2011 Fiscal Year Research-status Report
ポンペ病新生児スクリーニングにおけるアジア人固有の遺伝子多型の影響とその回避策
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23590679
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
奥宮 敏可 熊本大学, 生命科学研究部, 准教授 (50284435)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | ライソソーム病 / ポンぺ病 / II型糖原病 / 新生児スクリーニング / 遺伝子多型 / 血液濾紙 / 酸性α-グルコシダーゼ / 酸性マルターゼ |
Research Abstract |
ポンペ病(II型糖原病)は、リソソームに存在する酸性α-グルコシダーゼ(AαGlu)の遺伝的欠損に起因した常染色体性劣性遺伝病である。平成19年、本症に対する根治療法として酵素補充療法が承認されたことから、血液試料による簡便で信頼性の高い早期診断法の開発が求められている。申請者は、これまで血液濾紙による新生児マススクリーニング法の開発を中心に研究を行ってきた。その結果、日本人健常新生児の約4%がアジア人固有の遺伝子多型(c.1726G>A; C.2065G>A)を持ち、それが酵素診断に直接影響を与え、この遺伝子多型を両アリールに持つ健常新生児(AAホモ接合体)の一部が患者群の活性値と重なることを明らかにした。そこで、本年度は患者群とAAホモ接合体の識別率を改善するための検討を行った。その中で申請者は、血液濾紙を用いて酵素診断する際に反応系に共存するヘモグロビンについて注目し、その影響と回避策を検討した。その結果、ヘモグロビンは酵素反応に影響を与えるのではなく、酵素により人工光合成基質(4-Metylumbellliferyl-α-D-glucopylanoside:4MUαGlc)から加水分解される遊離される4-Metylumlelliferone(4MU)の蛍光強度を減衰させることが判明した。そこで、酵素反応後に様々な方法でヘモグロビンを除去する方法を検討した結果、Ba(OH)2とZnSO4を用いた方法(Ba/Zn法)が最も効率よくヘモグロビンを除去し、酵素反応後の4MUの蛍光強度を増強させることが分かった。このBa/Zn法により患者とAAホモ接合体との識別は顕著に改善された。これにより従来法とBa/Zn法を組み合わせることにより、より効率的な新生児スクリーニングが可能となることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
血液濾紙中に存在する微量のAαGlu活性を人工蛍光基質(4MU-Glc)にて測定するためには、血液ディスクの抽出液の量をできるだけ少ななくし、当該酵素活性をできるだけ高感度に検出する必要がある。しかし、これまでの方法では、ヘモグロビンによる干渉を軽減するため高倍率に希釈する必要があった。申請者らが開発したBa/Zn法は、血液ディスク1枚分に相当する血液試料をそのまま測定することができ、極めて高感度な測定が可能となった。従来法との診断精度を比較するため、1963例の健常新生児血液濾紙をもとに従来法による酵素活性測定と申請者らが開発した遺伝子多型検出法でスクリーニングし、86例のAAホモ接合体と217例のGGホモ接合体ならびに77例のGG/AAヘテロ接合体を得た。これらの症例を対象に抗ヒトAαGlu抗体を用いて作製した模擬患者試料との鑑別診断の精度を評価することが出来た。これらの成果は当初計画していた平成23年度の実験計画に充分対応したものである。
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Strategy for Future Research Activity |
ポンぺ病においては、従来まで血液試料を用いた酵素診断は行えなかった。その理由は、ポンぺ病で欠損するAαGlu活性の至適pH4.0に近似する至適pHをもつマルターゼ・グルコアミラーゼ(MG)活性が好中球中に存在し、そのMG活性がAαGlu活性と重なることに由来する。申請者らはこのMG活性を特異的に阻害する阻害剤を検索し、糖尿病の治療薬の一つであるアカルボースに注目した。そして、従来法の測定条件下でAαGluが阻害されないでMG活性のみが阻害されるアカルボースの濃度(3μmol/L)を決定した。Ba/Zn法では、便宜的に従来法と同じアカルボース濃度を使用したためBa/Zn法におけるアカルボースの至適濃度を詳細に検討する必要がある。よしBa/Zn法の診断精度を高めるためにアカルボースの至適の濃度を、前年度の健常新生児の血液濾紙からスクリーニングして得られた臨床材料を用いて検討する。そして、Ba/Zn法におけるアカルボースの至適濃度を決定する。その他、反応時間や反応温度などについても詳細に検討し、Ba/Zn法の測定精度を最大限まで引き上げる努力を行う。また、血液濾紙を試料としたグリコーゲンの分解活性の測定法も新たな酵素診断法として開発を試み、Ba/Zn法とその診断精度を比較検討する。さらに、なぜAAホモ接合体は病気を発症しないのか、分子生物学的な手法を用いて検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、酵素活性測定法の測定条件の最適化に必要な試薬類である、人工合成基質やグリコーゲン、アカルボースや、その他、酵素反応の場となるマイクロプレートなどの消耗品を購入する。また、AAホモ接合体が病気を発症しない原因を追究するため、患者由来の皮膚繊維芽細胞を培養する試薬一式や、AAホモ接合体が有するバリアンドAαGluの動物細胞発現系を構築するための発現コンストラクト作製試薬一式やそれを細胞に導入するための試薬一式を購入する予定である。
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Research Products
(7 results)
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[Journal Article] Improved assay for differential diagnosis between Pompe disease and acid α-glucosidase pseudodeficiency on dried blood spots2011
Author(s)
Shigeto S, Katafuchi T, Okada Y, Nakamura K, Endo F, Okuyama T, Takeuchi H, Kroos MA, Verheijen FW, Reuser AJ, Okumiya T
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Journal Title
Molecular Genetics and Metabolism
Volume: 103
Pages: 12-17
DOI
Peer Reviewed
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