2011 Fiscal Year Research-status Report
縦断的継続診療によるアルツハイマー病及び軽度認知機能障害病態バイオマーカーの確立
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23590669
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松本 明 京都大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (80181759)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
武地 一 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (10314197)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 神経内科学 / 痴呆 / 脳神経疾患 / 脳老化 / バイオマーカー |
Research Abstract |
1. 研究分担者による研究対象症例の包含・除外基準の策定、臨床情報・検体の採取。当初の研究実施計画内容に原則的に則り行ったが、平成23年度中において既に臨床経過や病態に変容を確認できる例もあり、当初平成24年度以降の研究実施計画に予定していた以下の内容も今年度から適宜実施した。なお最終的に対象とした被験者の病態は、他覚的に認知機能が正常な高齢者(65歳以上)、Peterson基準により軽度認知機能障害(MCI)と判定される高齢者(同上)、および最新の臨床診断基準によりアルツハイマー病(AD)と診断された高齢者(同上)である。なお認知機能に関る臨床所見の変容を確認した例については特に留意し、検体採取の頻度を上げ、適切な検査所見(特に高度な画像診断法)の確保に努めた。2. 研究代表者および研究分担者による本(臨床)研究の京都大学「医」の倫理委員会への承認申請と承認(平成23年5月)。付帯的にアポEリポタンパクの遺伝子型解析のため、本臨床試験被験者について、採血時にその血球DNAの当該遺伝子解析についての同意を得て、インフォームド・コンセントの確立を併せて行い、同時に承認された。3. 研究代表者によるバイオマイカー候補の探索研究の進捗状況。血漿蛋白の網羅的解析手法として、血漿から含有量が多く解析の妨げとなるアルブミンと免疫グロブリンを除去し、精製した各群検体について、レクチンカラム分画により分離した糖蛋白について、2次元電気泳動により解析した。群間で変動が検出されたいくつかの候補蛋白(スポット)について質量分析による同定解析を行ったところ、ハプトグロビンの糖鎖構造に相違があることが示された。また、髄液解析は血漿と同様に精製した検体について、既に有力なバイオマーカーとして確立しているタウ蛋白とそのペプチドを対象とし、それらの群間の定性・定量的差異の確認を目指して解析を継続中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
正常高齢者から軽度認知機能障害(MCI)に至る病態プロセス、および(あるいは)アルツハイマー病(AD)に至るプロセスを反映し、且つ血液中に発現する分子を探索・同定し、バイオマーカーとして確立することが本研究計画も目的である。現時点における達状況については、先ず解析対象の検体・臨床情報の確立と臨床研究実施にあたり必須の医学倫理委員会への申請とその承認を得たことが挙げられる。現時点での探索的解析の成果は、上述したように限られたものであるが、血漿検体の網羅的解析で得られた候補分子については、集積しつつある新しい検体を用いた小規模なバリデーション結果により、脱落するものも多いと推定される。一方髄液のタウ蛋白・ペプチドの解析については、バイオマーカーとしての意義の確立したタウ分子について、total tau総免疫活性よりも優れたマーカーが確立できるかが重要となる。従ってタウについては現在髄液中に発現され易いN端側約3万ダルトンを対象として、20アミノ酸毎に分画して抗体アレーを作成した。抗体は交叉反応性の強い一次構造認識抗体ではなく、ラット脾骨リンパ球系による立体構造認識抗体によるアレーを作成し、現在網羅的に解析中である。上記の進捗状況は4年間の研究計画からすれば粗順当なものと判断される。但し継続的診療中の病態変容の頻度は当初の予想を上回り、候補アッセイ系の確立を急ぎ、早まるバリデーション時期に備える必要性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 研究分担者による研究対象症例の採用基準の策定、臨床情報・検体の採取に関して。基本的な推進内容は既述の通りであるが、縦断的解析の時間経過に従って、特にMCI群およびAD群の群内不均一性が顕著になるものと思われる。MCIについてはPeterson基準の採択例の5年間の経過観察で、AD転化例が35%,固定例(Stable MCI)および正常域に戻った例がともに約30%であるとする最近の欧米での報告がある(Clinical Trial for Alzheimer's Disease, France, 2010)。従ってAD転化例が臨床試験期間中に検体とともに捕捉できる確率は更に低く、限られた例数でMCIの病態エピトープを探索せざるを得ないものと推定される。こうした例については特に検体採取の間隔を短くし、変動解析のポイント数を多く取れるような工夫が必要となろう。AD群については例数の確保は担保されるが、ApoE遺伝子型(イプシロン4アリルを持つ群と持たない群との分画)、および2型糖尿病の合併の有無による分画の計4群内サブグループに分ける必要がある。2. 研究代表者によるバイマーカー候補の探索的研究現時点における解析知見からの洞察から、次年度の対象はマーカーとしての意義が確立している髄液中タウ蛋白・ペプチド分子の捕捉に主力を傾注することにした。具体的にはAD/MCI群髄液での発現が顕著なN端側断片の分子量等から、そのC端側切断部位を内因性酵素切断部位から予測し、その複数の予測部位について上述の立体構造認識抗体を作成し、Sandwich ELISA候補アッセイ系を樹立し、集積している各群髄液検体について小規模な優位性検証を行う。有用なエピトープであることが判明した系については、さらに血漿検体への応用にむけた検討を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度およびそれ以降も、縦断的臨床研究は本質的に同様に継続するが、既述の状況に鑑み、昨年度から次年度に繰り越した研究費の使用計画は、各項目について次の通り。1. 研究分担者による対象症例の採用基準の策定、臨床情報・検体の採取に関して。特にMCI例について病態変容を来した症例については、臨床研究の解析密度を増加させ、例えばBIP-PET等高額な費用を要する画像解析診断法の利用や、検体採取頻度の増加に伴う経費の増額がに対応する。一方、採用基準から脱落した症例の解析対象からの除外(例えばMCI例の正常例への転化等)もありこの程度の研究費で対応できる。2. 研究代表者によるバイマーカー候補の探索的研究に関して。次年度研究費の具体的な解析目標となっているタウ蛋白・ペプチドの進捗状況が大きく影響する。すなわち髄液検体解析について、何種類のエピトープに対してアッセイ系を構築する必要があるかという点と、髄液解析で至適化した抗原について、血漿検体解析に応用するにあたり、どの程度の量の立体構造特異的モノクロナル抗体をスクリーニングする必要性があるかによる。なお翌年度以降の研究費については、次年度中には統計的解析に耐える量の血漿検体は確保できるものと判断されるため、研究費の使用計画に大きな変更があるとすれば翌年後以降(3-4年目)であり、目標が絞られる時期に弾力的に対応したい。
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