2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23590542
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
黒須 剛 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (70432432)
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Keywords | 新興・再興感染症 / ウイルス / 熱帯感染症 / マウスモデル / デングウイルス |
Research Abstract |
デングウイルス感染症は、血小板減少と血漿漏出を特徴とする、最も重要な蚊媒介性ウイルス疾患である。本研究では、病原機序の解明及び治療薬評価系の確立のため、デングウイルス感染のマウスモデルを開発することを目標としている。 デングウイルスはマウスでは増殖できないため、同じフラビウイルス科に属し、マウスに致死性感染を起こす日本脳炎ウイルス遺伝子とデングウイルス遺伝子を置き換えたキメラウイルスを作成してきた。このウイルスは、マウスでの増殖性が高く、致死的感染を起こした。ヒトでの感染症例と比較するためマウスでの病態解析を進めた。キメラウイルスの標的は単球/マクロファージおよび樹状細胞であり、ヒトでの感染における標的細胞と同様であった。また、低病原性キメラウイルスを作成することに成功し、このウイルスを用いた比較解析により、腫瘍壊死因子(TNF-a)が死に強く関与していることが明らかになった。血小板減少を観察し、これは骨髄での巨核球造成の阻害によることが判明した。この原因はまだ解明されていないが、骨髄には顆粒球の浸潤があり、ウイルス感染により異常活性化した免疫細胞により巨核球などの造血細胞に障害が引き起こされた可能性が考えられた。これらの観察は、ヒトの病態を似ていて、モデルとして有用であると考えられた。 新規モデル系応用の可能性について検討するため、抗デングウイルス抗体による防御・治療効果試験した結果、興味深いことに感染後一日目に投与した場合が最も効果的な防御効果を示した。またこの感染症に特徴的である抗体依存性感染増強効果について調べた結果、マウスでは臓器特異的にウイルス産生増強が認められ、これまで全く検討されていなかった現象を観察した。抗デングウイルス抗体導入条件の違いにより、相反する2つの現象、致死性が高まる現象と防御する現象を観察したことは、評価系としての有効性を期待できる結果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
デングウイルスは1型から4型まで4つの型が存在し、それぞれヒトでの重症化に重要である。3型ウイルス以外の3つの型のキメラウイルスを作成し、それぞれマウスに致死的感染を起こすことを確認し、骨髄抑制、血小板減少症も確認できた。これらはヒトでの病態に似ている。日本脳炎ウイルスとのキメラウイルスを用いた系であるため、感染標的細胞がデングウイルスと同じであるから危惧されたが、脳ではあまりウイルスが検出されず、単球/マクロファージ及び樹状細胞が標的であることを確認した。これまでの観察を総合的に判断すると第一の条件はクリアーできたと考えられる。血小板減少などのデングウイルス感染に特徴的な現象を観察し、骨髄中での巨核球消失を観察したことから、血小板減少症、骨髄抑制の機序解明に有用なモデルが作成されたと考えられる。 ヒトの感染では、異なる型のデングウイルスによる二次感染でより重症化すると考えられている。今回は、能動免疫による二次感染モデルの作成までには至らなかったが、受動免疫による抗体依存性感染増強効果を観察した。その代り一次免疫による防御効果は確認した。また、感染後の中和抗体価測定系も確立した。興味深いことに、一次免疫した場合、2回目感染からマウスは生存したが、この場合の抗デングウイルス抗血清力価は低かった。このことは、抗体による液性免疫だけでなく、細胞性免疫も防御効果に重要な役割を果たすことを示唆し、ワクチン後の効果検定には抗血清(抗体価)の測定だけでは不十分であることを意味する重要な所見である。総じて、マウス個体内でのウイルス増殖臓器、細胞が判明でき、抗デングウイルス抗体導入による感染防御効果と増悪効果の両方を観察できる系であることが確認され、治療法開発における系の有効性が示されたことは大きな進歩であり、予想以上の成果を得たと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの観察から、このモデルは以下の項目を重点的に解析する必要があると考えられる。(1)血小板減少症へ導く骨髄抑制による造血細胞の形成阻害の原因の解明。(2)臓器特異的に産生されるTNF-aのウイルス感染誘導因子の解明。(3)低病原性キメラウイルスに同定された4つの変異の中で、どの変異が病原性減弱の責任部位かを同定する。(4)抗体依存性感染増強による病原機序の解明。どの臓器でのウイルス産生が重要かを決定する。(5)能動免疫による二次感染モデルの作成。(6)ワクチン及び治療薬検定系として、候補を検定。これらは大きく病原性の解明(1)から(5)と、治療法開発などへのモデル系の応用(5)と(6)と分けられる。(5)は病原性と応用に重要な課題である。 (1)の骨髄抑制はデングウイルス特異的現象でもあるが、免疫細胞への感染によって起こるその他の原因による骨髄抑制を解明するきっかけにもあると考える。まずは骨髄への直接感染によって起こるか、その他の液性因子によって起こるのかを血清をトランスファーする実験によって確認する。またその他の細胞活性化マーカー、増殖している細胞を同定する。(2)の観察はこの感染症以外の疾患にも関連する可能性があるので、(3)の変異ウイルス解析と合わせ、ウイルス感染によって誘導される、免疫反応を定量的RT-PCRにより解析する。(4)では、臓器特異的なウイルス増殖が重症化に関与する機序を解明するため、抗体依存性感染増強によってどの細胞でのウイルス感染が上昇しているかを免疫組織化学とフローさんとメトリーを用いて同定する。またTNF-a、IL-6などの宿主サイトカインレベルを測定し、重症化に重要な機序を解明する。(5)では、病原性の異なるウイルスで一次感染(免疫)し、現在得られている抗体依存性産生増強効果を起こす濃度と同じ濃度になる条件を探す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
これまで実験系の確立は予想以上の成果が得られつつあるが、平成25年度には、施設上の理由により一時期動物実験ができない期間が乗じた。モデル系の発展のため、さらなる実験が必要であったが、この遅れのため予定していた実験を行えなかった。このため次年度へと実験研究の一部を持ち越した。次年度は、系の発展のために上記に挙げた実験を行う。 研究費はマウスの飼育及び実験に必要な道具類・試薬類に使用する。これらの実験に伴うクローニング及び細胞培養、サイトカイン関連試薬、試薬類、フローサイトメトリー用標識抗体を購入するために使用する。特にウイルス検出にリアルタイムPCRを多用するため、解析費用とする。またマウス個体での病態解析を行うため、病理学的解析、免疫組織学的解析、血液学的検査などの試験項目が加わり、このための解析費用に使用する。さらにデングウイルス感染の鍵である抗体依存性感染増強(ADE)現象の病態を解析するため、受動免疫に使用する抗体産生・精製費用が必要であり、ADE時の炎症性サイトカインのプロファイリングを行うための測定試薬を購入する。 また研究費は、これまでの成果を発表するための学会及び研究会参加にも使用する。複数の論文を準備中であるため、英文校正及び投稿料にも使用する。
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