2012 Fiscal Year Research-status Report
Fut8遺伝子変異マウスにおける慢性閉塞性肺疾患早期発症の分子機構の解明
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23591118
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
高 叢笑 大阪大学, 産業科学研究所, 招へい教員 (50379260)
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Keywords | 慢性閉塞性肺疾患 / Fut8ヘテロ欠損マウス / 喫煙暴露 / alpha 1,6 fucose |
Research Abstract |
本研究課題は「Fut8遺伝子変異マウスにおける慢性閉塞性肺疾患早期発症の分子機構の解明」を目的に掲げ、Fut8の触媒産物であるalpha 1,6 fucose 構造の欠損によって、肺における細胞死、上皮修復、酸化ストレスなどに関わる機能変化を多方面から解析し、早期発症の分子メカニズムの詳細を明らかにする研究を行っている。 Fut8遺伝子ヘテロノックアウトマウスの喫煙暴露モデルを解析することにより、正常マウスに比べて2倍速くCOPDを発症することを見出した。マウスの肺組織では、Fut8の遺伝子発現および酵素活性レベルが喫煙暴露によってさらに低下することでマトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)が著しく活性化され、肺胞壁の破壊に繋がった。シグナル伝達経路の解析では、TGFβ1-Smad2-MMP パスウェー及びそれを調節する分子Smad7 の変化を突き止めた。本研究成果は、米国の科学雑誌『The Journal of Biology Chemistry』に掲載されました。また、共同研究により、ヒトCOPD症例において気腫化の重症化や増悪などのFUT8活性との関連性を調べた。その結果、FUT8活性は低い程、患者の呼吸機能を示す一秒率の年間減少率(annual decline of FEV1)が大きいことが分った。同時に、このようなCOPD患者さんにおける増悪の頻度も高くなる。この研究結果は科学雑誌『Biochemical and Biophysical Research Communication』に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画から、喫煙暴露Fut8へテロノックアウトマウスをモデルとして糖鎖修飾の変異と喫煙誘導慢性閉塞性肺疾患(COPD)発症関連の解析を予定している。そのメカニズムの一因であるTGFβ1シグナルパスウェーの解明が予想よりも早く完了した。さらにヒトCOPD患者の血清サンプルを測定したところ、COPDの重症化や増悪などはFUT8活性が低い程なりやすいことがわかった。二年間で研究課題に関する学術論文を二本発表した。これらの結果からFut8の活性低下は生体に喫煙や空気汚染などの外襲性因子への高い感受性をもたらし、さらに肺間質の合成と破壊のバランスを崩し、肺気腫の発症につながるとの知見は非常に一致していることが判明した。また、FUT8ノックアウト細胞では酸化ストレスの指標となるタンパク質の発現が高くなっていることが確認した。解析に不可欠なFut8発現レベルが異なる細胞株(気道上皮細胞、肺胞上皮細胞など)をすでに樹立し、予想を上回る進度で研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の研究では、前年度に引き続き樹立したFut8発現レベルが異なる各細胞株を用いて、早期発症に関わる他の要因を探索する。具体的には①培養細胞における酸化ストレスの測定:タバコ抽出液やAcrolein、また過酸化水素などの刺激により、Fut8発現レベルの異なる細胞の変化を探る。ELISA法を用いて培養上清中の炎症性サイトカイン濃度の測定し、細胞抽出液中NFkBなどkey-factorのリン酸化の度合いや酸化ストレスの指標であるMn-SOD, Cu,Zn-SOD、チオレドキシン, 酸化型グルタチオン 、カルボニルレベルなどの定量をする。タバコ煙にある脂溶性の刺激物もエタノールなどによって抽出し、水溶性のもののみならず、脂溶性の酸化mediatorによる影響も考えたい。特に細胞表面に発現している受容体の糖鎖修飾とその機能を調べる。②喫煙モデルマウスを用いた検証:マウスから肺、気管支洗浄液、血清及び肝臓などのサンプルを採集し、炎症細胞の浸潤、気道抵抗の変化、粘液産生細胞の頻度などの指標において、Fut8変異マウスと野生型との差異を検討する。一方、酸化ストレスを評価するため、不可逆的に安定した酸化ストレスマーカーであるカルボニルタンパクと比較的不安定で一過性の酸化ストレスを反映するグルタチオンタンパク質をまず注目したい。また、糖鎖異常の背景下では、喫煙暴露による生体内に産生した活性酸素種並びに抗酸化物質の発現・活性変化は発症時期や症状の重篤さとの関連を調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究においては、Fut8-/-マウス、Fut8+/-マウス及び野生型マウスを用いるマウス個体解析の計画がある。また、培養細胞における生化学的解析、分子生物学的解析、糖鎖構造解析など幅広い手法を用いた実験が多用するため、それに係る試薬、消耗品を購入したい。 加えて、本研究を推進するための打ち合わせや、本研究によって得られた成果を糖質学会、生化学会大会などの学会で発表するための旅費が必要である。
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Research Products
(4 results)
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[Presentation] Sensitivity of heterozygous a1, 6-fucosyltransferase knock out mice to cigarette smoke-induced emphysema: Implication of aberrant TGF-b signaling and MMP gene expression.2012
Author(s)
Gao C, Maeno T, Ota F, Korekane H, Takamatsu S, Kobayashi S, Yoshida K, Kitazume S, Ohtsubo K, Taniguchi N
Organizer
GlycoT 2012
Place of Presentation
Hannover, Germany
Year and Date
20120605-20120609
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