2011 Fiscal Year Research-status Report
DUOX2遺伝子変異による先天性甲状腺機能低下症の有病率・臨床像・分子機序の解明
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23591517
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
長谷川 奉延 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (20189533)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 先天性甲状腺機能低下症 / DUOX2 / 有病率 / 機能解析 |
Research Abstract |
甲状腺細胞濾胞面に発現するDUOX2による過酸化水素供給は甲状腺ホルモン合成系の律速段階である。DUOX2異常症に関する平成23年度研究実績は以下の通りであり、J Clin Endicrinol Metab. 96:E1838-1842, 2011に発表した。1.地域集団に基づいた先天性甲状腺機能低下症(congenital hypothyroidism 以下CH)患者(N=102)を対象とし変異解析および変異DUOX2分子の機能解析(下記3参照)を行った。その結果8名の両アレル性DUOX2変異を同定した。両アリル性DUOX2変異による永続性CH有病率は、我が国一般人口において1/44,000、CH 患者集団において8/102(7.8%)であった。甲状腺ホルモン合成障害による永続性CHの43%の原因はDUOX2変異であった。以上、世界で初めてDUOX2異常症の有病率を明らかにした。2.DUOX2変異によるCHの遺伝形式は常染色体劣性遺伝であることを世界で初めて明らかにした。3.変異DUOX2 分子の発現実験系での機能解析方法を確立した。すなわち、HEK293細胞を用いた一過性強制発現により、野生型および変異型DUOX2 の過酸化水素産生能を定量化することに成功した。DUOX2 分子の機能解析方法の確立はシカゴ大学について世界で二番目、我が国において初めてである。4.両アリル性DUOX2変異による永続性CHの臨床症状は、新生児期にもっとも重症で、その後2歳までに軽症化することを明らかにした。すなわち、血中TSH値、血中サイログロブリン値、および甲状腺サイズは改善する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
DUOX2 異常症の疾患概念を確立することを目指す本研究の現在までの達成度は3年間全体の50%、平成23年度単年としては120%である。その理由を、交付申請書に記載した「研究の目的」とともに述べる。 研究目的1.両アリル性DUOX2 変異による先天性甲状腺機能低下症(congenital hypothyroidism 以下CH)の一般人口および永続性CH 患者集団における有病率を明確にする:両アリル性DUOX2 変異による永続性CH の一般人口およびCH 患者集団における有病率を世界に先駆けて明らかにした。したがって研究目的1を達成した。 研究目的2.変異陽性患者の臨床像の分析により、両アリル性DUOX2 変異保有者および片アリル性DUOX2変異保有者の遺伝形式を含む臨床像を明確にする:両アリル性DUOX2 変異による永続性CHの遺伝形式を常染色体劣性遺伝と決定し、その臨床症状は"新生児期にもっとも重症でその後2歳までに軽症化する"ことを明らかにした。すなわち、研究目的2のうち両アリル性DUOX2 変異による永続性CHの臨床像に関する目的を達成した。両アリル性DUOX2 変異による一過性CH、および片アリル性DUOX2 変異の臨床像の解明が今後の課題である。 研究目的3.変異DUOX2 分子の発現実験系での機能解析により、DUOX2 変異による分子機能喪失の機序を解明する:野生型および変異DUOX2 分子の一過性強制発現による過酸化水素産生能を定量化することに成功し、4種類の変異DUOX2 分子の過酸化水素産生能低下を証明した。一方、変異DUOX2 分子のひとつであるp.H678Rの分子機能は部分的過酸化水素産生能低下かつ部分的転写効率低下であり、他の変異DUOX2 分子機能とは異なっていた。すなわち研究目的3をほぼ達成した。
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Strategy for Future Research Activity |
両アリル性DUOX2 変異による一過性CHの臨床像および片アリル性DUOX2 変異の臨床像を解明すること、さらに両アレル性p.H678R変異による永続性CH発症機序を解明することを目指す。このために平成24年度以降に計画している研究は以下の通りである。 1.一過性CHを対象としてDUOX2 変異解析をおこなう。一過性CH 対象基準は、CH マススクリーニング陽性であり、当初は治療を要したが、その後治療不要となった者(ただし、甲状腺外要因による一過性CH は除外する)とする。両アレルDUOX2変異陽性患者を同定し、その臨床像を分析する。すなわち、マススクリーニング・理学的所見・家族歴・母体妊娠経過・甲状腺機能・甲状腺超音波検査の各結果、次いで病型診断精査時の情報として甲状腺機能・TRH 負荷試験・甲状腺シンチ・パークロレイト放出試験の各結果、である。なお、変異DUOX2 分子の機能喪失を平成23年度に確立した方法により確認する。 2.平成23年度および平成24年度に同定した永続性CHあるいは一過性CHにおける片アリル性DUOX2 変異保有者において、上述1と同様の方法を用いて臨床像との関連の有無を検討する。このさい、コントロール集団における同じ片アリル性DUOX2 変異保有者の有無を確認する。さらに永続性CHあるいは一過性CHにおける片アリル性DUOX2 変異保有者において、2つ以上の異なる遺伝子変異の組み合わせによるCH発症(oligogenicity)の可能性を検討する。すなわちDUOX2以外のCH責任遺伝子の変異解析、かつ一過性強制発現による2つ以上の変異分子(DUOX2および他のCH責任遺伝子産物)の同時機能解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費のうちの直接経費1,300千円は以下のようにすべて消耗品費にあてる。変異体DNA作成キット:45千円、クローニングキット:50千円、プラスミド抽出キット:20千円、細胞培養試薬および容器:30千円、野生型および変異型DUOX2分子機能解析用試薬(過酸化水素測定試薬、その他):735千円、PCR用試薬:250千円、直接シークエンス用試薬およびキット:120千円、ピペット・チップ類:15千円、印刷用紙・印刷用インク類:35千円
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