2011 Fiscal Year Research-status Report
非小細胞肺癌にてKRAS変異及びEGFR変異により誘導されるEREG発現の意義
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23591134
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
砂長 則明 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70400778)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 非小細胞肺癌 / KRAS遺伝子変異 / EGFR遺伝子変異 / Epiregulin / 分子標的治療 |
Research Abstract |
小細胞肺癌(SCLC)細胞株23株、非小細胞肺癌(NSCLC)細胞株35株(KRAS変異陽性12株、BRAF 変異陽性4株、EGFR変異陽性9株、KRAS/BRAF/EGFR野生型10株)を用いてリアルタイムPT-PCR法によりエピレグリン(EREG)mRNA発現の解析を行った。 殆どのSCLC株でEREG発現が検出不能だった一方で、KRAS/BRAF/EGFR変異陽性NSCLC株においてEREG高発現を認め、最もEREG高発現のKRAS変異陽性NSCLC細胞株4株では、siRNAによる変異型KRAS特異的ノックダウンによりEREG発現抑制を認めた。EGFR変異陽性細胞株HCC827とBRAF変異陽性細胞株H1666の各々においても、siRNAによるEGFRまたはBRAFノックダウンや、EGFRまたはBRAF阻害剤により、有意なEREG発現抑制を認めた。KRAS/BRAF/EGFR変異陽性NSCLC細胞株では、MEKやERKの阻害剤によりEREG発現抑制が共通して抑制された。 NSCLC手術検体89例を用いたEREG発現解析では、胸膜/リンパ管/脈管浸潤陽性例やKRAS変異陽性例でEREG発現が有意に高く、KRAS変異型/EREG高発現NSCLC患者群は、KRAS野生型/EREG低発現群と比較して、全生存期間が有意に短かった。さらに、KRAS変異陽性/EREG高発現NSCLC細胞株において、siRNAによるEREG発現抑制によりin vitroでの細胞増殖抑制、アポトーシス誘導、足場非依存性細胞増殖抑制を認めた。 以上より、NSCLCにおいてEREG過剰発現がKRAS/BRAF/EGFR変異により誘導されること、KRAS変異/EREG高発現NSCLC患者は予後不良であること、KRAS変異/EREG高発現NSCLCに対するEREGの分子標的治療が有用である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
NSCLC細胞株において、KRAS変異によるEREGのup-regulationは検証できたが、EGFR変異によるEREGのup-regulationは、EGFR陽性細胞株1株のみの結果であり、さらに細胞株を増やして検証したい。ヒト気管支上皮細胞株へのKRAS変異またはEGFR変異強制発現クローンの作成は未達成である。KRAS変異/EGFR変異陽性NSCLC細胞におけるEREG発現制御メカニズムの検討は、MEKまたはERK阻害剤によるEREGのdown-regulationを確認したが、他の阻害剤による実験は未施行であり、EREGの転写発現制御に関与の可能性のある転写因子の同定も未達成である。 NSCLC患者におけるEREG発現の臨床病理学的な検討は、群馬大学臓器病態外科でNSCLC手術検体89例から抽出したRNAを用い、リアルタイムRT-PCR法によるEREG発現解析を完了した。さらに、genomic DNAも抽出し、EGFR遺伝子とKRAS遺伝子の変異解析を完了した。その上で、EREG発現レベルを、NSCLC患者の臨床病理学的因子や、KRAS変異、EGFR変異の有無で比較し、各因子との相関についての解析も89例については完了した。さらにEREG高発現/低発現群に分けたときのそれぞれの患者群間での全生存期間の比較解析が完了した。 KRAS変異陽性NSCLC細胞株における抗EREG治療の腫瘍増殖抑制効果の検討についても、当初の計画より進展しており、KRAS変異陽性NSCLC細胞株H358のみの検討ではあるが、EREGを標的としたsiRNAによるEREG発現抑制がin vitro細胞増殖や生存に与える影響について検証する実験を行い、EREGのノックダウンが、in vitroにおける足場依存性及び非依存性増殖抑制とアポトーシス誘導をきたすことを検証できた。
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Strategy for Future Research Activity |
KRAS変異/EGFR変異陽性NSCLC細胞におけるEREG発現制御メカニズムについては、EREG高発現を確認できたKRAS変異またはEGFR変異陽性のNSCLC細胞株において、MEK阻害剤やERK阻害剤以外にも、EGFR-RASシグナル伝達経路の下流分子であるp38, JNK, PI3K, Aktの阻害剤: (p38阻害剤:SB202190、JNK阻害剤:SP600125、Akt阻害剤:Akti-1/2、PI3K阻害剤:LY294002)の処理がEREG発現に与える効果について検討する予定である。その他、ヒト気管支上皮細胞株でのKRAS変異またはEGFR変異強制発現クローンを作成する。EGFR-Rasシグナル伝達経路の下流でEREGの転写発現制御に関わっている可能性のあるEts-1を含めた様々な転写因子とEREG発現との関与も調べる。 NSCLC患者におけるEREG発現の臨床病理学的な意義については、さらにNSCLC手術検体数を増やして、リアルタイムRT-PCR法や免疫組織染色によりEREG発現状態を調べた上で、EREG発現レベルを、NSCLC患者の臨床病理学的因子(年齢、性別、喫煙歴、組織型、病期)や、KRAS変異、EGFR変異の有無で比較し、各因子との相関について調べる予定である。また、EREG発現状態が、術後無増悪期間、全生存期間に及ぼす影響についても、臨床病理学的因子、KRASまたはEGFR変異を調整因子とした多変量解析により調べる予定である。さらに、術後再発し、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)により治療歴のある症例を対象として、EREG発現がEGFR-TKI治療効果や予後に与える影響についても検討予定である。 さらに、KRAS変異/EGFR変異陽性NSCLCにおける抗EREG治療の腫瘍増殖抑制効果についても、細胞株を増やして検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
KRAS変異/EGFR変異陽性NSCLC細胞におけるEREG発現制御メカニズムの検討のため、細胞実験に必要な培養器具や培地、p38、JNK、PI3K、Aktの阻害剤、RNA抽出やcDNA合成、PCR反応に必要な各種試薬、EREG転写制御解析を行うためのルシフェラーゼアッセイに必要なベクターや試薬などを購入する予定である。 また、NSCLC患者におけるEREG発現の臨床病理学的な意義を検討するための実験に必要なものとして、手術検体からのRNA、genomic DNA抽出に必要な試薬、リアルタイムRT-PCRに必要なTaqMan probeを含む試薬やPCRプレート、免疫組織染色に必要な実験器具、抗体、試薬、EGFR遺伝子のexon 18-21、KRAS遺伝子のexon 1-2の変異解析のためのSmartAmp2法高感度変異検出キット(ダナフォーム社)の購入を予定している。 その他、KRAS変異/EGFR変異陽性NSCLCにおける抗EREG治療の腫瘍増殖抑制効果の検討に必要なものとして、EREG siRNAや抗EREG中和抗体、MTTアッセイやBrdU細胞増殖アッセイ、液体培地及び寒天培地でのコロニー形成試験に必要な各種試薬、Cleaved Caspase 3抗体やanti-PARP抗体を用いたウェスタンブロット法、TUNEL法、Annexin Vによる細胞表面のフォスファチジルセリン検出法などのアポトーシス解析に必要な試薬、Boyden chamberを用いたmigration assayやMatrigel invasion assayのための試薬を購入予定である。
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