2012 Fiscal Year Research-status Report
慢性肝疾患進展制御法の確立:効果予測に基づく個別化医療
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23590986
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
吉治 仁志 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (40336855)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野口 隆一 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (30423908)
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Keywords | 慢性肝疾患 |
Research Abstract |
今年度は肝病態進展抑制に関するカクテル療法について昨年度に報告した組み合わせとは異なる薬剤を用いて、前年度よりもさらに効果的な治療法開発への基礎となるデータを得た。昨年度の研究で、Angiotensin-II (AT-II) 受容体阻害薬 (ARB)、リバビリン、およびインターフェロンを用いた3剤併用療法による肝線維化抑制効果につき有用な知見を得た。しかしながら、インターフェロンは患者背景により血球減少や間質性肺炎を来すことがある。従ってより低侵襲である治療法の開発も重要な課題である。そこで今回我々は、注射剤を含まない経口内服薬による組み合わせによる検討を行った。我々はこれまでに、AT-IIとアルドステロン (Ald) がそれぞれ肝病態進展において重要な役割を果たしており、ARB、選択的Ald阻害薬 (SAB) による治療の可能性について報告してきた。そこで本年度は、複数の実験モデルを用いて ACE-IとSABの併用効果について作用機序を含めて検討した。その結果、以下のデータを得た。 (1)SABは臨床濃度に匹敵する低用量においてGST-P前癌病変発生を有意に抑制した。なお、肝における血管新生は前癌病変の抑制とほぼ平行するように低下していた。(2)SAB投与群では対照群に比較して肝癌発育が有意に抑制された。SAB投与群では腫瘍内の血管新生は腫瘍発育の抑制にほぼ平行して抑制されていた。SABは腫瘍細胞のアポトーシスを著明に増加させたが、細胞増殖能には影響を与えなかった。In vitroにおける検討で、SABは肝癌細胞や血管内皮細胞の増殖は抑制しなかったが、血管内皮細胞の管腔形成を著明に抑制した。さらにEC内のERK1/2リン酸化はAldにより有意に増加し、SAB添加で抑制された。なお、本研究は各専門学会で発表すると共に英語論文として報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね計画の通りに進捗している。既存薬剤によるカクテル療法に関しては、先に述べたように本年度は昨年度とは異なるアプローチで複数のモデルを用いて基礎的検討を行い、臨床応用に可能な成果を得た。本年度の研究結果から、Aldは血管新生を促進して肝癌の進展過程に重要な役割を果たしていることが明らかとなりレニンアンジオテンシン系 (RAS)制御が慢性肝疾患進展抑制に極めて有用なアプローチであることが明らかとなった。今回SABが臨床濃度に匹敵する低用量で肝発癌および肝癌発育を抑制したことより、将来肝癌治療に臨床応用できる可能性が開けたと考える。さらに、AT-IIやAldの上流にあり、RASのrate limiting enzymeであるレニンが活性化肝星細胞(Ac-HSC)を介して重要な役割を果たしており、DRIは抗線維化作用を示すことを本年度の研究で確認した。一方、in vitroの検討においてDRIがAc-HSCに対して直接的抑制効果を示さなかったことからDRIの肝線維化抑制はAc-HSCのレニン受容体阻害によるものではないことについても本年度の研究で解析を加えた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は2年間で得られたデータを活用し、臨床へと還元し得る新規治療法開発を目指す。即ち、これまでに得られた様々な組み合わせに加えて慢性肝疾患がインスリン抵抗性や糖尿病をしばしば伴うことに注目し、異なった条件下での検討も行っていく。臨床の現場では、インクレチン分解を抑制してインスリン分泌を刺激するDPPIV阻害薬(DPPIV-I)が糖尿病の新薬として登場した。我々はこれまでDPPIV-Iが活性化肝星細胞 (Ac-HSC) に直接作用して肝線維化を抑制することを報告してきたが、本年度はDPPIV-Iの肝線維化抑制機序について細胞内情報伝達経路を含めて詳細に検討する。具体的な方法として、ラットにブタ血清(0.5ml/kg)を週2回腹腔内投与して実験的肝線維症を作成し、DPPIV-I (sitagliptin)を100 mg/kg/日(低用量)または300mg/kg/日(高用量)経口投与して8週後に動物を犠死させ、各種マーカーへの影響につき検討する。肝線維化について組織学的に評価すると共にイメージアナライザーによる半定量を行い、各群間で比較検討する。また、Ac-HSCへの作用を検討するためにα-SMAによる免疫染色に加えてTGF-β、collagenの蛋白産生、mRNA発現レベルをELISA法、real-time PCRにより定量を加える。In vitroの実験系ではPDGF-BB(10ng/ml)刺激時のAc-HSC増殖、TGF-β、collagen発現に及ぼす影響について検討すると共に、細胞内伝達経路についてERK1/2、JNK、およびp38の解析を加えて詳細な作用機序の検討を行う。基礎的有効性が確立されれば、臨床研究へと展開を加えていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
それぞれの研究課題に関して、上記で述べた実験計画に基づいて培養細胞実験に必要な器具および動物購入などに使用する。臨床的検討については、本学臨床審査委員会の承認下に行っているので継続的に遂行していく。なお、全ての臨床研究に関しては保険診療範囲での治療を行うため新規薬剤購入費などは生じない。また本研究の成果については、各種国内および国際学会にて発表し、成果がまとまった段階で可及的速やかに英語論文として世界の研究者に発信する。
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Research Products
(4 results)