2011 Fiscal Year Research-status Report
網羅的細菌叢解析を用いた細菌性肺炎における起因菌のエビデンスの構築
Project/Area Number |
23591173
|
Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
迎 寛 産業医科大学, 医学部, 教授 (80253821)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 肺炎 / 16S ribosomal RNA / 網羅的細菌叢解析 / 嫌気性菌 |
Research Abstract |
本研究は分子生物学的な手法、特に16S ribosomal RNA遺伝子を用いた細菌の検出法を用いて、肺炎の原因菌を明らかにすることを目的としている。具体的には肺炎を「市中肺炎」、「院内肺炎」、「医療・介護関連肺炎」の3群に大別し、それぞれの原因菌を、われわれが試みている培養に依存しない網羅的細菌叢解析法を用いて明らかにすることであるが、1年目で市中肺炎65例、医療・介護関連肺炎30例、院内肺炎20例の検討が終了した。今回の検討では、口腔内常在菌の関与を無くし、またより病変局所の状態を直接把握するために気管支洗浄液による検討を行なった。 結果として従来の培養法に比べて網羅的細菌叢解析ではすべての症例において原因菌の解析が可能であり、口腔内レンサ球菌や嫌気性菌が原因菌である症例が過去の報告と比較して多い結果となっている。特に市中肺炎の症例は予定以上の集積ができている(男性32例、女性33例、平均年齢62.6歳)。これらの市中肺炎症例での喀痰検査では約4分の1の症例のみが培養陽性であったが、気管支洗浄液においては培養検査では約3分の2の症例で起炎菌が同定された。結果としては肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラクセラなどが主な起炎菌であった。一方、網羅的細菌叢解析では、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、マイコプラズマに続いてプレボテラ等の嫌気性菌が原因菌(第一優占菌種)の16.9%を占めていた。また、口腔内レンサ球菌などの口腔内細菌も15.4%であった。この結果からは市中肺炎においては今まで報告されてきた以上に嫌気性菌や口腔内細菌が原因となっている可能性が考えられた。まだ、医療・介護関連肺炎や院内肺炎では症例数が少ないが、市中肺炎の結果と同様な傾向であり、今後2年間をかけて、医療・介護関連肺炎と院内肺炎の症例を増やして行く予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上述した様に、肺炎を「市中肺炎」、「院内肺炎」、「医療・介護関連肺炎」の3群に日本呼吸器学会ガイドラインを用いて大別し、まず、各カテゴリーごとに関連施設を含めて症例収集システムを構築した。このシステムにより、当院ならびに関連施設から気管支鏡検査で採取された病変局所の気管支洗浄液およびその臨床データが集積できた。この1年間でわれわれが試みている培養に依存しない網羅的細菌叢解析法を用いて、市中肺炎65例、医療・介護関連肺炎30例、院内肺炎20例で原因菌を解析することができた。最初の目標では1年間で各群連続的に約30例、計100を予定していたが、実際は115例の検討を終えることができ、症例数は予定通り集積できている。 現在までの結果としては、従来の培養法に比べて網羅的細菌叢解析ではすべての症例において解析が可能であり、培養法では検出しづらい口腔内レンサ球菌や嫌気性菌が原因菌であった症例が比較的多く観察され、最初の仮説通りの結果となってきている。特に市中肺炎では症例数も十分増加したため(男性32例、女性33例、平均年齢62.6歳)、すでに論文を作成しており、すぐに投稿可能な状況となっている。また、医療・介護関連肺炎で1例、培養法で原因菌が不明であり、細菌叢解析によってレジオネラ肺炎と診断することで救命できた症例を経験し、症例報告を行なっている。この様に既存の培養法で診断できず、細菌叢解析により原因菌が明らかとなった症例も多く、肺炎の原因菌の動向を明らかにする最初の目的にとどまらず、個々の症例においても臨床の場で貢献できる検査法である。 また、現在、これらの肺炎症例の中で数例、喀痰と病変局所の細菌叢の相違があるかの検討をはじめている。喀痰と肺内の菌叢はかなり類似している症例もあり、この網羅的細菌叢解析法が一部の症例では喀痰の解析でも診断に利用できる可能性が示唆されている。
|
Strategy for Future Research Activity |
24年度以降は、23年度に引き続き症例の蓄積を行なうが、市中肺炎はほぼ予定の症例数は集積したので、院内肺炎と医療・介護関連肺炎を中心に症例数を増やす予定である。可能であればそれぞれ最終的に50例を超える数を集積し、検討を行いたい。 加えて喀痰への本法の適用の可能性についての検証をより推進する。具体的には、膿性痰に対して、滅菌生理食塩水で表面を洗浄・唾液成分を除去し、膿性部分のみを隔出する。隔出した膿性部分を処理し細菌叢の解析を行う。また、同時に気管支洗浄液、含嗽水の菌叢解析を行い、それぞれの細菌叢を比較することにより、喀痰検体への本法の適用の可能性や妥当性について検証する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は昨年同様に、網羅的細菌叢解析法の過程である、DNA抽出、蛍光染色、PCRによるDNA増幅、クローニング(クローンライブラリの作成)、塩基配列の解析等で使用するDNA抽出試薬、PCR試薬、クローニングキット、シークエンス反応用試薬などの消耗品の購入に使用予定である。
|