2011 Fiscal Year Research-status Report
逆流胆汁酸組成からみたバレット食道の発生・発癌機序解明と治療法の検討
Project/Area Number |
23590916
|
Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
天野 祐二 島根大学, 医学部, 准教授 (80284032)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | Barrett食道 / 発癌 / 胆汁酸 |
Research Abstract |
胆汁は1日に肝内で500mgのコレステロールから生合成されると言われており,分泌胆汁酸の組成はコレステロール代謝に強く影響される。一方,高コレステロール血症の治療薬であるHMG-CoA 還元酵素阻害薬 (statin) 投与がBarrett食道の発癌を抑制する可能性が報告されており,statin本来の発癌抑制作用に加え,statin投与により惹起される胆汁酸組成の変化に着目した抗癌作用の解明など,胆汁酸のBarrett食道への関連解明に興味が持たれている。本年度の検討では,statin投与と高脂血症の疫学調査を始めた。特に,高脂血症の終末像の一つの病態と考えるNASH群とNAFLD群および健常人のBarrett食道有病率と,statin投与の関連性の検討では,現時点で有意差はないが,NASH群とNAFLD群の高い有病率およびstatin投与による抑制傾向を認めている。ヒト臨床研究においては,酸性環境で胆汁酸が細胞障害性に働くことを臨床的に証明するためfatty acid synthase (FASn)の発現とその細胞増殖やCOX-2発現に及ぼす影響を検討した。その結果,FASnの胆汁酸による発現はpH4.0の酸性環境下で有意に強く,この環境下で細胞増殖亢進やCOX-2発現に関与することを証明し,J Clin Gastroenterolに受理された。また,Barrett食道発生および発癌に関与する胆汁酸には,特異な種の胆汁酸があると想像されるため,胃内逆流胆汁酸組成との関連を検討した。その結果,いわゆる疎水性の胆汁酸が有意にBarrett食道症例に認められ,これらの胆汁酸は腸上皮化生のマーカーであるBMP4の発現と関連するとともに,有意なCOX-2発現も誘導することから,Barrett食道発生および発癌に関与すると証明された。この内容は,Dig Liv Disに受理された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
動物実験モデルの作成準備に若干の遅延,および一部の因子について,ヒト臨床モデルにおけるBarrett食道およびBarrett腺癌発癌との免疫組織学的検討に遅れが生じているが,vitroおよび臨床研究の側面ともおおむね順調に進展していると思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
動物実験に先んじて,胆汁酸receptorであるfarnesoid X receptor (FXR) 及びTGR5 receptorの発現の細胞増殖の亢進やapoptosisへの影響について検証するとともに,statinによって活性化されるSREBPはVEGF発現を抑制すると言われ,私共の研究結果であるBarrett食道において血管新生の増生はmalignant potential獲得に関与するという報告と合わせると,stainによるBarrett食道の発癌抑制作用の一つに,SREBPを介したVEGF系抑制が考えられる。臨床研究では,免疫学的染色およびRT-PCRの手法により、Barrett食道発現および発癌ポテンシャルとの関連を検討する。さらに,Barrett食道発癌モデルにおけるstatin投与などの影響を検討するため,発癌モデルの作成準備中すすめ,最終的にBarrett食道発癌モデルにおけるこれらの事象の裏付けと解明をする予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
基礎検討として,胆汁酸のBarrett食道発生と発癌に対する影響を検討するために,ヒト扁平上皮cell lineであるHet1A及びヒトBarrett腺癌cell lineであるOE33の二つの系を用いて,各種胆汁酸を添加した時のSREBP-1,-2,VEGF,CD31,COX-2,PCNA,apoptosisの発現を検討する。次いで細胞保護作用が証明されたUDCA及びその抱合型胆汁酸を追加で添加した時の発現変化を検討する。この一連の二つの反応系は,SREBP siRNAにて各々のcell line系に一過性のtransfectionを行い,SREBPをノックダウンした系でも検証する。また,臨床的検討として,上記に示した因子についてBarrett上皮及び食道扁平上皮の両方より採取し,以下の項目を免疫組織染色にて定量的評価を行う。これら分子生物学的試薬,各種抗体,transfectionに関する費用として約400,000円,さらに,成果報告および情報収集のための神戸市における国内学会出席のための費用として約100,000円を予定している。
|