2011 Fiscal Year Research-status Report
機能グライコミクスを利用したマイナーシアル酸のインフルエンザウイルス受容体評価
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23590549
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
高橋 忠伸 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (20405145)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
南 彰 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (80438192)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | シアル酸 / インフルエンザウイルス / N-グリコリルノイラミン酸 / 受容体 / 感染 / CMP-N-アセチルノイラミン酸 水酸化酵素 / Neu5Gc / CMAH |
Research Abstract |
インフルエンザウイルスの受容体と言われるノイラミン酸(シアル酸)の分子種は、N-アセチル体(Neu5Ac)とN-グリコリル体(Neu5Gc)に大別される。Neu5Gcは、ヒトのみが合成できず、パンデミックを起こす新型ウイルス発生の場になるブタなどの中間宿主動物で、ウイルス受容体として機能することが予想される。インフルエンザウイルス受容体に関する大部分の研究は、Neu5Acで行われてきた。本研究は、新型ウイルス発生に関与することが予想されるNeu5GcのIAV 結合性とインフルエンザウイルス受容体としての機能性、パンデミックとの関連性をウイルス学的および糖鎖生物学的アプローチを用いて解析することを目的とする。本年度の研究実績として、1)サル由来細胞からのNeu5Gc合成酵素(CMP-Neu5Ac hydroxylase; CMAH)遺伝子のクローニング、2)ヒト由来細胞へのCMAH安定発現、3)CMAH安定発現細胞のNeu5Gc発現の評価、4)Neu5Gc発現が多い培養細胞株の探索が挙げられる。 具体的には、サル腎臓由来COS7細胞からクローニングしたCMAH遺伝子をヒト乳癌MCF7細胞へ導入した。CMAH遺伝子を安定発現したMCF7細胞に豊富なNeu5Gcが発現することを、Neu5Gc抗体による免疫染色、およびHPLCによる化学的シアル酸分子種の分析で確認した。一方、株化された培養細胞のNeu5Gc/Neu5Ac比は、検討したすべての細胞で1~5%であり、Neu5Gcの多い細胞は見い出せなかった。 遺伝子工学的手法によりNeu5Gc高発現細胞が取得できたことは、今後の研究推進の基礎として大きな成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Neu5Gcを豊富に発現する細胞株の探索およびNeu5Gc高発現細胞の作製は、本研究の基盤であり、研究推進のための最大の課題でもある。現在のところ、検討した培養細胞株はすべてにおいて、Neu5Gc含量はNeu5Acと比較して極めて小さかった。CMAH活性が欠損している一般的なヒト由来細胞であってもNeu5Gcが少量検出された。これは、培地に含まれる牛血清中のNeu5Gcが細胞へ取り込まれたためと考えられる。Neu5Gc発現が多いと言われるウマ由来の初代培養細胞を用いたが、Neu5Gc含量は小さかった。 細胞株の探索は良い結果が得られなかったことから、遺伝子工学的にCMAH遺伝子をヒト由来細胞に導入することでNeu5Gc高発現細胞を作製することにした。サルCMAH遺伝子をヒト乳癌細胞へ安定発現させたことにより、Neu5Gc高発現細胞の作製に成功した。これにより、本研究の最大の課題であるNeu5Gc高発現細胞の獲得に成功し、今後の研究が推進可能となった。今後は、Neu5Gc高発現細胞を用いて各種インフルエンザウイルスの感染実験を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
Neu5Gc高発現細胞を獲得できたことから、この細胞とその親細胞を用いてNeu5Gc結合性が判明している、ヒトや動物のインフルエンザウイルス株で感染性を評価する。Neu5Gcのウイルス受容体機能とウイルスの宿主や亜型の違いとの関連性を検討する。 Neu5Gc非結合性ヒトインフルエンザウイルスのヘマグルチニン遺伝子へ変異を導入して、Neu5Gc結合性を獲得させたインフルエンザウイルスをリバースジェネティクスの手法で作製する。Neu5Gc高発現細胞への感染性において、ウイルス側のNeu5Gc結合性の有無の影響を調査する。 今回、Neu5Gcを高発現させたMCF7細胞とは別のヒト由来細胞株で新たにNeu5Gc高発現細胞を作製する。これにより、細胞株間でNeu5Gcのウイルス受容体機能に違いが存在するのかどうかを検討する。 インフルエンザウイルスのNeu5Gc結合性の評価および効果的評価法の確立を行う。Neu5Gc結合性とヘマグルチニン遺伝子の系統解析を比較して、Neu5Gc結合性の分子機構およびパンデミックとの関連性を解析する。 最終的にNeu5Gcに関して、1)インフルエンザウイルス受容体として機能するのか、2)ウイルスの宿主や亜型の違いは影響するのか、3)ウイルスのシアル酸分子種結合性と細胞上に発現したシアル酸分子種が一致するのかどうか、4)ウイルスのNeu5Gc結合性の分子機構を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次に次年度の予想される物品費を示す。初年度と同様に、MCF7細胞株以外のNeu5Gc高発現細胞の作製に遺伝子工学試薬を必要とする。また、インフルエンザウイルス遺伝子の加工においても遺伝子工学試薬を必要とする。Neu5Gc高発現MCF7細胞を感染実験に多く使用するため、培養器具、培地、および薬剤耐性選択を行う抗生物質を大量に消費する。シアル酸分子種発現解析にリアルタイムPCR試薬、抗体試薬、シアル酸の誘導体化試薬等のHPLC関連試薬(研究分担者 南 彰 先生への分担金)を消費する。感染細胞染色のための抗体試薬の消費は大幅に増加するものと思われる。多くの株のインフルエンザウイルスを効率的に増やすために孵化鶏卵を購入する。 国際学会に参加予定であり、海外への旅費・参加費・滞在費等の旅費の支出が増加する。 また、平成23年度実施予定の方法が他論文で報告されていたことから当該年度では実施しなかった。そのために生じた平成23年度の残額は平成24年度へ繰り越す。繰り越した予算は、平成24年度において大幅に需要が増加することが見込まれる細胞培養器具・試薬や抗体染色試薬に使用する。
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Research Products
(31 results)