Project/Area Number |
23591236
|
Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
河内 泉 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (40432083)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
豊島 靖子 新潟大学, 脳研究所, 准教授 (20334675)
|
Keywords | 神経免疫病態学 / 多発性硬化症 / 視神経脊髄炎 / I型インターフェロン / アクアポリン4 / 自然免疫 |
Research Abstract |
Neuromyelitis optica (NMO) は長い間, 多発性硬化症 (MS) との異同が論じられてきた中枢神経系脱髄疾患である。近年, 疾患特異 的自己抗体 (NMO-IgG) が発見され, NMOはアクアポリン4水チャネル (AQP4) を標的とするアストロサイトパチーであることが明らかにされた。NMOは, MSとは異なり, I型インターフェロン (IFN) 療法が疾患増悪因子となることが特徴である。本研究では「自然免疫機構が内因性のI型IFNシグナルを亢進させ, 免疫寛容を破綻させることで, AQP4抗原に対する自己免疫応答を活性化し, NMOに特徴的な視神経炎・脊髄炎を発症する」という作業仮説を立て, 3年計画で証明することを目的とする。初年度から当該年度 (2年度) までに以下の点を明らかにした。 1. NMOの脊髄病巣ではAQP4の広範な染色性低下に加え, 血管周囲の免疫グロブリンと補体の沈着, 多数のT細胞, マクロファージを認めたが, B細胞, plasmablasts, 形質細胞, 好中球は少数にとどまり, 髄膜にはリンパ節類似濾胞構造を認めない。2. NMOの末梢血では多数のplasmablastsを認める一方, 自然リンパ球は減少している。3. NMOにおけるplasmablastsと自然リンパ球の動的変化は関連している。4. NMOのヘルパーT細胞はIL-17・IFN-γ産生に偏奇している。5. NMOの大脳皮質にはミクログリアの活性化, I層にアクアポリン4を消失したアストロサイト, 神経細胞脱落を認めるが, 脱髄を認めない。6. 上記1-5の変化はMSで明らかでない。 以上, NMOとMSの自然・適応免疫システム動態の相違点から, 自己免疫病態の形成と維持においてNMOとMSは異なるスペクトラムの疾患であると考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでNMOとMSにおける免疫細胞の解析から両疾患の自然免疫・適応免疫システム動態の相違点を明らかにしてきた。すなわち, NMOとMSでは標的臓器こそ同じであるが, 1. NMOではその特異自己抗体NMO-IgGの産生部位は主に中枢神経の外にあること, 一方, MSの抗体産生部位は中枢神経内に隔絶されている可能性があること, 2. NMOではNMO-IgGと補体がアストロサイトのAQP4を標的とすること, 3. IL-17/IL-6の相乗的発現システムはMSよりもNMOにおいて稼働し, 炎症病理の形成と慢性炎症の増悪に関与している可能性があること, 4. NMOではplasmablastsと自然リンパ球の動的変化が関連しているが, MSでは関連していないこと, 5. NMOではMSとは異なる機序で神経変性機転が生じていることを示唆する結果を得ている。現在まで明らかにした「NMOとMSの自然・適応免疫システム動態の相違点と, それにより生じる病理形態の違い」は, 本研究の最終的目的である「自然免疫機構の観点から中枢神経系脱髄疾患の発症機序と病態を解き明かす」ためには重要な基盤となる研究である。さらに現在, 中枢神経系脱髄疾患における内因性のI型IFNの発現を含む自然免疫機構の検討を, 精力的かつ多角的に進行している途上である。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要の通り, 初年度から当該年度 (平成24年度) は「NMOとMSの適応免疫システム動態の相違点」の同定を含めて, 本研究の基盤となる重要な結果を得ることができている。しかし一方で「中枢神経系脱髄疾患における内因性I型IFNの発現を含めた自然免疫機構の多角的検討」は進行の途上にあり, 完了していない。このために次年度に使用する予定の研究費が生じた。この状況に対応するために, これまでの研究体制にさらに研究協力者1名を増員し, 今後の研究を推進する予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度から当該年度 (平成24年度) までに, NMOとMSの自然免疫・適応免疫システム動態の相違点から, 両疾患は自己免疫病態の形成と維持において異なるスペクトラムの疾患であることを明らかにしている。この結果をふまえ, 次年度 (平成25年度) は下記の研究を計画する。 (1) NMOの免疫基盤に内因性のI型IFNの発現亢進があることを, NMO患者の末梢血, 髄液, 中枢神経病理を使った網羅的なサイトカイン発現解析を行い, 完了する。 (2) NMOにおいてI型IFNを産生する細胞とその産生制御因子を, 中枢神経病理やリンパ組織の免疫組織化学・免疫学的手法から同定するするための解析を完了する。特にI型IFNの産生制御因子として「死細胞貪食障害による放置死細胞」に着目し, そのNMO個体における証明を行う。さらにI型IFNを産生する樹状細胞とその活性化動態を解析する。 (3) NMOに特徴的なAQP4特異的自己抗体産生B細胞・T細胞株を作成し, I型IFNとIL-6による自己抗体産生能や細胞活性化能の亢進を証明し, I型IFNの発現亢進がNMOの病態を悪化させるメカニズムを明らかにする。 (4) 中枢神経系脱髄疾患において, 形質細胞様樹状細胞を含めた自然免疫細胞によるI型IFN産生制御機構を, 病原体センサーから解析し, 病原体センサーを標的とする新規治療の可能性を模索する。 本研究で対象とするヒト由来資料については, 「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(平成25年2月8日改正: 文部科学省, 厚生労働省, 経済産業省告示), 「疫学研究に関する倫理指針」(平成16年12月28日:文部科学省告示) に基づくとともに, 実験計画を当大学内に設置されている倫理委員会の許可を得, 提供者のインフォームド・コンセントを確認した上で開始する。
|