2011 Fiscal Year Research-status Report
酪酸菌を用いたNASHの進展・発癌阻止を目指した予防法の開発
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23590755
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
渡辺 哲 東海大学, 医学部, 教授 (10129744)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | NASH / CDAA食 / 脂質過酸化 / エンドトキシン |
Research Abstract |
人のNASHモデルとして、ラットにコリン欠乏アミノ酸置換食(CDAA食)を用いた。Fisherラット(6~7週齢)にCDAA食を投与し、2週間、2ヵ月、4ヵ月目にラットを屠殺し、血液(尾静脈及び門脈)、肝臓、大腸、糞便を採取した。なお、CSAA食投与群を対照として比較検討した。脂肪沈着はOil Red染色で、線維化はAzan染色で、脂質過酸化は4-HNE陽性で判定した。CDAA 食投与2週間目には肝臓には脂肪沈着が著明であった。CDAA食2ヵ月目では肝線維化がみられ、4ヵ月目で肝硬変に進行した。画像解析では、CDAA食投与群では脂肪沈着、肝線維化、脂質過酸化が顕著であった。また、前がん病変とされるGST-Pは、CDAA食群で2ヵ月目より小コロニーとして観察された。2ヵ月目の血液検査では、CDAA群ではCSAA群と比べ、ALTの高値、インスリン値の高値、HOMA-IRの高値を認めた。また、門脈血中のエンドトキシンは有意に高値であった。さらに、肝組織のホモジナイトを用いた測定で、CDAA群では脂質過酸化のマーカであるMDAやTNF-αの高値を認めた。CDAA食投与による脂肪肝からの肝病変の進行阻止(NASH、肝発癌阻止)をめざし、CDAA食の粉末に酪酸菌の原末を10%の割りでまぜて投与し、その効果を検討した。酪酸菌群の糞便検査では、全例腸管内での酪酸菌の発芽増殖が確認された。酪酸菌群では、CDAA群と比べ、2ヵ月目の脂肪沈着や肝線維化が著明に抑制され、脂質過酸化の指標である4-HNEやMDAも有意に低かった。血液検査では、ALTやHOMA-IRが有意に低く、門脈のエンドトキシンも有意に低値であった。以上の結果より、CDAA食投与による脂肪肝からの肝病変の進行に、酸化ストレス、腸管でのエンドトキシン産生が関与し、酪酸菌の経口投与は、その過程を抑制し、肝病変の進展を阻止した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、CDAA食投与によるNASHモデルを作成し、肝病変進展機序の解明とそれに基づく病変進行阻止を目指した予防戦略の樹立が目的である。1年目にはCDAA食投与2週間、2ヵ月、4ヵ月のラットより血液、肝臓、大腸、糞便の採取などを行い、当初の計画通り肝組織や血液を用い、肝病変の進行具合を確認するとともに、酸化ストレス、エンドトキシン、炎症の面より検討した。本年度は4ヵ月目まで解析したが、解析内容や結果は、ほぼ計画通りである。さらにCDAA食投与2週間目の脂肪肝の時期より酪酸菌を経口投与し、NASHの進行阻止効果を検討した。酪酸菌投与によるNASH進展阻止効果は、肝組織の検討で評価しその結果は予想通り顕著にみられた。その機序として酸化ストレスの抑制、エンドトキシンの産生抑制、炎症抑制が明らかであったが、これは当初の想定通りであった。しかし、さらに酪酸菌投与により肝脂肪の減少やインスリン抵抗性の改善といった予想外の効果が認められ、次年度の研究の方向の修正が必要となった。さらに、酪酸菌投与による肝病変進展阻止効果が予想以上であったため、当初CDAA食投与12ヵ月目に肝臓を抽出し、肝発癌および酪酸菌投与によるその予防効果を判定する予定であったが、肝臓癌が確実に形成される15ヵ月目に検討することに変更した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、CDAA食投与によるラットNASHモデルにおける酪酸菌経口投与の、肝病変進行阻止の機序の解明に重点を置く。現象面では酸化ストレスの抑制、肝線維化抑制、GST-P陽性からみた肝発癌阻止が認められたが、その機序の解明は未だ十分行われていない。また、脂肪沈着の減少やインスリン抵抗性改善といった酪酸菌経口投与による想定外の効果が観察されたが、これに関しては、これまでの研究計画には含まれていなかった。そこで次年度では、酪酸菌によるNASH進展阻止を、肝臓における酸化ストレス抑制、肝線維化抑制効果に加え、脂質代謝、インスリンシグナル、炎症など多角的に検討する。さらに、これらの効果を一元的に制御する候補遺伝子としてNrf-2に的を絞り、酪酸菌の肝病変進展阻止効果を解析する。また、酪酸菌は腸内細菌の一種であることより、門脈血エンドトキシン減少に関与する腸内細菌叢変化や大腸粘膜の変化も検討する。肝発癌モデルとして、当初CDAA食投与12ヵ月目のラットより肝臓を抽出予定であったが、酪酸菌投与による肝病変進展阻止効果が顕著であったため、肝臓癌が確実に発生する15ヵ月のモデルにおいて、実際の肝発癌に対する酪酸菌の効果を検討することに変更するとともに、その発癌阻止の機序を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の研究計画で、CDAA食投与1年目のラットからも肝臓、血液等を採取する予定であった。しかし、酪酸菌経口投与の肝病変進展阻止が顕著であったため、肝発癌に対する予防効果を明らかにする目的で、CDAA食による肝癌が確実に発生する15ヵ月目に肝臓を抽出することにした。従って、酪酸菌投与群も15ヵ月まで延期したため、肝発癌やその阻止に関する解析は次年度に行う。次年度の研究は、肝臓における酸化ストレス、炎症、肝線維化、脂質代謝、インスリンシグナルに対するCDAA食及び酪酸菌経口投与の影響を、主にWestern blot法、酵素抗体法、共晶点レーザー顕微鏡、Real-time PCRによる解析を中心に行う。そのための種々の抗体を購入する。特に、これらの効果のkeyとなるNrf-2を中心に解析を行う。また、酪酸菌の産生するSodium butyrate (SB) の効果を明らかにする目的で、培養ヒト肝癌細胞株HepG2にSBを添加し、SB のシグナル伝達を解析する。酪酸菌による肝発癌阻止効果は、CDAA食群、およびCDAA+酪酸菌群のそれぞれ15ヵ月目のラットから肝臓を抽出し、肝の腫瘍の数、大きさを計測し、比較検討する。
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