2011 Fiscal Year Research-status Report
介護保険施設における終末期医療の実態調査と多機能型ネットワークの構築
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23590608
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Research Institution | Miyagi University |
Principal Investigator |
長澤 治夫 宮城大学, 看護学部, 教授 (30295381)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 高齢者の終末期医療 |
Research Abstract |
2010年のWHOの発表によると2008年における日本人全体の平均寿命は83歳、健康寿命は76歳で、男女ともに世界一であった。寿命と健康寿命の差は男女とも約7年で、この期間は何らかの医療や介護を受けて生活する期間と言える。余命が限られていた場合自宅で最期を迎えたいと考えている人は85%という調査もあるが、実際にその85%のうちわずか20%足らずの人しか自宅での最後を迎えることができず、その他大勢は病院や施設での死を迎えるのが現状である。1953年には自宅死と病院死の比率は88%対12%であったのが、わずか50年後の2003年にはまったく逆の自宅死と病院死の比率は13%対87%であった。 高齢者が住み慣れた地域で最後まで自分らしく生活できるように、保健・医療・福祉政策の1つとして、在宅医療の普及が挙げられている。介護保険制度が導入されても在宅で最後まで生活するには、夜間など同居家族の介護力に頼らなければ維持できないのが現状である。高齢者は様々な事情により必ずしも自分の自宅で最期まで生活できるとは限らず、病院や有床診療所などの医療機関、介護老人保健施設(老健)や介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)などの介護保険施設をはじめさまざまな施設で、終末期を過ごしているのが現状である。その要因として、医療依存度の程度による慢性疾患の有無、要介護度、配偶者や同居家族の有無などさまざまである。介護保険施設では、医師や看護師が配置され、緩和医療・ケアを含めた終末期医療が実施される療養環境にあるが、グループホーム、有料老人ホーム、高齢者専用賃貸住宅(高專賃)などの施設では、医師や看護師等の医療職は配置されていない。本研究では、これらの施設における医療依存度の高い高齢者の終末期医療や看取りについて調査を行い明らかにするものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2010年にシンガポールの慈善団体であるリエン財団が、経済協力開発機構(OECD)加盟国など計40の国・地域を対象にして、「各国における終末期ケアの評価(死の質)」について報告している。それによると日本の「終末期ケアの評価(死の質)」は、基礎的医療や介護環境では高く、一方利用しやすさやコストおよび終末期介護の質では低い評価で、40カ国・地域中23位で先進国の中では低い評価であった。英国、オーストラリア、ニュージーランドが最も評価が高く、アジアでは台湾14位、シンガポール18位、香港20位であった。本研究においては医療機関や介護保険施設以外で看取りも含めた終末期介護を行っているグループホーム、有料老人ホーム、高齢者専用賃貸住宅(高專賃)などの施設における医療依存度の高い高齢者の終末期医療の質と看取りについて詳細な調査を計画した。 2011年度は、在宅医療を専門的に実施している医療機関の協力のもとに2007年から2011年8月までに仙台市内および近郊のグループホームで終末期医療を経て看取りを実施した72例の終末期医療・介護について詳細な調査を計画した。死亡例の基礎データとして、1)性、2)死亡年齢、3)主病名、4)死因、5)要介護度、6)終末期医療を受けた期間、等について調査した。終末期医療およびケアの内容として、1)呼吸管理(人工呼吸器による補助呼吸、酸素吸入、吸引など)、2)栄養・水分管理(胃瘻、中心静脈、末梢からの補液など)、3)排泄管理(尿導カテーテルなど)、4)疼痛管理(麻薬の使用など)、5)褥瘡の有無など、6)その他(輸血など)について調査した。現在調査を実施しながら詳細なデータの解析中である。
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Strategy for Future Research Activity |
わが国の年間死亡者数は、1960年には約70万人だったが、2010年には約117万人に達し、今後も死亡者数は増加していく。一方、医療機関の病床数は1990年ごろから徐々に減り2010年には約173万床になったが、そのうち90万床は本来の治療を行う一般病床で、医療機関だけでは看取りを含めた終末期医療を担うことができない状況にある。不足する看取りを行う場所を補う役割を期待されている介護保険施設は数が少なく、何年間も入所待ちの状況である。一方、2006年の調査によると高齢者のいる1,828万世帯のうち高齢者夫婦のみの世帯は539万世帯(29.5%)、高齢者単独世帯(独居高齢者)410万世帯(22.4%)で、高齢者夫婦のみと高齢者単独世帯を合わせて949万世帯(51.9%)を占め、介護を要する高齢者の家族の介護力が低下し在宅での看取りも難しくなっている。介護を要する高齢者数の著しい増加により、グループホームや有料老人ホームなどの施設で終末期を過ごす高齢者が増えている。行き場を失った終末期の高齢者が、有料老人ホームとして届け出していない「寝たきり専用賃貸住宅」で生活している実態も取り上げられ社会問題化している。このような施設は、医療職や介護職が常駐せず、外部から医療や介護サービスが提供されているのが実情で、充分な緩和医療を含めた終末期医療や全人的ケアが実践されているか否かは明らかでない。昨年度に引き続き仙台市内の訪問診療を実施している医療機関、訪問看護ステーションの協力を得て、グループホームでの終末期医療・介護および看取りの事例の詳細な調査を引き続き実施していく。さらに今後は有料老人ホーム、高齢者専用賃貸住宅(高專賃)などにおける医療ニーズの高い高齢者の終末期医療および看取りの実態について調査を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
直接経費(1) 物品費 250,000円(内訳)一般事務用品・文具など 250,000円(2) 旅費 400,000円(内訳)調査のための施設訪問旅費、学会・研究会参加旅費 第17回日本緩和医療学会学術大会 (2012年6月22~23日)神戸市、第14回日本褥瘡学会学術集会 (2012年9月1~2日)横浜市、第4回世界創傷治癒学会連合会議 (2012年9月2~6日)横浜市、第15回日本在宅医学会学術大会 (2013年3月30~31日)松山市 (3) その他 450,000円(内訳)図書・資料代 200,000円、資料印刷代 50,000円、通信 費(切手、宅急便など) 50,000円、学会・研究会参加費 150,000円
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