2012 Fiscal Year Research-status Report
骨リモデリングにおけるRA系関与機構とARB骨保護作用:老年者高血圧治療の新概念
Project/Area Number |
23590902
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Research Institution | Morinomiya University of Medical Sciences |
Principal Investigator |
青木 元邦 森ノ宮医療大学, 保健医療学部, 教授 (00346214)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中神 啓徳 大阪大学, その他の研究科, 教授 (20325369)
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Keywords | レニンーアンジオテンシン系 / 骨粗鬆症 / 骨折修復 / アンジオテンシンII受容体拮抗薬 |
Research Abstract |
高血圧患者に対する降圧剤投与と骨折リスクの相関については種々の報告が散見されるが、血圧調節機構あるいは降圧剤による血圧調節機序が骨代謝に及ぼす直接的な影響については未だ詳細な検討はなく、その分子メカニズムは明らかでない。そこで本研究では主たる血圧調節機構であるレニンーアンジオテンシン系(RA系)と炎症性サイトカインを制御する転写因子NFkBの連動に焦点を置き、アンジオテンシンIIあるいはアンジオテンシンII受容体拮抗薬投与が骨代謝さらには骨折治癒機転に及ぼす影響について、モデル動物における分子生物学的手法を用いて検討を行ってきた。 これまでヒト臨床研究(高血圧・閉経後女性患者に対するアンジオテンシン受容体拮抗薬の骨粗鬆症予防効果に関する検討)において、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(オルメサルタン)とRA系に影響しないカルシウム拮抗薬(アムロジピン)を用いた各種薬剤の骨密度・各種骨代謝マーカーへの影響・差異を時系列的に評価したところ、オルメサルタン投与群で骨密度の低下が抑制されることが示され、アンジオテンシン受容体の阻害により骨密度が保たれることが示唆された。 またアンジオテンシンIIを投与する高血圧疾患モデルに骨折を発生させ、経時的に骨折部を観察したところ、修復時に形成される仮骨組織における骨基質蛋白の遺伝子発現には大きな変化はなかったものの、仮骨内に形成される軟骨組織において、軟骨細胞の肥大化の促進とアポトーシスの抑制がみられ、これにより内軟骨性骨化が著しく阻害され、骨折修復は遅延することが示された。さらにこれらの現象はアンジオテンシンII受容体拮抗薬(オルメサルタン)の投与により改善された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までにARB(オルメサルタン)とRA系に影響しないカルシウム拮抗薬(アムロジピン)を用いたヒト臨床研究(高血圧・閉経後女性患者に対するアンジオテンシン受容体拮抗薬の骨粗鬆症予防効果に関する検討)において、各種薬剤投与群での骨密度・骨基質蛋白を含む各種骨代謝マーカーについて時系列的に評価したところ、オルメサルタン投与群で骨密度の低下が抑制されることが示されていた。これはARBが降圧剤としてだけではなく、骨保護作用をもつことを示唆する結果となり、これは臨床上きわめて有用な知見であると考える。また高血圧疾患モデル動物に骨折を発生させ、経時的に骨折部を観察したところ、骨折修復時にみられる軟骨細胞の肥大化促進およびアポトーシスの抑制により、内軟骨性骨化が著しく阻害され、骨折修復が遅延することが示された。またこれらの現象はアンジオテンシンII受容体拮抗薬(オルメサルタン)の投与により改善された。このことはRA系が直接軟骨細胞および骨芽細胞に作用し、内軟骨性骨化を制御している可能性を強く示すと同時に、骨折修復だけでなく胎生期ならび骨リモデリングにおける骨形成においてもRA系が重要な役割を持つことを示唆している。なおこれらについては第55回日本老年医学会で報告する。 以上のことから本研究結果は、当初の目的である骨組織におけるRA系の直接的な関与を示す結果を得ており、現段階では当初の研究目的は達成するべくおおむね順調に進行していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでヒト臨床研究においてアンジオテンシン受容体拮抗薬が骨粗鬆症に一定の予防効果を持つこと、マウス高血圧疾患モデルにおいて骨折修復が遅延することは示すことから、骨組織にRA系の直接的に関与することを明らかにしてきた。しかしながら現在アンギオテンシンの投与による高血圧モデルでのみの検討であり、生体での状態を十分反映するには至っていない。そこで今後はこれに加えて腎摘出高血圧モデルや卵巣摘出モデルなどをもちいた検討を行い、実際の膝下により近い病態におけるRA系が骨組織におよぼす影響について、検討していく予定である。 また骨粗鬆症や骨折修復の治療薬としてアンジオテンシン受容体拮抗薬を用いられるためには、その効果機序ならびにリスクを明確にする必要があるが、その分子メカニズムについてはまだ調査解析を行っていない。すなわちアンギオテンシンII-アンギオテンシン受容体が、骨形成を営んでいる細胞に直接どのように影響を与えるかについての検討、とりわけNFkBを軸とした骨組織とRA系の関連性を明らかにすることは本研究の核心部であることから、これについての検討が必要である。 したがって今後はアンギオテンシンII-アンギオテンシン受容体が、NFkBを介して骨芽細胞ならびに軟骨細胞に及ばす影響について、培養細胞をもちいた検討を中心に行っていく。これによりNFkBを軸とした骨形成ならびに骨リモデリングにおけるRA系・アンジオテンシン受容体拮抗薬の関連性を明らかにすることが可能であると考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度おおむね順調に研究を進めることができたが、実験試薬の購入に際して価格の変動があり、わずかながら予定していた価格との差額が生じた。 次年度繰越分については実験試薬の購入費用の一部として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)