2012 Fiscal Year Research-status Report
疼痛慢性期における大脳皮質帯状回からの下行性抑制系調節に対するプリン受容体の役割
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23590706
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
右田 啓介 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10352262)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上野 伸哉 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00312158)
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Keywords | 慢性疼痛 / P2X受容体 |
Research Abstract |
本研究は,疼痛の慢性化における上位中枢調節機構の解明を目的としている。ガン、糖尿病あるいは神経損傷などにより生じる慢性疼痛は、現在使用されている鎮痛薬が効果を示さない重篤かつ難治性の疾患が存在し、早急に新規治療法の確立または新薬の開発が必要である。これまでの実績としては,坐骨神経部分結紮2週齢の大脳皮質前帯状回V層錐体細胞における抑制性伝達に対して,自発性抑制性シナプス後電流の大きさ,振幅数,時定数に有意差は確認できなかった。また,坐骨神経結紮によるアロディニアは脊髄でのGABA応答が興奮性に転じていることが一因であると考えられている。そこで,GABAA受容体γサブユニットの輸送に関係しているPhospholipase C-related inactive protein (PRIP-1)を欠損した(PRIP-1-/-)マウスを用いて脊髄での機能的変化を検討した結果,PRIP-1-/-マウスでは侵害性刺激や炎症性刺激による痛覚過敏がみられた。PRIP-1-/-マウスの脊髄における中枢性GABAA受容体の主構成サブユニットα1,β2,γ2の発現に関しては,脊髄後角でのγ2サブユニットの減少およびβ2サブユニットの発現増加が見られた。さらに,PRIP-1-/-マウスの脊髄スライスを作製し,パッチクランプ法を用いて脊髄後角ニューロンにおける自発性抑制性シナプス後電流を記録した結果,wild-typeで見られるジアゼパムによるGABAA受容体電流の減衰時間延長作用が消失していることが見出された。以上の結果から,我々は脊髄におけるGABAA受容体サブユニット構成の変化が痛覚異常を引き起こす原因の一つになっている可能性を証明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
痛覚伝達は, 脊髄後根神経節から脊髄を介して脳内に達する。脳内では,視床から大脳皮質体性感覚野あるいは帯状回や島皮質へ情報が送られる。我々は慢性疼痛発症時の帯状回における抑制性伝達の変化の有無を検討するために,電気生理学的手法を用いて帯状回II-III層およびV層錐体細胞における自発性抑制性シナプス後電流を記録した。その結果,帯状回での自発性抑制性伝達に大きな変化は見られなかった。これまでに慢性疼痛での帯状回の興奮性伝達は亢進していると報告されており,この現象は抑制性伝達の抑制によるものではないことが推察される。しかしながら,脊髄では抑制性伝達物質のGABAによる応答が興奮に転じていることが知られている。そこで,GABAA受容体の輸送に関与しているPRIP-1のノックアウトマウスを用いてシナプス伝達の変化を脊髄で観察した。現在までに,慢性疼痛における中枢調節機構に深く関与している抑制性伝達物質であるGABAが作用するGABAA受容体についてPRIP-1-/-マウスを用いて検討した。このマウスでは,痛覚過敏が生じており脊髄でのGABAA受容体サブユニットの発現変化やGABA応答の変化などが見出された。このように,慢性疼痛の発症メカニズムにGABAA受容体サブユニット構成の変化が深く関与していることを明らかにすることが出来たことから,本研究はおおむね順調に進展していると判断した。しかしながら,慢性疼痛における大脳皮質帯状回でのP2X受容体の関与について詳細な検討が出来ていないので,次年度にこれらの点について検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,慢性疼痛における帯状回での興奮性伝達を担う受容体の発現変化について免疫染色法およびウエスタンブロット法を用いて検討する。特に,本研究課題の標的因子であるP2X受容体は脊髄後根神経節や脊髄後角で発現変化が確認されているが、高次中枢では大脳皮質等に分布は確認されているものの機能がほとんど明らかにされていないので,慢性疼痛と帯状回P2X受容体の関係を検討する。また,下降性抑制系の中脳水道灰白質や起始核の視索前野と帯状回の関係およびP2X受容体の関わりが未だ検討できていないので,中脳水道灰白質および視索前野のP2X受容体分布およびシナプス伝達の変化を分子生物学的手法および電気生理学的手法を用いて検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度も引き続き慢性疼痛モデル動物を用いて研究を行うため,マウス購入およびモデル動物作製に必要な消耗品の購入に使用する。また,慢性疼痛モデルの帯状回,中脳水道灰白質あるいは視索前野におけるP2X受容体の発現やリン酸化の変化等を検討するために必要な各抗体や試薬の購入に使用する。さらに,本研究の成果を薬理学会年会や北米神経科学会で発表するための旅費に使用する。
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Research Products
(6 results)