2013 Fiscal Year Research-status Report
ポンペ病新生児スクリーニングにおけるアジア人固有の遺伝子多型の影響とその回避策
Project/Area Number |
23590679
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
奥宮 敏可 熊本大学, 生命科学研究部, 教授 (50284435)
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Keywords | リソソーム病 / ポンペ症 / II型糖原病 / 酸性α-グルコシダーゼ / 新生児スクリーニング / 血液濾紙 / 遺伝子多型 / 酸性マルターゼ |
Research Abstract |
ポンペ病(II型糖原病)は、酸性α-グルコシダーゼ(AαGlu)の遺伝的欠損に起因する遺伝性代謝病である。本症では細胞内AαGlu活性の完全欠損あるいは著減により、筋や肝を中心とした全身臓器にグリコーゲンが蓄積し、様々な症状を呈する。我々の研究室では、アジア系人種においては固有の遺伝子多型(c.1726G>Aとc.2065G>Aが同一アリールに存在する多型でAαGlu活性が低下するもの:AA)のホモ接合体が約4%存在し、それが血液濾紙を用いた本症の新生児スクリーニングに影響し、診断精度を著しく低下させることを報告してきた。また、このAAホモ接合体による影響を受けない血液濾紙を用いた高感度測定法(Ba/Zn法)を開発し、二次スクリーニングとして用いる本症のための新たな新生児スクリーニングのためのアルゴリズムを構築した。この方法を用いて、熊本大学医学部小児科との共同研究で、2013年4月より、日本で初めてのポンペ病の新生児マススクリーニングを本格的に開始した。現在、2万例以上の新生児のスクリーニングを行っており、既に培養皮膚繊維芽細胞による確定診断で1例の遅発型ポンペ病を見出している。この症例のAαGlu活性低下の原因を解析するため当該患者のGAA遺伝子解析を行い、片側のアリールに原因遺伝子変異を特定した。その変異はアジア系人種には極めて稀なものであり、スプライス異常を起こすものであった。もう片側の変異は、複数の塩基置換が相乗的に影響し合って顕著な活性低下をもたらすものと予想されたため、患者遺伝子に認められた塩基置換を持つ発現コンストラクトを作製し、発現実験によりその組み合わせと活性低下の関係について解析を進めている。この結果が明らかになれば、これまで原因遺伝子変異は1つであるという概念を変えるものであり、今後、本症を含む遺伝性代謝病の分子メカニズムを考える上で重要な情報となるものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013年4月から開始した日本人を対象としたポンペ病の新生児スクリーニングにより、多くのAAホモ接合体が患者活性領域に存在することが判明し、GG/AAヘテロ接合体の多くも二次スクリーニングで陽性となることが明らかとなった。2万例を超す症例をスクリーニングする過程でカットオフチ値の設定や確定診断のための培養皮膚繊維芽を用いた酵素診断の有用性を確認することができた。線維芽細胞の培養条件により、細胞内AαGlu活性が変動すること示され、培養条件を統一することが極めて重要であることも判明した。これらの条件をコントロールすることで、より精度の高い新生児スクリーニングが実践できることを確信した。これらの成果は、今後、患児の早期発見・早期治療開始に大きく貢献するものと期待される。以上の研究成果は、当初計画していた平成25年度の実験計画に充分対応するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度から本格的に開始したポンペ病の新生児スクリーニングは順調に進んでおり、既に患者も2例発見している。今後、このスクリーニングは5年以上継続されることが予想され、最終的には10万例以上の新生児をスクリーニングすることとなると予想される。その過程で、血液濾紙を用いた多型解析や培養皮膚繊維芽細胞による確定診断が重要となってくるものと思われる。これらの作業は、全て我々の研究室で実施することとなっており、今後も大量検体の処理が必要と思われる。それにともない、収支状況報告書の次年度使用額に記した額に相当する、酵素活性測定のために試薬類や遺伝子多型解析に費やされる諸経費が必要である。しかし、本研究を進めることで、最終的には、日本人におけるポンペ病の各種病型の正確な発症頻度が明らかになり、この熊本大学における新生児スクリーニングシステムが、アジアにおける本症の診断システムのモデルとなるものと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
日本人を対象としてポンぺ病の新生児スクリーニングを平成25年4月より本格的に開始し、すでに2例の患者を見出している。それらの患者から皮膚を頂き培養繊維芽細胞を樹立して細胞内での変異酵素の解析を行う予定であったが、皮膚からの培養繊維芽細胞の樹立に予想以上に時間がかかり、細胞レベルでの分子生物学的解析が実施できなかった。そのため、ウエスタンブロットや細胞の免疫二重染色等の実験を行うことができなかったので、その目的のために購入予定であった抗体や人口蛍光基質、その実験に関わるその他の消耗品も購入することができなかったので当該経費を使うことができなかった。 患者由来の培養皮膚線維芽細胞は、2例中1例は既に樹立できたので、昨年実施するはずだった細胞レベルでの分子生物学的実験を今年度実施する。したがって、当初は昨年度購入予定だった実験試薬等は今年度に購入する。残りの1例の患者細胞の樹立は、上記の実験と並行して行うこととする。
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Research Products
(6 results)