2012 Fiscal Year Research-status Report
東アジアにおける成人T細胞白血病1型の起源、進化的変遷、宿主への適応
Project/Area Number |
23590800
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
江口 克之 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (30523419)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
和田 崇之 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (70332450)
柳井 徳磨 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (10242744)
|
Keywords | 分子系統学 / 分子疫学 / 人畜共通感染症 / HTLV-1 / STLV-1 |
Research Abstract |
新たに入手した対馬、および隠岐の検体のenvの配列と、GenBank に登録されている世界各地のHTLV-1/STLV-1株の相同配列を合わせて、アラインメントを行う。得られたデータセットを元に最尤法、Bayesian法を用いて系統樹を構築した。さらに、Bayesian 分岐年代推定法により、主要なウイルス系統の分岐年代の推定を試みた。その結果、日本には3つの系統が存在することが分かった。「JPN」系統はほぼ日本固有の系統である。「EAS」系統は日本および中国のウイルス株から成る。日本から得られた株の大半はこれらのいずれかである。いっぽう、「GLB1」系統は世界各地から知られ、日本にもわずかながら存在する。分岐年代推定の結果は「JPN」および「EAS」は縄文時代から日本に存在していたことが示唆された。 平成23年度に微量DNAの抽出と増幅の実験系は確立したものの、数十年前の骨標本からのβグロビン遺伝子回収率が低いため、それより古い時代の骨断片からのHTLV-1プロウイルスDNAの回収と配列決定は困難であると考えられた。そのため、本年度は昨年度に確立した技術を応用して、結核菌の古病理標本を対象とした分子疫学的な研究を行った。1966年~1980年にNHO近畿中央胸部疾患センターにおいて臨床診断で「結核」または病理診断で「結核腫」もしくは「結核腫疑い」とされた病理組織207ブロック(パラフィン包埋)のうち、明らかに結核腫を示唆する組織学的所見を有した102ブロックについてDNA抽出を行った。抽出されたDNAはIS6110および北京型特異的SNPを含むゲノム領域を標的としたPCRを行い、結核菌DNAの有無を確かめた。その結果、62ブロック(60.8%)から結核菌遺伝子が検出され、当時の結核菌の遺伝子型別を同定し、流行株を推定する手がかりを得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はHTLV-1の起源に関連する論文1報が印刷となった。本ウイルスが日本に渡来した時期と経路について重要な知見が得られた。ひきつづき長崎県対馬、島根県隠岐由来の検体の収集および分析を進めており、日本海側に散在する集積地に見られるウイルスのサブグループが明らかになりつつある。 平成23年度に確立した微量DNAの抽出と増幅の実験系を応用して、結核菌の古病理標本に研究対象を対象とした分子疫学的な研究を行い、新たな知見が得られた(学会発表1回)。 一方で、サブテーマ「宿主への適応」に関して、本年度に予定していたSTLV-1陽性ニホンザルの臍帯血、産道内分泌物、母乳、唾液等の分析はサンプルが入手できなかったことにより実施できなかった。一方で、霊長類に感染する非定型抗酸菌症やEBウイルスによるリンパ腫の病理学的知見が集まった(論文1報)。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度であるため、サブテーマ「HTLV-1 の起源」と「ウイルス株の歴史的変遷」に関しては、今までに得られたデータの解析、研究成果の取りまとめと成果の発表を中心に行う。また、日本国内におけるHTLV-1ウイルス株の収集と系統解析は引き続き行う。サブテーマ「宿主への適応」に関しては、STLV-1陽性個体からの臍帯血、産道内分泌物、母乳、唾液の収集が難航しているが、引き続き検体収集に努める。Realtime PCRを用いたウイルス定量系は研究分担者の所属する長崎大学に構築済みであるので、検体が集まり次第、解析を行う。 代表・分担・連携研究者が参集し、3 年間の研究成果に関する総合討論を行う。さらに、本研究により得られる様々な研究成果や、蓄積される多くの知見やノウハウを踏まえ、新たな研究の展開を探る。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は最終年度のため、研究費はおもに結果の取りまとめのための打合せの開催、研究成果の公表のために使用する。現段階で決まっている旅費等の支出計画は、以下の2件である 柳井(研究分担者)が主催する「第22回サル類の疾病と病理のための研究会ワークショップ」にて、江口(代表者)が「特徴的な感染症:STLV(仮題)」を発表するための旅費(2013年7月6日、岐阜)。 代表・分担・連携研究者が参集し、3 年間の研究成果に関する総合討論を行うための旅費(2013年11月、長崎大学)。 また、サブテーマ「HTLV-1 の起源」と「宿主への適応」に関しては、次年度にも継続して検体の解析を行うため、実験消耗品を多少購入する予定である。
|