2012 Fiscal Year Research-status Report
ポドサイト傷害によるボウマン嚢上皮細胞の変調作用の機構解明
Project/Area Number |
23591176
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐々木 聡 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員研究員 (70312345)
|
Keywords | 糸球体硬化症 |
Research Abstract |
本研究の目的は、腎機能障害をきたす最も大きな原因の一つである臓側糸球体上皮細胞(足細胞)の傷害による壁側糸球体上皮細胞(壁細胞)の変調作用を明らかにする事である。最近の知見から、糸球体硬化機転やその再構築に積極的に関わる因子として壁細胞の活性化といった概念が提唱されている。活性化壁細胞の特徴としては、形態面から細胞容積•細胞密度増大、ボウマン嚢壁の肥厚が挙げられ、特異マーカーとしてCD44分子が活性化後期に発現するとされる。 当該年度における研究においては、足細胞の傷害にともなう壁細胞活性化の病態、機転に関し、実験腎炎モデルを利用した解析を進めた。モデルとして、1) FSGSモデルであるアドリアマイシン (ADR)モデル、2) 可逆的な足細胞傷害により蛋白尿をきたすリポポリサッカライド(LPS)モデル、3) 急速な足細胞傷害と糸球体再構築過程を観察する新規モデルとしてADR投与に低用量LPS投与を組み合わせたADR-LPSモデルを用いた。 結果、ADR-LPSモデルではADRモデルに比し、壁細胞腫大、偽半月体形成など形態変化が顕著にみられた。活性化の後期マーカーとされるCD44発現自身は、各モデルにおける足細胞傷害の重症度とは関連していない事も示唆された。またADR-LPSモデルでは、足細胞、壁細胞両者のアポトーシスが多く観察され、アポトーシスに陥った足細胞を有する糸球体係蹄側にCD44陽性壁細胞が近接する所見が頻繁に認められた。チミジンアナログを利用する事により増殖糸球体固有細胞の追跡を試みたところ、ADR-LPSモデルにおいてチミジンアナログにて標識された活性化壁細胞の一部追跡が可能になる事が示唆された。壁細胞活性化は、細胞腫大等の形態的変化、CD44の新規発現などにより定義されているが、その細胞の定義の妥当性や動態については不明な点も多く、現在解析中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である糸球体足細胞傷害による壁細胞の変調作用を解明していくにあたって、壁細胞の活性化の概念を明確にする事が必要である。本概念は、FSGS病変形成における半月体の形成をはじめとする無秩序な糸球体上皮細胞増殖や過剰な細胞外基質の増生といった事象に、壁細胞の活性化が重要な役割を果たし得るという仮定から成り立つものである。その一方で、壁細胞の活性化とは、いったいどのような形態、形質、挙動変化を指すのかについては未だ定まっていないのが現状といえる。今後、壁細胞活性化の病態生理、病変形成における意義について解析を進める事が本プロジェクトの意義の一つと考慮している。 該当年度までの本研究においては、FSGSの代表的モデルであるADR腎症、可逆性足細胞傷害、ネフローゼのモデルであるLPS腎症、また急速な足細胞傷害と引き続く壁細胞活性化観察のモデルとして新たにADR-LPS腎症を比較検討する事で、足細胞傷害にともなう壁細胞の活性化を形態的、形質的側面から検討し、その挙動を解析する事が可能になりつつある。 今後の課題として、チミジンアナログを用いた増殖糸球体構成細胞の追跡による活性化壁細胞の挙動解析では、マーカー蛋白などによる細胞の同定を進める必要がある。また、全ての事象に関する培養細胞を利用し、壁細胞活性化などの事象を追跡できるモデルの確立を試みる必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
糸球体壁細胞活性化は、アポトーシスなどによる足細胞喪失後の機転に深く関与する事が示唆された。また活性化壁細胞の一部は、足細胞を喪失した係蹄側へ接近し糸球体構造の再構築に働くと考えられる。ADR腎症に低用量LPS投与を組み合わせたADR-LPSモデルは、急速なポドサイト喪失におけるPECの挙動を解析するために有用なモデルである可能性がある。今後の予定として、①ADR-LPSモデルのさらなる確立と本モデルを利用した壁細胞活性化の解析の完成、②活性化壁細胞の追跡、細胞同定、③尿中に喪失した足細胞、壁細胞の追跡、④チミジンアナログとして解析の容易性に優れたEdU標識における糸球体内labeling retaining cellの解析、⑤壁細胞活性化の事象を、培養細胞レベルで確認できるモデルの確立などを試みていく。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は、全て以下の消耗品購入のための物品費として宛てられる予定である。 1) 動物モデル作成に際しての、動物購入費、飼料購入費等飼育に要する費用 2) 生化学的実験のためのプラスチック器具、実験試薬 3) 細胞増殖試薬、各種抗体 4) 培養試薬、血清、プラスチック器具 本実験施行において必要な備品類 (生化学実験用備品、細胞観察、形態解析、培養)は、北海道大学大学院医学研究科におけるものを利用する。
|
Research Products
(2 results)