2012 Fiscal Year Research-status Report
蛋白脱アセチル化酵素SIRT1の核移行誘導による心不全治療の開発
Project/Area Number |
23591085
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
丹野 雅也 札幌医科大学, 医学部, 講師 (00398322)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三浦 哲嗣 札幌医科大学, 医学部, 教授 (90199951)
堀尾 嘉幸 札幌医科大学, 医学部, 教授 (30181530)
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Keywords | SIRT1 / 心不全 |
Research Abstract |
長寿蛋白であるSIRT1はMn-SODの発現を亢進させ、酸化ストレスによる細胞死を抑制し(Tanno et al. J Biol Chem. 2007)、SIRT1活性化薬レスベラトロールは拡張型心筋症ハムスターの死亡率を低下させる(Tanno et al. J Biol Chem. 2010)という知見に基づき、SIRT1活性化薬の臨床応用を目指して研究を進めている。レスベラトロールによる心筋保護効果が心不全一般で得られる現象かを検討するため他の心筋障害モデルを用いた。ジストロフィン欠損モデルマウス(mdx)では心重量/体重比、心筋細胞サイズは対照マウスと比較して有意に増加したが、レスベラトロールはこれらを抑制した。同様に、mdxマウスにおいてはMモード心エコーにより計測した左室後壁の弛緩速度は低下し、この左室拡張能障害はレスベラトロールにより抑制された。心筋肥大を誘導する転写共役活性化因子p300蛋白は対象マウスと比較して増加しており、レスベラトロール投与により低下した。単離心筋細胞においてSIRT1の過剰発現はp300のユビキチン化、蛋白分解を介してPhenylephrineによる心筋細胞肥大を抑制した。さらに、2型糖尿病モデルであるOLETFを用いて糖尿病による心筋障害に対するSIRT1の効果を検討する予備実験を行った。OLETFではSERCA2aの発現減少を認めたが、ERストレス抑制薬を投与したところ、その発現レベルは回復した。しかしpressure-volume loopで評価した拡張能は改善しなかった。現在、サルコメア構成蛋白titinのアイソフォーム変化や翻訳後修飾の影響、およびATP産生能の低下を来す代謝異常の責任分子を網羅的に検討中である。今後OLETFにおける拡張能障害の分子機序に及ぼすSIRT1過剰発現および活性化薬の効果を検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SIRT1活性化薬の臨床応用を目指して研究を進めている。現在、心不全のタイプ(原因疾患、重症度など)によりSIRT1活性化の効果に差異があるか否かを調べるため複数の異なる心不全モデルを用いてSIRT1の過剰発現または活性化薬の効果を検討している。ジストロフィン欠損モデルマウスmdxでは左室拡張障害のみを有し、収縮能に異常を伴わない週齢においてSIRT1が心筋肥大/左室拡張障害を抑制し、その機序には心肥大促進因子であるp300蛋白の分解亢進が寄与することを見いだした。我々の既報を併せると、SIRT1活性化が複数の機序を介して、重症度、原因疾患の異なる心不全に対しても有効であることが示唆されるデータであった。そこでさらに、最近、患者数の著増を認め、臨床的にも重要性の高い2型糖尿病に伴う心筋障害に焦点を当てて検討を開始した。モデルとしては肥満2型糖尿病ラットであるOLETFを用い、ある週齢では拡張障害のみ認めることを確認した。現在その拡張障害の分子機序の解明を目指している。今後はSIRT1活性が拡張障害を改善するか、さらにはその背景にある分子レベルでの異常を改善するかについて検討する。当初の予定では冠動脈結紮による心筋梗塞後心不全モデルや腹部大動脈結紮による圧負荷モデルでの検討を想定したが、目標とすべき重症度の心不全が安定して得られず、計画とは異なる心不全モデルの使用となった。しかし原因、重症度の異なる不全心においてのSIRT1の心不全改善効果、その背景にある分子レベルでの異常に及ぼす効果を検討するという基本方針に沿い、概ね当初にたてた計画通りに実験を遂行している状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
複数の原因による心不全、重症度の異なる心不全に対してSIRT1活性化が有効であることが示されれば、その中でも特に効果の高いモデルに焦点をあてて、レスベラトロールの効果を詳細に検討する。レスベラトロールはSIRT1だけではなく、ミトコンドリア機能を改善し心保護作用を示すSIRT3に対しても活性亢進効果を有する。そこで、既に作成したタモキシフェン誘導心臓特異的SIRT1ノックアウトマウスを用いてこれらの活性化薬の効果がSIRT1活性化を介するものであるかを確認する。可能であればSIRT1過剰発現マウスにおいて心不全の重症度が軽減または進行が抑制されるかを観察し、SIRT1活性化の効果をさらに裏付けしたい。SIRT1活性化がレスベラトロールの心筋保護効果の主要な機序であることが証明されれば、さらにSIRT1に選択性が高く活性化作用の強い薬剤の効果を検討する。肝機能障害、腎機能障害、造血器障害などといった副作用の有無についてもモニターし、動物実験レベルでのこれらの薬剤の安全性も確立したい。これらの問題をクリアーできれば最終目標である臨床応用に向けて臨床試験を施行する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
使用する心不全モデルにおいて当初の計画と若干異なるモデルを使用した。このモデルは計画したもの比較して心不全の誘導に介入を要しないことや当教室の以前の報告で既にその病態的特徴を一部明らかとしているモデルであった。このため、当初想定した金額より少ない予算で実験が遂行され、次年度に一部繰越金が生じた。次年度新たに着手する実験としては手技に関わらず一定の重症度の心不全を誘導できるモデルとしてドキソルシンによる心筋障害モデルでのSIRT1過剰発現または活性化薬の効果を検討したい。また、上述の如くOLETFの代謝異常を網羅的に解析(メタボローム解析)を施行する。さらにテモキシフェン誘導SIRT1ノックアウトマウスにおいてSIRT1活性化薬の効果が消失するかをこれまで検討した心不全モデルで確認する。得られたデータは学会(アメリカ心臓協会BCVS年次集会、ヨーロッパ心臓学会年次集会、アメリカ心臓協会年次集会、日本循環器学会、国際心臓研究会)や論文(注目度の高い学術誌掲載を目指す。現時点ではCirculation Researchへの投稿を計画)として発表する。これらに要する、消耗品、動物の購入や飼育、試薬、各種抗体の費用、メタボローム解析の受託費用、学会旅費、論文校閲費、掲載費などとして研究費を使用させていただく予定である。
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Research Products
(3 results)