2011 Fiscal Year Research-status Report
ヒストン修飾を介した造血器悪性腫瘍細胞の耐性化機構の解明と治療への応用
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23591405
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
菊池 次郎 自治医科大学, 医学部, 准教授 (60371035)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 |
Research Abstract |
本研究では、造血器悪性腫瘍の抗がん剤耐性の克服を目指し、腫瘍細胞が抗がん剤耐性を獲得する際のヒストン修飾を介した遺伝子発現調節機構の解明を進めた。 まず、造血器悪性腫瘍細胞を抗がん剤にて処理の後、耐性化した細胞におけるヒストンコードの特徴を解析した。今回は、造血器悪性腫瘍の中でも抗がん剤耐性の克服が重要な課題であり、現在も難治性の疾患である多発性骨髄腫をモデルに用いて検討を進めた。抗がん剤としては、多発性骨髄腫の治療に用いられるデキサメタゾン、ビンクリスチン、ドキソルビシンやボルテゾミブを用いた。これらの抗がん剤を骨髄腫細胞株に作用させ、アセチル化やメチル化などの修飾を受けるヒストンH3のlysine-4(以下H3K4と略)やH3K9、H3K18、H3K27、H3K36及びH4K12のヒストン修飾様式を、それぞれの特異抗体を用いてウェスタンブロットにより検出した。 4種類の骨髄腫細胞株に先記した4種類の抗がん剤を作用させた結果、H3K27のメチル化の亢進が特徴的に観察された。また、H3K27のメチル化酵素であるEZH2の発現も検出された。EZH2はH3K27をメチル化して転写抑制的に働くことが報告されている。従って、EZH2が骨髄腫細胞のアポトーシス誘導に働く遺伝子の発現抑制を介して抗がん剤耐性に関与している可能性が示唆された。今後、EZH2遺伝子の過剰発現とノックダウンや、EZH2ヒストンメチル化阻害剤などを用いて抗がん剤耐性における機能解明を進める方針である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度中の目標は、耐性化した造血器悪性腫瘍細胞に特徴的なヒストンコードとヒストン修飾制御因子の解明であった。ヒストンコードとしてH3K27のメチル化を、ヒストン修飾制御因子としてEZH2を同定できたことから、目標は概ね達成できたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、耐性化した細胞で発現の見られたEZH2について、遺伝子過剰発現やノックダウン、またはEZH2ヒストンメチル化阻害剤などを用いて、抗がん剤耐性におけるEZH2の機能解明を進める。 まず、レンチウィルスベクターを用いてEZH2遺伝子あるいはEZH2に対するsh-RNAを骨髄腫細胞株へ導入し、過剰発現あるいはノックダウン亜株を樹立する。これらの亜株の抗がん剤に対する耐性能をアポトーシス誘導等により検出し、EZH2が耐性化の鍵分子であることの検証を進める。また、デキサメタゾンを含む抗がん剤とEZH2ヒストンメチル化阻害剤の併用が、骨髄腫細胞株のアポトーシス誘導に与える作用を解析し、EZH2の誘導するH3K27のメチル化が耐性化の鍵になるヒストンコードであることの検証を進める。 さらに、樹立した亜株を免疫不全マウスへ移植したモデルを作成、抗がん剤投与による腫瘍増殖能の比較から、in vivoにおける検証も進める。in vitroにおいてEZH2阻害剤併用が相加的に作用した抗がん剤の組み合わせをマウスモデルへも適用し、腫瘍増殖への作用を検証する。顕著な増殖抑制効果が観察されれば、耐性克服にも有望な新規治療法として期待される。 また、H3K27メチル化を介して転写制御を受ける遺伝子をChIP-シークエンス等を用いてスクリーニングし、下流にある分子の同定を進める。この中からsh-RNAを用いたloss-of-function解析を繰り返し、耐性化の鍵分子の同定を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
骨髄腫細胞株の培養に用いる培地や血清など細胞培養関連試薬について約30万円程度を、制限酵素やPCR酵素など分子生物学関連試薬について約30万円程度、ウェスタンブロットやフローサイトメトリー解析に用いる抗体など免疫関連試薬について約40万円程度と骨髄腫細胞の移植モデルに用いる免疫不全マウスの購入やマウス維持に必要な実験動物費について約40万円程度、合計で140万円程度の予算を見込んでおり、今年度(平成24年度)分の予算は年度内にすべて使用する計画である。
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