2012 Fiscal Year Research-status Report
消化器癌におけるインスリン様増殖因子活性化機構の解明と中和抗体による治療法の開発
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23590939
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宮本 心一 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90378761)
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Keywords | インスリン様増殖因子 / 活性型インスリン様増殖因子 / 腫瘍微小環境 / 分子標的治療 / 肝転移 |
Research Abstract |
大腸癌は日常臨床上、頻度の高い癌種であるが、遠隔転移を来たした進行癌の予後は不良である。特に肝転移は大腸癌の予後を規定する最も重要な因子である。インスリン様増殖因子(Insulin-like Growth Factor, IGF)は肝臓で産生される主要な増殖因子であるが、肝細胞から産生された後、IGF結合蛋白(IGF Binding Protein, IGFBP)-3と結合して大部分が非活性型として存在する。IGFが作用を発揮するためにはプロテアーゼによるIGFBPの分解が必須である。われわれは大腸癌の肝転移巣において、腫瘍細胞が産生するマトリックスメタロプロテアーゼ-7がIGFBP-3を分解し、その結果産生されるbioactive IGFが肝転移巣局所で抗アポトーシス因子として作用し転移形成に重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。bioactive IGFに対する中和抗体が肝転移を抑制した事実もこのメカニズムの正当性を支持する。しかしながら活性化されたbioactive IGFを直接評価した報告は少なく、中和抗体治療におけるバイオマーカーとしての可能性を模索する意味からも、in vivoにおけるbioactive IGFの評価は必須であると考えた。われわれはまず、bioactive IGFの評価には血清ではなくEDTA血漿が必須であることを見出し、次にEDTA血漿によりIGF type1受容体(IGF-1R)過剰発現細胞を刺激し、抗リン酸化IGF-1R抗体を用いたウエスタンブロット法にてbioactive IGFを半定量化する系を構築した(modified kinase receptor activation method: KIRA変法)。またこの測定系を用い、肝転移形成早期においてbioactive IGFが一過性に上昇することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
①IGFの活性化が転移の微小環境に依存していると考える以上、よりヒトに近くかつシンプルな肝転移モデルでの評価が望ましい。そのため我々はマウス肝由来のIGF-1のみを治療標的とするため(IGF-2は成人マウス肝臓ではほとんど発現がない)、IGF-1/2を発現しておらずIGF-1Rのみを発現しているマウス大腸がん細胞(CT26およびcolon26)をマウスに門脈注入し(脾臓は薬剤投与の経路として残しておくため)肝転移を作成することを試みた。しかしながら今のところ安定した肝転移を作ることに成功していない。 ② マウスの門脈は細く血流が豊富なため穿刺後の出血コントロールに難渋し、門脈注入の手技の習得に時間がかかった。 ③ KIRA変法でbioactive IGFを評価する場合、採血方法や保存方法により無視できないばらつきを生じることが明らかになり、その対処法を見つけるのに時間を要した。また当初の測定系においてはバックグラウンドが非常に高く出てしまい、その原因を究明するのに時間がかかった。
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Strategy for Future Research Activity |
① 現在、CT26およびcolon26の肝転移巣を培養系に戻し、再度肝転移を作成することを繰り返し、高転移株を作成中である。CT26およびcolon26を用いた肝転移モデルの作成がうまくいかない場合は、高転移株として樹立されているSL4細胞を用いることも考えている。一方でヒト大腸がん細胞株HT29をSCIDマウスに脾注して作成する肝転移モデルは安定した肝転移巣が得られることが知られている。HT29はMMP-7も高発現しており、免疫染色にて肝転移巣のIGF-1Rのリン酸化も確認されている。さらにIGF中和抗体による肝転移巣の縮小効果も証明されている。マウス大腸がん細胞を用いた系がうまくワークしない場合は、後者のモデルを用いて転移局所におけるIGFの活性化を証明したいと考えている。ただしHT29はautocrine的にhumanIGF-2が発現しており、実験系としては複雑になる。一方で血液採取を尾静脈からではなく、門脈もしくは上大静脈の肝静脈合流部あたりからマイクロカテーテルを用いて行い、より転移巣に近い部位の血液を用いて、bioactiveIGFの評価を行うことも予定している。 ② 肝転移モデルにおいてIGFの活性化が証明されれば、より効果的に肝転移巣局所のIGFを中和する方法として中和抗体を経脾臓的に注入し、全身投与(尾静脈もしくは腹腔内投与)との比較実験を行う。この方法は臨床応用を考えた場合、血管カテーテル法を用いた経門脈投与として実現可能である。さらにbioactive IGFが治療効果や副作用を予測するバイオマーカーとなりうるかも評価したい。またIGFシグナルを遮断する場合、リガンドと受容体のどちらが分子標的として有用なのかを明らかにするため、IGF中和抗体とIGF-1R中和抗体との比較や併用も試みたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
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