2012 Fiscal Year Research-status Report
プロテオーム法を用いた小児期炎症性疾患の発症病因に関する網羅的解析
Project/Area Number |
23591545
|
Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
森 雅亮 横浜市立大学, 市民総合医療センター, 准教授 (30254204)
|
Keywords | サイトカイン / 小児炎症性疾患 |
Research Abstract |
【当該年度に行った具体的内容】ウイルス関連血球貪食症候群および自己炎症症候群にみられるcytokine stormの解析ついて検討した。 1) 炎症病態の推移に応じた炎症性サイトカイン産出のプロフィールの確定:患者末梢単核球の細胞表面マーカーや既知の免疫機能制御分子、ケモカインの発現パターンとその量的変化、Th1/Th2バランスの変化などを炎症極期および鎮静期において検討を行った。2) 炎症極期あるいは鎮静期に発現しているタンパクの網羅的解析:ゲル電気泳動法で分離された蛋白質を、転写産物機能の解析法であるdifferential display法にて比較検討することにより、各患児の炎症極期あるいは鎮静期に発現している特異的蛋白を検出し比較した。3) Toll-like receptorおよびNodファミリータンパクのプロテオーム解析:自然免疫の二つの認識機構であるToll-like receptorおよびNodファミリータンパクの発現量をプロテオーム解析にて検討し、臨床症状と照合して解析した。 【研究の意義、重要性】 炎症性サイトカインが過剰に産出されると、血管内皮細胞の異常な活性化が起こり、やがて血管壁の内皮細胞の破壊により凝固系調節の破綻(DICへの進行)、内皮透過性の破綻、多臓器不全へと移行する。小児期にみられる免疫病の進展はまさにこのようなことが共通にみられる特徴があり、cytokine stormは炎症性サイトカインの調節不全として理解できる。すなわち、Toll-like receptor系タンパク、Nodファミリー・タンパク、炎症性サイトカインの質的・量的な差異が、その疾患自体を規定し、活動期あるいは非活動期の病態を形成している可能性がある。その詳細を検討することで、低年齢の子ども達の「炎症」を惹起する病因および機序の解明がなされることとなると確信している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで当科では、川崎病急性期に血清中で炎症に関わるサイトカインの異常高値が生じ、血管内皮細胞の活性化、接着因子や凝固調節因子の異常発現を介した血管炎の病態について検討してきた。また、私たちは、全身発症型若年性特発性関節炎でも発症にIL-6が重要な役割を果たしていることを明確にし、その治療に抗IL-6レセプター抗体を用いたIL-6遮断療法が画期的効果を挙げたもたらすことを報告した。本疾患から病態転換を起こしたマクロファージ活性化症候群が高サイトカイン血症をきたしcytokine stormをきたす典型的疾患である。そこで、上記2疾患を含めた小児期炎症性疾患において、Toll-like receptor系タンパク、Nodファミリー・タンパクおよびcytokineの同定について以下のような手順でアプローチしている。 1) 炎症病態の推移に応じた炎症性サイトカイン産出のプロフィールを各種炎症性疾患ごとに確定し、比較検討を行う。 2) プロテオーム解析により、サイトカインをはじめとする各種炎症性疾患の炎症極期・鎮静期の末梢血細胞に発現している蛋白を網羅的に解析し、病因タンパク質を突き止める。 3) 解析・同定できた病因タンパク質と、Toll-like receptorおよびNodファミリータンパク(RICK、ASC、pyrin、cryopyrin)の発現量の関連性をプロテオーム解析にて検討し、臨床症状と照合し疾患間の差異について解析する。 私は、これまで、川崎病、マクロファージ活性化症候群、インフルエンザ脳症、ウイルス関連血球貪食症候群、自己炎症症候群におけるcytokine stormの解析は終了しており、概ね順調に研究は計画通りに進行していると判断している。
|
Strategy for Future Research Activity |
小児期の免疫疾患の中には、川崎病、インフルエンザ脳症、ウイルス関連血球貪食症候群、全身発症型若年性特発性関節炎および最近わが国でも報告が相次いでいる自己炎症症候群など、炎症性サイトカインによるcytokine stormが病態形成に濃厚に関わっている炎症性疾患が少なくない。とくに、川崎病やインフルエンザ脳症のように、好発年齢が0歳から1歳をピークとして5歳までを主体とした乳幼児特有の炎症性疾患が、特に自然免疫の解明とのかかわりの中で注目されてきている。何がこのような低年齢の子ども達の「炎症」を惹起し、なぜcytokine stormを起こしうるのかについての検討はこれまで行われてはいなかった。本研究の目的は、まさにこの点を解明するために必要なデータを集積し解析することにある。 来年度は、これまで解析してきた川崎病、マクロファージ活性化症候群、インフルエンザ脳症、ウイルス関連血球貪食症候群、自己炎症症候群におけるcytokine stormの解析を参考に、各種小児炎症性疾患における疾患特異的蛋白質の比較検討の総括を行い、最終結果報告を纏める。纏めた結果については、英文誌に報告する予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、データ解析および論文作成・公表のために使う予定である。 詳しくは、以下のように考えている。 物品費110万円、旅費45万円、人件費・謝金36万円、原稿制作費・通信費36万円となります。
|