2011 Fiscal Year Research-status Report
長時間作用性β2刺激薬による気道粘液分泌亢進と気道クリアランス障害の分子病態
Project/Area Number |
23591127
|
Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
玉置 淳 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (60147395)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 喘息 / β2刺激薬 / 気道上皮 / 細胞増殖 / リモデリング / 上皮成長因子受容体 / ERKカスケード / チロシンリン酸化 |
Research Abstract |
マウス気道上皮培養細胞を,長時間作用型β2刺激薬であるサルメテロール(1nM~100μM)の存在下で72時間培養を行い,コントロール群では生理食塩水を添加して同様に培養した.DNA合成およびタンパク合成は,各々細胞内への[3H]-thymidineと [3H]-leucineの取り込みにて評価を行った.その結果,サルメテロール群ではDNA合成,タンパク合成ともに濃度依存的に増加した.一方,β1アゴニストであるドブタミン,β3アゴニストであるCL316243による刺激も行ったが,これらの薬剤ではいずれの合成も観察されなかった.β2受容体アンタごニスとであるプロプラノロールによる前処置を行うと,サルメテロールの効果は完全に消失したことより,気道上皮細胞のβ2受容体を介する反応であることがわかった.次に,サルメテロールの効果における上皮成長因子受容体(EGFR)の関与を検討するため,リン酸化EGFRモノクローナル抗体を用いて免疫染色を行ったところ,サルメテロール刺激によりEGFRのリン酸化が誘導されることが確認された.さらに,EGFRのチロシンリン酸化の特異的阻害薬であるAG1478およびBIBX1382の効果も検討した.その結果,これらの阻害薬は上皮細胞の無刺激状態におけるDNAおよびタンパク合成には影響を与えなかったが,サルメテロールに対する反応を有意に抑制した.次いで,細胞内シグナル伝達におけるRas-MEK-ERK (extracellular regulated protein kinase)カスケードの役割も検討し,上皮細胞にH-Rasのdominant negative mutant (AdRasY57) をトランスフェクトにより[3H]-thymidineおよび[3H]-leucineの取り込みが著明に抑制されることが示された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,当初はマウスをFlow-throughチャンバー内で飼育し,長時間作用型β2刺激薬への長期曝露を行うin vivoの実験系を計画したが,超音波ネブライザー由来の薬剤噴霧が均一ではないことが判明しシステム調整が難航したため,in vitroの系を用いた研究を先行させた.このin vitro実験では,気道上皮細胞のDNA合成およびタンパク合成の指標として[3H]-thymidineと [3H]-leucineの取り込みを精密に評価することが可能となった.また,サルメテロールの添加が上皮細胞が,上記パラメーターを濃度依存的に増加する成績が得られ,気道粘膜の増殖反応に対する長時間作用型β2刺激薬の効果を知ることができた.また,実験計画では,長時間作用型β2刺激薬の作用機序も検討する予定であったが,これについては,上記の成果に記載したように,観察された反応のすべてが気道上皮細胞のβ2受容体を介するものであること,効果発現の最初のステップでEGFRのリン酸化が必須であることが明らかとなった.さらに,細胞内シグナル伝達分子としてRas-MEK-ERKの関与が示唆された点では,当初の計画を上回る成果であった.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は,今年度に明らかとなった長時間作用型β2刺激薬の作用(気道上皮細胞の増殖促進,DNA・タンパク合成の増加)の細胞内シグナル伝達をさらに詳細に解明してゆく.すなわち,今回明らかとなったEGFRリン酸化やRas-MEK-ERKカスケード活性化に加えて,EGFRからRasに至るシグナルを同定する.とくに,EGFRとGrb2関連蛋白のアダプター分子のアセンブリーを検討するとともに,EGFRの上流のイベントとしてのHB-EGF (heparin binding EGF)のsheddingの関与,またそのsheddingプロセスにおけるmetalloproteinaseの役割を明らかにする.一方,ムチン分泌と粘液線毛輸送に対する長時間作用型β2刺激薬の作用についても検討し,気管支喘息や慢性気道炎症における気道粘液分泌亢進や気道クリアランス障害に対する本薬剤の効果を解明してゆく.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は,今年度の研究成果をさらに発展させるために気道粘膜MUC5ACの発現に関するin vitroの検討を行う.併せて,気道過敏性および気道クリアランスをin vivoの系で評価する.1.気道上皮細胞におけるMUC5AC発現 マウス気道上皮細胞をサルメテロールの存在下と非存在下で培養し,Northern blotを用いてMUC5AC mRNAの発現を検討する.また,MUC5AC蛋白発現はWestern blotで観察し,さらにPAS/Alcian blue染色を行い粘液分泌顆粒の発現も評価する.これらの反応の細胞内伝達経路も解明するため,今年度に行った実験に準じてEGFR,Ras-MEK-ERKカスケード,Grb2を主体とするアダプター分子,HB-EGF,metalloproteinaseなどの関与の有無を検討する.2.気道クリアランスおよび気道過敏性 本実験はin vivoで実施する.マウス気管を露出し気管分岐部にEvans blue dyueを滴下,次いでサルメテロールを静脈投与した後に経時的に気管を摘出,これら組織中のEvans blue濃度の経時的変化を測定することにより,気道クリアランス(気道粘液運搬速度)を評価する.また,気道過敏性については,サルメテロール曝露マウスを用いてメサコリンに対する気道抵抗の反応性をPenhにより測定し評価を行う.
|
Research Products
(6 results)