2011 Fiscal Year Research-status Report
メタボリックシンドロームの向血栓性予防の新たな治療的戦略の確立
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23590905
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Research Institution | Nakamura Gakuen College |
Principal Investigator |
津田 博子 中村学園大学, 栄養科学部, 教授 (30180003)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | プロテインS / メタボリックシンドローム / 血栓症 / 食事因子 / アディポサイトカイン / 肝細胞 |
Research Abstract |
メタボリックシンドロームでは動脈硬化性疾患だけでなく静脈血栓塞栓症のリスクも高まる。本研究では、メタボリックシンドロームの向血栓性に対する抗凝固因子プロテインS(PS)の新規機能を明らかにし、食生活改善を主軸とした予防治療法開発を目的としている。今年度の研究によって得られた成果は以下のとおりである。1. 臨床研究 肥満女性53名(48.9±8.0歳)の血中total PS antigenは血清エストラジオール(E2)濃度と負に相関した.E2を制御変数とした偏相関分析では,total PS antigenは体重,BMI,内臓脂肪面積,体脂肪量,除脂肪量,血圧,LDL-コレステロール,HDL-コレステロール,グルコース,HOMA-IR,HbA1c,高分子量アディポネクチン,高感度CRP,factor VIIとは相関しなかったが,protein C (PC),total PAI-1,中性脂肪,apoC-II,apoC-IIIとは正に相関した.ステップワイズ重回帰分析により,血中total PS antigen変動の予測因子としてPC,apoC-IIが選択された.ApoC-IIは VLDL,カイロミクロンなどのアポタンパク質であり,リポタンパク質リパーゼの活性化因子であることから,PSが中性脂肪代謝を制御する可能性が示唆された.2. 基礎研究 株化ヒト肝細胞HepG2のPSおよびPAI-1 mRNA発現をreal time PCR法で検討したところ、IL-6はPS、PAI-1 mRNA発現をともに上昇させたが、TNFαはPAI-1発現のみを上昇させた。また、ワインに含まれるresveratrolはPS発現を抑制したが、PAI-1発現を著明に上昇させたことから、肝細胞のPS発現はPAI-1発現とは異なった機序で制御されていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、(1)肥満患者の減量前後での血中プロテインS(PS)動態とメタボリックシンドロームのリスクファクターや血中アディポカインとの関連の解析、(2)肥満患者の減量前後での血中PS動態に影響を与える食事因子の探索と介入研究による確認、(3)食事因子やアディポカインによる肝細胞、血管内皮細胞のPS発現調節のメカニズム解明、の3つの研究項目について研究を推進している。1. 臨床研究 血中PS濃度は男性に比べて女性で低値なので、まず女性を対象として検討した。中村学園大学健康増進センター「肥満クリニック」を受診し調査をうけた肥満女性の血中PS動態を解析した結果、血中PSが高分子量アディポネクチンやメタボリックシンドロームのリスクファクターのうち内臓脂肪蓄積、血圧、血糖、HDL-コレステロールとは関連しなかったが、VLDL,カイロミクロンなどの中性脂肪に富むリポタンパク質と関連することが明らかになり、今後の研究の方向性を明確にすることができた。2. 基礎研究 血中PSの主な産生臓器は肝臓なので株化ヒト肝細胞について、抗凝固因子(抗血栓因子)のPSと抗線溶因子(向血栓因子)のPAI-1の発現を解析したところ、アディポサイトカインのIL-6はともに発現上昇させる傾向を示したが、ワインに含まれるresveratrolはPS発現を抑制するがPAI-1発現を促進し向血栓性を強く促進することが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の研究成果に基づき、今後の研究を推進する予定である。1. 臨床研究平成23年度は減量前の肥満女性を対象にして血中PS動態とメタボリックシンドロームのリスクファクターや血中アディポカインとの関連を解析した。これらの肥満女性には詳細な食事調査や生活習慣調査を実施している。そこで、平成24年度はこれらの調査結果を解析し、血中PS動態に関連する食事因子や生活習慣を明らかにする。平成23年度の研究からは血中PSと中性脂肪摂取の関連が推測され、過去の培養細胞を用いた研究からはワインや大豆製品などに含まれるポリフェノールとPSの関連が明らかになっているので、これらに焦点を絞って検討する。また、4ヶ月間の減量治療後のPS 動態についても検討し、減量前後での身体特性、食習慣、運動習慣の変化がPS 動態に及ぼす影響についても検討する。平成25年度は、平成24年度の研究で明らかになった食事因子についての介入研究を実施するとともに、近隣の保健所や診療所などとの共同研究により、男性肥満患者についても同様に検討する予定である。2. 基礎研究 平成23年度の臨床研究から血中PSが脂肪蓄積や脂肪細胞由来のアディポネクチンではなく、中性脂肪代謝に関連することが示唆された。そこで、中性脂肪に含まれる各種脂肪酸について、株化ヒト肝細胞におけるPS、PAI-1などの血液凝固線溶因子だけでなく中性脂肪代謝関連遺伝子の発現への影響を検討する。また、血中PSの一部は血管内皮細胞に由来するので、ヒト臍帯静脈内皮細胞についても同様に検討する。平成25年度は、平成24年度の臨床研究で明らかになった食事因子についてもPS発現への影響を検討するとともに、食事因子によるPS発現調節の分子機序について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は設備備品費(超低温フリーザー)105万円を計上していたが、施設内予算で購入の可能性があり本研究費での購入を見合わせた。また、研究補助員も雇用しなかった。しかし、遺伝子発現解析に必須な遺伝子解析ソフトを購入したので、差額相当額約118万円を平成24年度以降に繰り越している。その結果、平成24年度の直接経費は約228万円となる。支出の内訳としては、試薬類、実験器具類、臨床検査依頼費等の増額が見込まれるので物品費148万円、国際血栓止血学会(英国リバプール)での研究成果発表を予定しているので旅費40万円、謝金等30万円、その他10万円を予定している。
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Research Products
(18 results)