されていた。しかし今回用いた実験系によって、ゲノム複製効率には関与するが、必須ではないことが明らかとなった。しかしながらE6欠損HPVの複製効率は非常に低く、このE6によるゲノム複製調節機構は有望な抗ウイルス剤の標的になり得ると考えられた。E6に関してはp53の他にも、多くの宿主因子との相互作用が報告されている。今後は、HPVゲノム複製効率にE6のどのような機能が関わっているかを明らかにしたい。E7も同様にゲノムの維持に必須であると報告されていたが、今回の実験ではゲノムの維持にも、分化依存的なゲノムコピー数の増幅にもほとんど関与していないという結果が得られた。同様の結果はHPV18を用いた解析によっても得られたことから、用いる実験系の差異によってE7の機能発現が異なる可能性が考えられた。E6,E7は感染部位に過形成を誘導する責任因子であると考えられている。E7による過形成誘導はすでに報告しており、E6に関しても弱い異形性を誘導する活性を見出した。これらの形成異常とウイルス複製との関連性に関して、解析をすすめている。これらの知見は抗ウイルス剤の標的を同定する上で、重要な基盤となるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
HPVの複製は感染標的である重層上皮細胞の分化に強く依存しており、従来の実験系では再現することが困難であった。そのため複製機構の解析はあまり進展していなかった。この研究では重層上皮形成を再現する『皮膚モデル培養系』を利用して、HPVの複製を高度に再現する系を利用した。また、新規のHPVレプリコンを開発し、それを『皮膚モデル培養系』に応用することで、効率と再現性の高い解析系を構築することが出来た。HPVの生活環(life cycle)におけるHPV制御遺伝子の役割は不明な点が多い。今回の結果から、それらの機能についていくつかの新知見を得ることが出来た。過形成誘導に関してはE7のみでなく、E6にも上皮形成異常を誘導する活性を見出した。次年度は更に解析をすすめ、過形成阻害がHPV複製抑制に寄与するかどうかを確認したい。以上、HPV感染による過形成誘導、および細胞分化に応じたウイルス複製制御機能に関していくつかの新知見が得られ、これらは抗ウイルス剤の標的因子の同定の基盤となるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、HPV感染による過形成誘導機構を詳細に解明し、その阻害がウイルス複製に影響するかどうかを検討する。またHPV生活環の解明をすすめることで、新規抗ウイルス剤の分子標的を探る。HPV制御遺伝子によるウイルス複製制御機能に関しては、『皮膚モデル培養系』をより有効に活用することで、新知見を得られる可能性が高いと考えられるので、重点的に解析をすすめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の多くは、初代培養細胞の購入・維持に必要な消耗品費に充てる。また『皮膚モデル培養系』の構築に必要な試薬類、およびその組織免疫学的解析に必要な抗体類の購入も計画している。その他、研究成果の公表を目的とした学会参加のための出張旅費や、論文発表にかかる経費にも充てる。
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Research Products
(5 results)