2011 Fiscal Year Research-status Report
膵島エピゲノム変化による耐糖能異常進展過程に関するゲノム網羅的解析
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23591330
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Research Institution | Research Institute, International Medical Center of Japan |
Principal Investigator |
南茂 隆生 独立行政法人国立国際医療研究センター, 研究所 糖尿病研究センター 代謝疾患研究部, 室長 (50594115)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | エネルギー・糖質代謝異常 |
Research Abstract |
10週齢の雄性C57BL/6Jに4週間の60%高脂肪食(以下、HFD)を摂取させたところ(HFDマウス)、通常食摂取の対照マウスと比較し、体重の増加と空腹時血糖の軽度増加を認めた。これらマウスから膵島を単離し、H3K27ac、H3K4me1、H3K36me3といったヒストン修飾についてChIP-seqを行った。H3K27acはエンハンサーのマーカーとして知られるが、HFDマウス膵島では対照マウス膵島と比較して、全ゲノム上11,066箇所においてそのエンリッチメントが増加していた。また、GREAT(Genomic Regions Enrichment of Annotations Tool, Nat Biotechnol 28, 495-501, 2010)を用いた解析により、これらの領域が膵ベータ細胞数、タンパク質フォールディングに関する遺伝子の発現調節に関与している可能性が示された。H3K4me1は遺伝子発現調節領域に特徴的なマーカーとして知られる。このヒストン修飾に関しては、HFDマウス膵島では対照と比較し、全ゲノム上において8,143箇所のエンリッチメントが上昇していた。転写領域に特徴的なH3K36me3については、HFDマウス膵島において4,683箇所のエンリッチメントが上昇していた。膵島からtotal RNAを精製し、mRNA-seqも行ったところ、遺伝子発現レベルとヒストン修飾のエンリッチメントには関連性が認められた。特に、HFDマウス膵島においてH3K27acエンリッチメントが対照マウス膵島より増大していた場合、その近傍に位置する遺伝子のmRNA発現レベルは、変化のなかったH3K27ac近傍の遺伝子と比較し上昇していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
糖尿病の病態にエピゲノム変化が関与している可能性が提唱されているが、その実体は未だにほとんど不明である。本研究を開始した初年度であったが、肥満および軽度耐糖能異常を有するHFDマウス膵島において、対照サンプルと比較してエピゲノム状態の顕著な差が広範囲に示された。さらに、これらの変化は多くの遺伝子発現の変化と関連しており、それらの遺伝子には膵島の機能亢進との強い関連性が示された。2型糖尿病の発症には、インスリン抵抗性をインスリン過剰分泌で補いうる「代償期」を経ることが知られているが、本結果が環境負荷による膵島の代償反応を示していることにはまず疑いの余地がなく、そのメカニズムにエピジェネティクス調節機構が関与していることが初めて明らかとなった。このような理由によって、本研究の方向性もより明確になったと考えられ、現在までにおおむね順調に進展していると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
HFD負荷による膵島エピゲノム変化の多数のターゲットが明らかとなりつつある。他のエピゲノムマーカーの検討を追加することは有用であると考えられるため、引き続いて実験を継続する。C57BL/6JマウスのHFD負荷モデルにおいて、18週間の負荷後においても、血糖値の上昇は軽度であった。今後は、耐糖能異常がより顕性化するようなモデルを用いてエピゲノム変化を検討し、代償性変化との違いを検討することにより、糖尿病発症の直接的な原因となるエピゲノム変化と、それに関連する遺伝子の候補を絞り込む。その後は、特定の遺伝子に注目した過剰発現やノックダウンをはじめ、機能解析実験の開始を考慮する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
顕性糖尿病を発症するモデルマウスの価格はC57BL/6Jマウスの約10倍であることが予想されるが、約40匹の購入を計画している(合計、約600千円)。動物施設使用料は、およそ180千円/一人・年である。8サンプル(一回分)のChIP-seqあるいはRNA-seqには約1,000 千円必要である。ChIP実験に適した抗体の購入には、1種類につき60-100千円が必要である。さらに、siRNAは1製品につき約40千円である。なお、本研究を実施する過程において、RNA-seq解析の有用性が認識された。また、新しくかつよりインパクトの高い手法が開発されたため、これらを視野に入れることにより、より高い研究成果が得られると判断し、「次年度使用額」として経費の一部を有効利用するよう考慮した。
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