2012 Fiscal Year Research-status Report
APOBEC1ノックアウトマウスを用いた抗レトロウイルス自然免疫機構の研究
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23590546
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
小糸 厚 熊本大学, 生命科学研究部, 教授 (70231305)
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Keywords | レトロウイルス / シチジン脱アミノ化酵素 / レトロエレメント / HIV / APOBEC / 小動物モデル / ゲノム |
Research Abstract |
シチジン脱アミノ化酵素APOBEC1は、ヒトでは小腸でのみ発現がみられ、コレステロール代謝に重要なアポリポタンパク質(apo)B mRNAのエディティングに関与することが知られてきた。我々は、マウスやウサギでは小腸、肝臓のみならず脾臓、胸腺、卵巣、精巣など様々な組織でAPOBEC1 mRNAが強く発現していることを見出した。MuLVを接種したマウスで複製したMuLVゲノムには高頻度に脱アミノ化反応による変異がみられるが、それがAPOBEC3ではなくAPOBEC1によるCからUへのエディティングであることが示された。このin vivoの実験結果に加え、我々がこれまでに明らかにしたin vitroにおけるAPOBEC1の抗HIV、抗レトロエレメント活性、さらにはAPOBEC1 mRNAの発現パターンも, 小動物においてAPOBEC1は外来レトロウイルスや内在性レトロエレメントを標的とした強力な自然防御機構として機能していることを示唆している。この可能性を検証するため、APOBEC1ノックアウトマウスにおける内在性レトロエレメントの細胞内複製を解析中である。本研究により内在性レトロウイルスと起源を同じくし、その複製サイクルにも共通の点が多いHIVが、げっ歯類やウサギなどの実験用小動物で十分に複製できない分子基盤がより明確になると期待される。ヒト・マウスゲノムには何百万年も昔にレトロエレメントがはいりこみ、ゲノム進化の原動力となってきた。LTR型の内在性レトロウイルスだけでも、ヒト・マウスゲノムの10%近くを占める。レトロウイルスの感染により胎盤が形成されるなどレトロウイルス・レトロエレメントの増大が哺乳類進化の原動力になってきた。その過程で出現し、これらレトロウイルス・レトロエレメントを制御してきたAPOBECによる自然免疫機構をより明確にすることを、本研究は目的としている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は野生型ならびにAPOBEC1ノックアウトマウスより樹立したマウス胎仔由来繊維芽細胞(MEF)における内在性レトロウイルス・レトロエレメントのレトロトランスポジションの検討に加え、有袋類のAPOBEC1の機能を新たに解析した。オポッサムなど有袋類のゲノムには、有胎盤類のゲノムより多くの非LTR型レトロトランスポゾンであるL1が蓄積しているが、抗レトロウイルス・レトロエレメント制御機構として機能が知られているAPOBEC3遺伝子が存在しない。我々は、ウサギAPOBEC1が強力なDNAミューテーター活性を示すことを報告してきたが、オポッサムAPOBEC1はさらにその10倍以上の活性を示した。また、L1に対して脱アミノ化非依存的、LTR型レトロトランスポゾンであるMusDに対して脱アミノ化依存的な抑制活性を示した。抗HIV-1活性は、ウサギAPOBEC1と比較して極めて弱いものであったが、HIV-1粒子への取り込みが非効率であることが、その原因として考えられた。またオポッサムAPOBEC1は、小腸、肝臓以外の組織において広範な発現がみられた。以上の結果は、有袋類においては内在性レトロエレメント制御機構としてAPOBEC1が、その中心的な役割を担っている可能性を示唆する(Ikeda & Koito., 論文投稿準備中)。ヒトなど霊長類以外の哺乳類APOBEC1にはRNAエディターとDNAミューテーターの両方の作用があり、レトロウイルスやレトロエレメントに対する自然免疫機構として機能してきたことが明らかになりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
APOBEC1ノックアウトマウスを用いて、シチジン脱アミノ化酵素によるHIV-1抑制の分子機構を解析し、HIV-1が複製可能なマウスモデル作製を目指す。Ex vivoにおけるマウスリンパ球でのHIV-1複製、およびHIV-1ゲノム(プロウイルスDNAとゲノムRNA)におこる変異を通常のPCRならびに3D PCRを用いて解析する。3D PCRは、denatureの温度を下げることによりG-to-A mutationの集積を、感度よく検出できる。これまで、プライマリーのマウスリンパ球内でおこるHIV-1ゲノム変異の詳細については、報告がない。強力な抗HIV-1阻害因子であるAPOBEC1をノックアウトしたマウスリンパ球内で、HIV-1プロウイルスDNAとゲノムRNAにおこる変異を詳細に解析することで、新たな抗HIV-1阻害因子の発見につながる可能性もある。また平成24年度の有袋類APOBEC1の研究結果より、APOBEC3 より先にAPOBEC1が出現し、哺乳類進化の原動力になってきたレトロウイルス・レトロエレメントの増大を制御してきたことが示唆された。また最近の報告によるとAID/APOBECファミリーは、脱アミノ化のみならず、もう一つのDNAシチジン修飾である脱メチル化にも関与し、体細胞から誘導多能性幹(iPS)細胞を誘導する際、核の再プログラム化に重要な働きをしている可能性が示されている。APOBEC1の脱メチル化反応についても解析をおこなう予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
細胞培養用培地、牛胎児血清、フラスコ、プレート、チューブなどの消耗品代に加え、マウスの維持・繁殖に必要な経費に研究費は使用される。またDNA塩基配列決定のための試薬、制限酵素、RNA抽出試薬、逆転写酵素、などの分子生物学実験用試薬を購入する必要がある。国際学会での研究発表のための海外旅費、また論文投稿のための英文校閲料・投稿料・別冊代金として研究費の一部を使用する。
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Research Products
(8 results)