2011 Fiscal Year Research-status Report
タウ蛋白とリン酸化酵素複合体の相互作用を介した認知症脳神経細胞死の病態解析
Project/Area Number |
23591276
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
川又 敏男 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (70214690)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小野 功貴 神戸大学, バイオシグナル研究センター, 教授 (10243297)
向井 秀幸 神戸大学, バイオシグナル研究センター, 准教授 (80252758)
高橋 美樹子 帝京平成大学, 薬学部, 教授 (90324938)
前田 潔 神戸学院大学, 総合リハビリテーション学部, 教授 (80116251)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流(カナダ) / 認知症 / 細胞内シグナル伝達 / タウ蛋白 / 蛋白リン酸化酵素 / 蛋白脱リン酸化酵素 / 神経細胞変性 |
Research Abstract |
一次性あるいは二次性タウ病に分類される変性型認知症患者の脳組織には、タウ蛋白が異常代謝をうけ重合した神経原線維変化(タングル)が形成され沈着する。変性型認知症の代表であるアルツハイマー型認知症(AD)では、認知症症状つまり神経回路障害の程度とタングル数との相関が報告されている。そこで異常タウ代謝の初期段階にある異常リン酸化についてリン酸化・脱リン酸化バランスの破綻やその反応部位の制御異常の視点から、タウ蛋白代謝の上流を含めてリン酸化酵素・脱リン酸化酵素複合体に関わる細胞内シグナル伝達の異常を検討した。 正常対照者およびAD患者の脳組織を対象として、生理的にそれぞれタウ分子を良好な基質とするPKN1、PKC、PKA、CK1 delta、Cdk2など蛋白リン酸化酵素や、PP1、PP2A、PP2Bなど蛋白脱リン酸化酵素が種々の組み合わせで関与する、また極性細胞であるニューロンの頂上・核周囲区画等さまざまな細胞内コンパートメントに反応部位が制御されている、巨大なscaffold分子を中心とする活性複合体との会合状態を分析した。とくにタウ代謝との関連が深い細胞内PI3K信号経路を解析し、同経路の下流においてPKCの亜分子種PKC deltaやp70 S6 kinaseがタウ代謝に関与することを明らかにし、会合状態への関与を示唆した。さらに後者とタングル以外の細胞骨格代謝障害に関係したAD特徴病理像との関連も発見し検討中である。また、認知症の運動症状とも関連する視覚性フィーバックなど運動ニューロンの興奮性を解析し国際誌に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
正常対照者や認知症患者の死後剖検脳組織を対象として、タウ代謝に関連する重要機能分子の活性複合体に対する結合・共存状態や神経細胞内会合部位について生化学的・形態学的な分析を行い、scaffold分子活性複合体に関連する重要機能分子の新たな知見を得ながら解析を進めている。つまり、small G蛋白Rhoや脂肪酸により活性化されタウ分子を直接リン酸化するPKN1に結合する分子量450kDaの巨大scaffold分子であるCentrosome and Golgi-associated PKN-Anchoring Protein(CG-NAP)と、タウ蛋白のリン酸化修飾に直接関与する蛋白リン酸化酵素群(PKN1、PKC、PKA、CK1 delta、Cdk2)および蛋白脱リン酸化酵素群(PP1、PP2AあるいはPP2B)とが種々の組み合わせで細胞内において会合し、さらにそれら複数分子の会合が特定の細胞内区画で厳密に制御されて基質分子のリン酸化状態を調節することで重要な細胞生理機能に関与していることを確認した。このような蛋白リン酸化酵素の活性化カスケードのうち、PI3Kによる細胞内シグナル伝達経路においてPI3K・PTEN・PDK1が神経細胞内でタウ分子と共局在していることを明らかにし、さらにPDK1下流にあるPKCのアイソフォームの一つであるPKC deltaおよびp70 S6Kとタウ分子とのニューロン内共局在を明らかにし、ADの特徴病理の一つでもあるタングル以外の細胞骨格異常とS6Kとの関連を発見した。これらについては、さらに解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在得られている新たな知見の解析を継続すると共に、認知症関連遺伝子あるいはPKN1/PKN2遺伝子等に関する遺伝子改変動物の脳組織や培養細胞を対象として、タウ代謝に関連する重要機能分子の活性複合体に対する結合・共存状態や神経細胞内会合部位を、生化学的・形態学的に分析する。具体的には、まず前述の脳組織を対象としてCG-NAPと活性複合体を構成するPKN1など複数の機能分子の組成や量、またそれらのリン酸化状態など活性状態を、また組織・細胞を分画後CG-NAPおよび共に活性複合体を構成する複数の機能分子の細胞内局在や会合・共局在部位を、免疫沈降・イムノブロット法等により生化学的に分析すると共に、高感度免疫組織化学法を用いた光学顕微鏡・共焦点レーザー顕微鏡・透過型電子顕微鏡観察により形態学的に検討する。その後、上記の遺伝子に関する遺伝子導入培養細胞を対象として、タウ代謝に関連する重要機能分子の活性複合体に対する結合・共存状態や神経細胞内会合部位を、免疫沈降・イムノブロット法等により生化学的に、また高感度免疫組織化学法を用いた光学顕微鏡・共焦点レーザー顕微鏡・透過型電子顕微鏡観察により形態学的に、検討する。 PKN1遺伝子改変動物はreproductivityが低いため実験可能動物数が増えにくい可能性があるが、その場合は計画時期のみならず研究期間全体を使って解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記のように健常高齢者あるいは認知症患者脳組織を対象とした生化学的・形態学的分析を行い、その結果得られたタウ蛋白代謝に関連する重要機能分子とscaffold分子が会合した活性複合体に関する知見を元にして、次年度は共同研究により現在利用可能な種々の認知症関連遺伝子の改変動物あるいは共同研究者が既に開発しているPKN1/PKN2遺伝子等に関する遺伝子改変動物の脳組織を対象に生化学的・形態学的分析を実施する。具体的な計画内容は以下の通りである。(1)認知症関連遺伝子あるいはPKN1/PKN2遺伝子に関する遺伝子改変動物の脳組織を対象として、タウ代謝に関連する重要機能分子の活性複合体に対する結合・共存状態や神経細胞内会合部位を、免疫沈降・イムノブロット法等により生化学的に分析する。(1)CG-NAPと活性複合体を構成するPKN1など複数の機能分子の内容・量、またそれらのリン酸化状態など活性状態を解析する。(2)組織・細胞を分画後、CG-NAPおよび共に活性複合体を構成する複数の機能分子の細胞内局在を分析し、会合・共局在部位を検討する。(2)認知症関連遺伝子あるいはPKN1/PKN2遺伝子に関する遺伝子改変動物の脳組織を対象として、タウ代謝に関連する重要機能分子の活性複合体に対する結合・共存状態や神経細胞内会合部位を、高感度免疫組織化学法を用いた光学顕微鏡・共焦点レーザー顕微鏡・透過型電子顕微鏡観察により検討する。(1)CG-NAPと活性複合体を構成するPKN1など複数の機能分子の局在、またリン酸化特異抗体によりリン酸化状態など活性状態を解析する。(2)CG-NAPおよび共に活性複合体を構成する複数の機能分子の細胞内局在を分析し、タウ蛋白との会合・共局在部位を検討する。
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