2012 Fiscal Year Research-status Report
ポンペ病新生児スクリーニングにおけるアジア人固有の遺伝子多型の影響とその回避策
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23590679
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
奥宮 敏可 熊本大学, その他の研究科, 教授 (50284435)
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Keywords | リソソーム病 / ポンぺ病 / II型糖原病 / 新生児スクリーニング / 遺伝子多型 / 血液露紙 / 酸性α-グルコシダーゼ / 酸性マルターゼ |
Research Abstract |
ポンペ病(II型糖原病)は、酸性α-グルコシダーゼ(AαGlu)の遺伝的欠損により、細胞内のリソソームに大量のグリコーゲンが蓄積する代謝異常症である。アジア系人種には固有の遺伝子多型 (c.1726G>Aとc.2065G>Aが同一のアリールに存在する多型: AA)のホモ接合体が約4%存在し、それが血液濾紙を用いた本症の新生児マススクリーニングの診断精度を低下させる要因となっている。今年度は、このAAホモ接合体由来の酵素蛋白質がどういう機序で酵素活性低下をひき起こすのか解析を行うとともに、信頼性の高いポンペ病新生児マススクリーニングの確立を試みた。前年度の研究成果から、AAホモ接合体は細胞内のAαGlu mRNAが低下していることが示された。そこで、AαGlu酵素活性に対する当該遺伝子多型の影響を更に詳細に調べるため、細胞内におけるmRNAの安定性ならびにAαGlu蛋白質の半減期を調べた。その結果、AαGlu mRNAの細胞内安定性に関しては、GGホモ接合体とAAホモ接合体に著しい差は認められなかったが、酵素蛋白質においてはGGホモ接合体に比してAAホモ接合体は顕著な半減期の低下が認められた。以上のことから、AAホモ接合体はGGホモ接合体に比べAαGlu mRNAの発現量が3割程度と低いが、AAホモ接合体の酵素活性値はそれ以上に低下している。これには当該mRNAの安定性の低下ではなく、細胞内におけるAαGlu蛋白質の分解亢進が関与しているものと推察された。さらに、一次スクリーニングで使用する血液ディスクの抽出液の組成に注目し、様々な抽出条件下で診断精度の向上を試みた。その結果、クエン酸-リン酸緩衝液(pH6.0、0.1%TritonX100含有)が最も良好な抽出効率を示し、この抽出液を用いることで従来法に比べAAホモ接合体群と患者群の識別率は顕著に改善された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、血液濾紙を用いたポンペ病の新生児スクリーニングで問題となるヘモグロビンの干渉を軽減することで患者とAAホモ接合体の識別率を顕著に改善したBa/Zn法を確立したが、本法はやや操作が煩雑であるため一次スクリーニングとしては導入し難いものであった。今年度は、まずAAホモ接合体の細胞内AαGlu活性低下の分子メカニズムを解析した。その結果、AAホモ接合体はAαGlu mRNA安定性には異常は認められないものの、その発現量自体が低下していることが判明した。また、その翻訳酵素蛋白質の細胞内半減期が低下していることも明らかとなった。一方、ポンペ病の早期診断に関しては、血液濾紙の抽出条件を改良した新規一次スクリーニング法を確立した。この新規一次スクリーニングと二次スクリーニングとしてのBa/Zn法を組み合わせることで、より診断精度の高い新生児スクリーニングのアルゴリズムを確立することができた。また、当初の課題であったBa/Zn法に用いるアカルボースの至適濃度も臨床材料を用いて決定することができた。現在、既にこの新規スクリーニングシステムを用いて、日本人を対象としたポンペ病の新生児スクリーニングを開始している。これから症例数を重ねることで適切なカットオフ値の設定が可能となり、日本人における本症の発症頻度が明らかになるものと予想される。これらの成果は、今後患児の早期発見、早期治療に大きく貢献ことが期待される。以上の成果は当初計画していた平成24年度の実験計画に充分対応したものである。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに、AAホモ接合体と活性低下の分子メカニズムを解明するとともに、AAホモ接合体と患者を識別できる新たな測定法(Ba/Zn法)を確立した。また、本症診断のための一次スクリーニング法の改良を行い、診断効率の良い一次スクリーニング改良法も確立した。今後は、これまでに確立した一次スクリーニング(改良法)と二次スクリーニング(Ba/Zn)法を組み合わせて、効率の良い新生児スクリーニングのアルゴリズムを構築することが必要である。そこで、次年度からは、被験者となるクライアントからのインフォームドコンセントを確保したうえで、実際の臨床材料を測定して最適なカットオフ値を設定し、より実践的なスクリーニングプログラムを確立することを目的として研究を実施する。本臨床研究の実施にあたっては、実験実施母体である熊本大学の倫理委員会から実験実施の承認が既に得られており、倫理的な問題はクリアーしている。そして、平成24年度後半からは、その臨床研究に向けた測定技術上の諸問題について既に検討をはじめており、平成25年度からは、実際の臨床材料を用いて、ポンペ病の新生児スクリーニングを実施する予定である。研究対象となる件数は最低でも4~5万件となるため2年間程度と長期の研究期間が必要と思われる。これら大量の試料測定するにあたっては、収支状況報告書の次年度使用額に記した額に相当する、酵素活性測定試薬ならびに遺伝子多型解析のための経費が必要である。しかし、その研究成果から得られる臨床的意義は非常に大きいものと考えられる。より早期の診断が行われることにより患者への早期治療が実現し、また、日本人における本症の発症頻度が正確に把握することが可能となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度からは、実際の臨床材料を大量に測定することから、使用する研究費の多くは酵素活性測定に関わる費用に使用されることとなる。具体的には、人工合成基質やグリコーゲン、アカルボースや、その他、酵素反応の場となるマイクロプレートなどの消耗品を購入する。また、スクリーニングにより絞り込まれた症例は、その遺伝子多型を調べることが患者の診断に重要であることから、当該遺伝子多型の解析の費用にも充当されることとなる。また、最終的な確定診断には、皮膚由来の培養繊維芽細胞中のAαGlu活性を測定する必要も生じることから、細胞培養に必要な器具類も購入する必要がある。その他、臨床材料の輸送費や試料分析に関わる消耗品等の購入が必要となる。
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Research Products
(7 results)