2011 Fiscal Year Research-status Report
患者由来iPS細胞を用いた糖尿病の遺伝・病態解明と再生治療
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23591305
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤倉 純二 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70378743)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 糖尿病 / ミトコンドリア / 人工多能性幹細胞 |
Research Abstract |
ミトコンドリア糖尿病患者2名、1型糖尿病患者2名、インスリン分泌低下2型糖尿病患者1名から疾患特異的iPS細胞の樹立を試みた。 腹部皮膚由来の線維芽細胞にOCT4, SOX2, KLF4, c-MYCを発現する4種類のレトロウイルスベクターを感染させ、ヒトES細胞様コロニーをピックアップし患者一人当たりから4~12クローンを得た。AlP活性と未分化マーカー(SSEA3, SSEA4, TRA1-60, TRA1-80, NANOG)の発現を確認した。浮遊培養にて胚様体を形成後、接着培養した細胞において、内胚葉(FOXA2), 中胚葉(αSMA), 外胚葉(β3-tubulin)陽性となる細胞の存在を確認しvitroにおける多分化能を確認した。また、SCIDマウスへの移植により形成される奇形腫においても内胚葉(腸管), 中胚葉(軟骨),外胚葉(色素上皮・神経管)等の形成を確認しvivoにおける多分化能も確認できた。継代は80継代以上可能であった。以上より、種々の糖尿病患者から代謝状態に関わらずiPS細胞の樹立が可能であることを示すことが出来た。 ミトコンドリア糖尿病では、個々の細胞において、正常なミトコンドリアゲノム(3243A)と異常なミトコンドリアゲノム(3243G)を種々の割合で保有しており(ヘテロプラスミー)、一定の閾値を超えると障害が生じると考えられている。そこで、患者血液・線維芽細胞・樹立したiPSクローン(Mt-iPS)における変異率をInvader法により検討したところ、患者2人とも血液細胞、線維芽細胞における変異率は約20%であるのに対し、樹立したiPS細胞においては変異の消失したクローンと変異の増加したクローンとに分かれていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ミトコンドリア遺伝子異常症では、罹患した母親の重症度や変異率と子供の発病・重症度・変異率とは無関係であり、予測不可能である。しかし、世代を経る際に変異率が急激に変化する現象(急調分離:rapid segregation)が知られている。今回、同様の現象がiPS細胞でも認められたことは興味深く、ミトコンドリア遺伝子異常症の遺伝機構解明に役立つものと考えている。 また同一の核ゲノムを持ちながら、ミトコンドリア機能が異常な細胞と正常な細胞が得られることを示しており、これらのiPS細胞を罹患組織へ分化させれば、病態解析や創薬スクリーニングに利用できる可能性を示唆している。 また、ミトコンドリア遺伝子異常症を、遺伝子組換えという潜在的に危険な操作を用いずに正常に戻した自己の細胞により細胞移植治療を行うことが出来る可能性を示唆しておりミトコンドリア異常症への再生医療の重要な一歩であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) iPS樹立過程におけるミトコンドリア遺伝子変異比率の急調分離機構の解明: 今回認められた体細胞初期化過程における現象を改めて線維芽細胞からの樹立過程において検討する。(2) 未分化状態・分化細胞におけるミトコンドリア機能の解析: 変異消失iPSクローンと変異増大iPSクローンの未分化状態あるいは心筋、神経、膵β細胞、代謝関連臓器へ分化させた状態における分化能、細胞機能、ATP産生能、β酸化、ラジカル産生について比較する。(3) 体細胞におけるミトコンドリア遺伝子変異率変化の検討: 神経や膵β細胞では加齢と共にミトコンドリア遺伝子変異が蓄積するとの報告もある。各種臓器へ分化させる過程や分化後経過時間におけるヘテロプラスミーを定量し、変異の蓄積過程を追跡する。(4) iPS細胞を用いた代謝組織の作成: 膵前駆細胞の継代培養や培養条件の検討によりインスリンを産生するだけではない糖反応性獲得メカニズムを解析する。糖尿病状態において糖反応性が低下した膵β細胞にも共通する部分があると想定する。また、脂肪萎縮性糖尿病由来iPS細胞では脂肪蓄積能が低下していることを見出している。膵内分泌だけでなく白色・褐色脂肪組織の分化系も構築する。(5) 患者iPS細胞から分化させた内分泌代謝組織を用いての網羅的遺伝子解析・薬物反応性の検討:サンプリングが困難なヒトの内分泌細胞が糖尿病状態においてどう変容しているか不明である。そこで、遺伝子異常を伴うiPS細胞(ミトコンドリア・seipin・lamin)について膵・肝・筋・脂肪へ分化させ、健常者由来iPSとの比較を行い網羅的なマイクロアレイ解析により未知のメカニズム・治療標的を検討する。また既知の薬剤への反応性やスクリーニングによるヒト内分泌代謝組織を用いた創薬を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
細胞培養と遺伝子解析、蛋白発現解析に多額の費用が必要となる。
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Research Products
(2 results)