2011 Fiscal Year Research-status Report
骨髄腫細胞のPU.1による細胞増殖停止のメカニズムの解明及び治療への応用
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23591395
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
奥野 豊 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 助教 (80363539)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | PU.1 / 多発性骨髄腫 |
Research Abstract |
我々はこれまで、正常の形質細胞においてPU.1が発現維持されていること、これに対して多くの骨髄腫細胞株及び一部の患者骨髄腫細胞においてPU.1の発現が低下していることを報告、更に PU.1の発現が低下している骨髄腫細胞株U266、 KMS12PEにconditionalにPU.1を発現すると、細胞増殖停止及び細胞死が起こることを報告した。我々は更にこの細胞増殖停止及び細胞死のメカニズムを調べるために、PU.1発現前後で発現量が変化する遺伝子の検索を行い、PU.1発現による骨髄腫細胞の細胞死にTRAILが関与していることが示された(Ueno et al, Oncogene. 2009; 28:4116-4125)。また、U266 tetPU.1細胞のPU.1による増殖停止には一部p21が関与していることが示唆された。細胞増殖停止のメカニズムとしてはKMS12PEではPU.1発現上昇にてp21の発現上昇を認めなかったことから別の細胞増殖停止のメカニズムがあると考え、現在PU.1によって発現上昇する蛋白を同定する為にPU.1発現後のU266とKMS12PEを用いてPU.1に結合している転写因子複合体の構成成分である他の転写因子をPU.1の抗体を用いた免疫沈降法と二次元電気泳動を用いて同定中である。一方、PU.1発現低下が多発性骨髄腫の発症に関わるかどうかを調べる為に現在形質細胞でのみPU.1をknockoutしたマウスを作成し現在解析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PU.1に結合している転写因子群を同定するための免疫沈降は順調に行われている。実際にPU.1に形質細胞内で結合している蛋白を蛋白二次元電気泳動を行ったり、質量分析装置にかけたりして単離していくのは大掛かりな仕事であり、全体としては順調にここまでは来ていると考える。形質細胞でPU.1をknockoutしたマウスはすでに作製済みであり、その意味で極めて研究は順調に進んでいる。現在はその表現型としてその生存曲線を作成したり、その表現系をみるために病理組織を作製してその表現系を確認しているところであり、実験の進捗は順調といえる。さらに我々は他のB細胞性の腫瘍であるHodgkin LymphomaにおいてもPU.1が発現低下していること、その細胞株であるL428やKM-H2にPU.1をtet-offの系を用いてconditional に発現させるとその細胞増殖が完全に停止することを明らかにした。これらの細胞ではPU.1の発現によりG1/G0 arrestを起こしたり、apoptosisを起こしていることが新たに判明した。さらにこれらの細胞株を免疫不全マウスの皮下に移植するとテトラサイクリンを飲水させた場合は腫瘍が増大して腫瘍死を引き起こすのに対して、テトラサイクリンを含まない通常の水を飲ませた場合には腫瘍の増殖が停止し縮小して長期に生存することを確認した。以上よりHodgkin Lymphoma 細胞においてもPU.1がTumor Suppressorとしての機能を持つことが証明された。
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Strategy for Future Research Activity |
PU.1に結合している転写因子群の同定についてはこれまで通り推進していく予定である。最終的にはPU.1によってアポトーシスや細胞増殖停止を引き起こしている遺伝子を同定すると同時に、これらの遺伝子の発現を上昇させるようなPU.1を含めた転写を高めるような薬剤の開発が可能であるかをさらに検討していく。また現在までの達成度の理由にて述べたように我々はPU.1がHodgkin Lymphoma細胞にin vitro 及び in vivo においてその増殖を停止させ、apoptosisを誘導すること明らかにした。従って同じB細胞由来の造血器腫瘍である多発性骨髄腫においてもHodgkin lymphomaにおいても、PU.1はTumor Suppressorであることを我々は明らかにした。従って、この多発性骨髄腫とHodgkin LymphomaにおいてPU.1によって誘導される共通の細胞増殖停止及び細胞死のメカニズムが想定され、これを明らかにすることで、これらB細胞由来造血器腫瘍に共通な新規分子標的薬の開発を目指す。形質細胞でPU.1をknockoutしたマウスはすでに作製済みであり、その表現系を調べていく予定である。実際にはこのマウスの骨髄細胞や脾臓の細胞を用いてFACSにてその表現型を解析したり、その病理標本を用いてその表現系を詳細に調べていく。必要ならば、これらの細胞を免疫不全マウスに移植してその表現系がどのようになるかを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
PU.1に結合している転写因子群の同定についてPU.1を発現したU266やKMS12PEなどの細胞を大量に培養して蛋白をそこから抽出して蛋白二次元電気泳動を行ったり、質量分析装置にかけたりしてPU.1の結合蛋白を単離するために研究費を使用する。形質細胞でPU.1をknockoutしたマウスの表現系を調べていくためにFACSにてその表現型を解析したり、その病理標本を用いてその表現系を詳細に調べるための経費に研究費を用いる。このマウスの細胞を免疫不全マウスに移植してその表現系がどのようになるかを検討するために免疫不全マウスの購入を行うための費用にも必要である。現在までの達成度の理由にて述べたように我々はPU.1がHodgkin Lymphoma細胞にin vitro 及び in vivo においてその増殖を停止させ、apoptosisを誘導すること明らかにした。この細胞増殖停止や細胞死のメカニズムを明らかにするために、PU.1発現前後でDNA microarrayを用いて発現上昇している遺伝子群、発現低下している遺伝子群を同定する。このHodgkin Lymphomaより得られる知見とこれまで多発性骨髄腫にて得られてきた知見とを組み合わせて総合的に分析してPU.1によってB細胞系造血器腫瘍に引き起こされる細胞増殖停止と細胞死ののメカニズムを明らかにする。
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