2012 Fiscal Year Research-status Report
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23590844
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
塚 正彦 金沢大学, 医学系, 講師 (00272956)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大島 徹 金沢大学, 医学系, 教授 (40183024)
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Keywords | 血管壁脆弱性 |
Research Abstract |
平成23~24年度は法医診断を目的とした大動脈、頸動脈、脳動脈及び冠動脈の組織材料、血清及び脳脊髄液等の採取を行い、法医解剖事例の8割程度に相当する80例で新鮮な血管組織の採取及び形態の詳細な解析に成功した。その際、従来年齢推定の指標とされていた大動脈起始部幅の長さを測定と並行しながら行った。また、本研究は臨床と法医実務の架け橋を模索する目的も有するため、生前の病歴の聴取を徹底した。さらに死亡状態で発見された事例でも死後画像検索を積極的に利用して、可及的に生前の病態把握を試みた。その結果、病理組織学的検索により、血管壁組織脆弱性をもたらす主な病態は脳血管以外の動脈では粥状硬化症であることを再確認した。動脈粥状硬化症の危険因子として知られる糖尿病、高血圧、高脂血症等の他に血管壁組織の脆さに間接的であれ影響を与える病態に注目し、高血圧に影響を与える潜在的な続発性アルドステロン症の存在を予想した。すると潜在的高血圧が疑われる例では、脳動脈、特に前大脳動脈及び中大脳動脈の精査で小動脈瘤を含めた場合その存在する確率は40%を越えていた。また、法医解剖は基本的に全身解剖であることを踏まえて、ホルマリン固定後の全身諸臓器の精査を施行したところ、死因に間接的影響を与える良性・悪性腫瘍を見つけることができた。現在、生前に治療を受けることなく経過した悪性腫瘍近傍の血管、動脈粥状硬化性病変及び脳動脈瘤の組織病変数例が検索可能な状態にある。 検査結果として得られた死因の決定は、個々の事例の鑑定結果として還元された。その一方で血管組織形態に基づいた新規の法医学的年令推定方法の開発を目指して、測定値のデータベース化を継続している。 法医学における病理組織学的検査応用の一環として、人体病理学的手法さらには動物モデルによる再現実験を行い論文として発表した(各々2013年FSI ; 2012年JFLM)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
<平成23年度> 1)計画した組織採取を開始した。2)中毒学の分野ではあったが、病理組織学的検査を始めとする人体病理学的手法さらには動物実験を以て再現実験を行うことに成功した(2012年8月論文)。 <平成24年度> 3)平成23年度~24年度にかけて、計画した組織採取がおおむね達成された。4)申請者が所属する施設では23年度~24年度にかけて施行された司法解剖は130体であるが、その内の31.5%(41/130)の事例が「身元不明死体」の状態から開始されている。本研究の柱の一つである身元不明死体の年令推定を、血管壁の内膜肥厚の程度を参考に行い、その後判明した実際の年齢と比較的良好に相関していることが判った。身元不明死体はその後75.6%(31/41)で身元が判明して実際の年齢を知ることができた。10事例が身元不明(殆どが水中死体)のままであるが、そのうち2例は完全に白骨化するなどして血管組織の採取が不可能であったものである。動脈硬化の進んだ部分では、内因性急死の死因を確定、あるいは内因が関与する程度についての資料と成り得た。水中死体のおける高所からの転落について事例を集めて論文化したが、その際には心臓死でないことを冠状動脈の精査で明らかにしたうえで検討した(2013年3月論文)。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度~24年度採取された材料に3年目に採取された材料を加えて、独自の方法論での生化学的データの蓄積を計る。独自の方法は、1)ゼラチン基質を添加した従来のSDS電気泳動法に基づいたザイモグラフィー及び2)特許申請済みのゼラチンゲルin situ ザイモグラフィーの組織解析の組み合わせである。今年度はこれらを組み合わせた総合的ゼラチナーゼ活性測定のヒト材料への応用を推進する予定である。また、慢性疾患の状態を評価するさらなる手段として、個々の事例について新規に脳脊髄液採取及びデータベース化を開始する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
独自の方法論の一部に、凍結組織切片の作成が必要となる。初年度の計画にある検査の質即ち感受性と特異性の向上を計るため、現在大学内において共用可能なもので代用することから本計画は開始した。平成23年度~24年度で検査の質の向上に一定の成果を見いだしたが、次のステップとなる診断結果を送付するサービスにおいては、サービス需給者のニーズに応じて使用機材の信頼度を上げる必要があり、コンタミネーションを避ける目的も兼ねて本研究専用のクライオスタットの選定が検討されたが、平成25年度では、初年度の成果を踏まえた上での、一層本研究にフィットした専用のクライオスタットの選定を検討が望ましいと判断した。したがって平成23年度~24年度に生じた予算の未使用分は平成25年度でのクライオスタット購入に充てる予定である。
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