2012 Fiscal Year Research-status Report
ダウン症児における一過性骨髄増殖症の発症と自然治癒機構の分子・細胞生物学的解析
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23591552
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Research Institution | Tokyo Dental College |
Principal Investigator |
宮内 潤 東京歯科大学, 歯学部, 教授 (20146707)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川口 裕之 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, その他部局等, 准教授 (00313130)
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Keywords | 一過性白血病 / ダウン症候群 / 造血微小環境 / 造血因子 |
Research Abstract |
ダウン症候群の新生児期にみられる一過性骨髄増殖症(TMD)は急性白血病と区別困難な骨髄芽球の増殖をきたすも、無治療で自然治癒する疾患で、胎児期の肝臓で発生する特殊な造血器腫瘍と考えられている。この疾患の自然治癒機構として、生後に造血の場が肝臓から骨髄に移行することが関連する可能性が考えられるため、本研究では胎児の造血微小環境がTMDの芽球増殖に及ぼす影響を明らかにする目的で、胎児の肝臓と骨髄から得られた間質細胞をin vitroにてTMDの芽球と共培養し、その影響を解析した。前年度までの研究にて、骨髄ではなく胎児肝の間質細胞がTMDの芽球増殖を支持すること、胎児肝の間質細胞は種々の造血因子を産生することが示されたが、どの造血因子がTMDの芽球増殖に関わるかは不明であった。今回、3種の造血因子すなわち、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、幹細胞因子(SCF)に対する中和抗体を用いて、胎児肝に由来する間質細胞の培養上清中に含まれる造血因子の活性抑制実験を行った。予備実験として、造血因子依存性白血病細胞株を用いてこれら抗体の中和活性を確認した。胎児肝間質細胞の培養上清が有するTMD芽球増殖刺激活性は抗GM-CSF抗体の存在下で有意に抑制されたが、他の抗体はこの作用を示さなかった。したがって胎児肝におけるTMDの芽球増殖には、GM-CSFが深く関与していることが証明された。複数例のTMD症例と胎児肝間質細胞を使用して同様の結果が得られたことから、上記の結果はTMDに一般化されうると考えられた。TMDは通常自然治癒する予後良好な疾患であるが、致死性の経過をとる症例もあり、このような症例には抗GM-CSF抗体が化学療法に代わる新たな治療法として使用しうる可能性も考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は研究計画調書の平成23年度の計画4)と平成24年度以降の研究計画の3)に記載した研究を重点的に継続・進展させ、TMDの芽球増殖と発症に及ぼす胎児肝臓の造血微小環境が果たす役割を解析した結果、胎児肝の間質細胞から産生されるGM-CSFという特定の造血因子がきわめて重要な役割を果たすことを明らかにすることができた。今回得られた結果はこれまで世界的に報告がなく、TMD患者の治療への応用の可能性をもった大きな成果といえる。これに対して、その他の部に記載した計画は計画よりも遅れているが、研究全体の進行としては、上記の理由から、おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までのin vitroの研究にて、胎児肝の造血微小環境構成細胞とそこから産生される造血因子がTMDの芽球増殖に重要な役割を果たすことが証明されたことから、本年度はこれらの成果を基盤として、この研究をさらに進展させるために、in vivoでの解析を行なう予定である(研究計画調書の平成24年度以降の研究計画3)と4)に相当)。具体的には、ダウン症の胎児およびTMD症例の剖検組織を用いて、ダウン症の胎児肝組織(対照として非ダウン症の胎児肝臓)にて実際にどのような造血因子がどこから産生されているかを免疫組織化学にて特定し、さらにTMD芽球の組織内分布との関連性を検討する。また免疫不全動物にTMD細胞を移植する実験にて、動物の生体内におけるTMD細胞の分布と造血微小環境との関係も解析する。以上の研究を柱としつつ、平成24年度以降の研究計画1)と2)に記載した研究を同時に進行する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度の研究費62,115円分が本年度に繰り越しとなったが、注文した抗体の製造元(海外のメーカー)の都合で納期が遅れており、次年度に繰り越しとなったものである。下記の1) にて使用予定である。 1) ダウン症胎児の肝臓における造血因子の産生細胞と局在を免疫組織化学にて証明するために、パラフィン切片に使用可能な造血因子に対する特異抗体を購入する。 2) パラフィンブロックからDNAを抽出して、TMD細胞のGATA1遺伝子異常を解析するための試薬を購入する。in situ PCR法に必要なPCRプライマー、Taq polymeraseを含む酵素類と試薬、サーマルサイクラー等を購入する。 3) 免疫不全動物(NOGマウス)を購入する。移植細胞を識別する白血球抗原発現解析のための抗体を購入する。 4)全長型GATA1遺伝子発現ベクターおよびGATA1s発現を抑制するsiRNAの作製と細胞株への導入に必要な試薬を購入する。
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Research Products
(12 results)