2011 Fiscal Year Research-status Report
神経伝達調節レベルの慢性疼痛の病態解明と薬理学的解析
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23590720
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
田辺 光男 北里大学, 薬学部, 教授 (20360026)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 神経障害性疼痛 / 一酸化窒素 / 下行性疼痛抑制機構 / シナプス伝達 / C-線維誘発性フィールド電位 / 脊髄スライス / グリシントランスポーター / 認知機能 |
Research Abstract |
1.上位中枢において一酸化窒素NOは下行性ノルアドレナリン神経を抑制することで疼痛維持に関与することを以前報告しているが、今回、脳幹スライス標本を用いてノルアドレナリン神経核である青斑核細胞へのGABA性抑制性神経伝達に及ぼすNOドナーSNAPの影響を検討した。青斑核細胞において記録したGABA性の自発性抑制性シナプス後電流sIPSCsに対し、SNAPは振幅には作用せずに頻度を増加させた。従って、NOは抑制性入力を増加させて青斑核細胞を抑制して下行性ノルアドレナリン神経を抑制する可能性が示された。さらにNOの下流シグナルとして、NO-cGMP経路を明らかにしたが、PKGの寄与はないことが判明した。2.ラットの脊髄後角から記録するC-線維誘発性フィールド電位とその長期増強(LTP)に対するグリシンやその取り込みを担うグリシントランスポーター(GlyT)阻害薬の影響を検討した。グリシンとGlyT2阻害薬ALX1393は誘発後のLTPに対して抑制作用を示すことを明らかにした。3.神経障害性疼痛患者では認知機能障害を伴うことがしばしば報告されており、神経障害後のマウスでも認知機能障害を示すことを新規物体認識試験において以前報告した。すなわち、神経障害後では新規物体に対する探索時間が既知物体と同程度となってしまう。今回、神経障害後のマウスにアルツハイマー病治療薬ドネペジルを投与したところ、新規物体に対する探索時間が延長し、認知機能改善効果を持つことが示された。4.成熟マウスの後根を付した脊髄スライス標本でA-線維誘発性の興奮性シナプス後電流EPSCsを記録し、そのpaired-pulse ratioに対し、選択的セロトニン再取り込み阻害薬フルボキサミンは増加作用を示した。すなわち、以前報告したフルボキサミンによるEPSCs抑制作用がシナプス前性の効果であるさらなる根拠を提供した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.以前の行動実験で脳室内投与したNO合成酵素阻害剤が下行性ノルアドレナリン神経を介して神経障害性疼痛緩解作用を示すことを報告した。すなわち、NOは上位中枢に作用して下行性ノルアドレナリン神経を抑制して疼痛維持に寄与する。シナプスレベルでのその機序解明を目指して脳幹スライス標本を用いた電気生理学実験を展開し、NOが青斑核において抑制性入力を増加させることを示した意義は大きいと考えている。一方、NOの下流シグナルについて、行動実験で示されていたNO-cGMP-PKG経路ではなく、NO-cGMP経路ではあるがPKGは関与しないという結果を得たことで、NOによる疼痛維持経路の多面性が表面化した。2.神経障害性疼痛の治療において、脊髄レベルでのグリシンなどの抑制性増強は重要である。今回、脊髄での中枢性感作のシナプスモデルと提唱されているC-線維誘発性フィールド電位のLTPに対するグリシンやGlyT2阻害薬の抑制効果が示された意義は大きいと考えている。一方、交付申請書には記載した脊髄スライスを用いたグリシン性神経伝達に対するGlyT阻害薬の影響については現在検討中である。3.神経障害性疼痛モデルマウスを用いた新規物体認識試験において、GlyT1阻害薬が認知機能改善効果を示すことを以前報告している。アルツハイマー病治療薬ドネペジルは神経障害性疼痛の緩解作用を有することから、今回、神経障害後の認知機能改善効果を示したことは臨床上意義が大きいと考えている。4.選択的セロトニン再取り込み阻害薬フルボキサミンの薬理作用は以前から脊髄スライス標本を用いて検討してきたが、今回、一時求心性線維からの疼痛シグナル抑制機序がシナプス前性であることを示す根拠をさらに補強することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.現在までの達成度の項目でも述べたように、青斑核でのNOによるGABA性入力増強作用において、NO-cGMPの下流シグナルにPKGが関与しない結果が得られており、行動実験で明らかにしたNOによる疼痛維持に関わるNO-cGMP-PKG経路とは一致しないため、検討すべき残された課題となった。行動実験では探知できなかったcGMP以下の別経路を探索することはNOによる疼痛維持機構を解明する上で重要であると位置付け、今後の研究の課題の一つとして展開したい。2.交付申請書には記載した脊髄スライスを用いたグリシン性神経伝達に対するGlyT阻害薬の影響については現在検討中であり、継続課題として扱う。具体的には、成熟マウスの脊髄スライス標本を作製し、ホールセル記録した後角ニューロンにおいてグリシン性の抑制性シナプス後電流を誘発してGlyT阻害薬の影響を検討する。また、微小抑制性シナプス後電流の対する作用も検討する。3.オキシトシンの鎮痛効果の脊髄での作用機序は未解明な部分が多く、ラットの脊髄後角から記録するC-線維誘発性フィールド電位とそのLTPへの作用を検討開始しており、本年度はそれをまとめると共に、マウス脊髄スライス標本を用いてシナプス伝達に対する作用についても検討開始したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.パッチクランプ法を用いた電気生理学研究において、記録電極の保持やアプローチには三次元のマニピュレーターが必須である。現在使用しているマニピュレーターは購入後10年以上が経過し、正確な動作が難しい状況となってきており、今後の研究進行のマイナス要因に十分になりうると危惧している。そこで、本年度はマニピュレーターを更新するために購入する。2.スライス標本作製のための動物、試薬購入などにも研究費を使用する。
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Research Products
(7 results)