2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23591585
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
新村 文男 東海大学, 医学部, 准教授 (30282750)
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Keywords | 腎障害 / シクロスポリン / 抗酸化防御機構 / 酸化ストレス / Keap1 / Nrf2 / 糸球体硬化 / 間質繊維化 |
Research Abstract |
Nrf2欠損マウスを用いて、シクロスポリン(CyA)投与による腎障害を検討した。腎組織では間質繊維化はごく軽度で、CyA投与による有意な線維増生を認めるに至らなかった。各種遺伝子発現の検討をwild type+vehicle(WT+veh)群、knockout(KO)+veh群、WT+CyA群、KO+CyA群の4群に分けて検討した。繊維化の指標としてTGFβ1mRNAを検討した。CyA投与によりTGFβ1の発現はやや減弱した(約70%程度になる)が、Nrf2欠損マウスにCyAを投与するとTGFβ1の発現は増加傾向(1.2倍程度になる)を示し、組織学的にはKO+CyA群における繊維化の増悪は明らかではなかったものの、TGFβ1発現は増悪傾向が認められた。次にNrf2の下流にある抗酸化防御遺伝子として、hemoxygenase-1(HO-1)、NQO1、GTSM1を検討した。この中でCyA投与により発現増強を認めたのはHO-1のみで、約6.7倍となった。この発現増強は、Nrf2欠損マウスでは約3分の1に抑制された。HO-1はTGFβ1の発現を抑制することが知られており、Nrf2欠損マウスではCyA投与時のHO-1発現が十分でなく、結果としてTGFβ1の発現が増強したと考えた。尿細管障害の指標としてVnn1、Kim1の発現を検討したところ、CyA投与によりKim1発現の著明な増強を認めた。Nrf2欠損の影響として、一部の個体でKim1発現がさらに増強する現象が見られたものの、個体差が大きく、有意差を呈するには至らなかった。 Keap1ノックダウンマウスを用いた検討をするべく、マウスの繁殖を行ったが、繁殖に時間を要しており、十分な個体数を得るまでに至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Nrf2ノックアウトマウスを用いた実験系では、CyAにより腎臓でのHO-1発現が増強しており、その増強はNrf2を介していることが今回の検討で証明された。しかしながらシクロスポリンによる腎繊維化の程度が軽微であったため、投与量を変えて検討する必要が生じた。従来の投与量よりも多い50mg/kgを投与しても著明な繊維化を得ることはできなかったが、100mg/kgの投与では投与中に個体の死亡が多くなるため、最大投与量として50mg/kgの投与を選択した。組織学的な解析は当初PAS染色を用いて行い、後に繊維化を定量化する目的でシリウスレッド染色を行ったが、線維増生を有意に示すことができなかった。そのため、遺伝子発現を主に観察することを目的として、動物実験を行った。Nrf2欠損の影響として、すぐ下流にある遺伝子発現は著明に抑制されているが、最終的に繊維化に影響を与える点については、明確な関連性を見いだすことにやや難航している。CyA投与による腎繊維化が従来の報告に比して軽微である原因は不明であり、その点でも実験の進行が遅れ気味となっている。 Keap1ノックダウンマウスでNrf2欠損マウスと同様の検討を行うことでNrf2の関与がより明確になるものと考えているが、繁殖を始めるにあたり、当初、交配がうまくいかず、個体数を増やすのに時間を要している。null alleleを有する系統のマウスと、loxP配列を有する系統のマウスの2系統を十分に増やしてからでないと、null alleleとloxP配列を有するコンパウンドへテロ接合体を有する目的のマウスを一度に十分量提供できないため、現在叙述の2系統を増やしている。最終的に実験に使用するコンパウンドへテロマウスの十分な個体数を得るためには、人工受精を行ってでも多くの同胞を得ることを計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
CyA投与による腎障害については、腎繊維化の所見が顕著ではなく、潜在的な繊維化の進行や、尿細管障害の一環としてのアポトーシスや、尿細管障害に対して防御的に働くことが証明されつつあるオートファジーの影響を検討することを予定している。遺伝子発現以外にも、蛋白レベルでの発現も検討する予定である。また、同時にCyAの投与量や投与期間についても、低用量でより長期にわたって投与する系なども検討する。HO-1の発現の差が、実際の酸化ストレスそのものをどの様に軽減しているかを検討することは、Nrf2およびその下流のHO-1が抗酸化防御作用を発揮しているかどうかを検証するために必要であり、組織ホモジネート中のMDA定量を行っているところである。 Kepa1ノックダウンマウスにおいては、Nrf2が十分に作用する状況にあるため、HO-1やその他の抗酸化防御遺伝子がup regulateされることが予測され、腎組織での発現を検討する。その結果、酸化ストレスが実際に軽減されているか、繊維化の抑制傾向があるか、尿細管障害のマーカーがどの様な影響を受けるかを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
シクロスポリンによる腎障害については、Nrf2ノックアウトマウス、Keap1ノックダウンマウスにおいて腎障害を惹起する系を重ねて実施する。マウスの飼育はCGEHDおよび医学部棟内の飼育施設にて行っているが、CyAの投与実験を行うのに必要な個体数を十分確保するために飼育に要する費用が多くなっており、年間65万円を見込んでいるが、より多く必要となる可能性もある。組織学的検索および、リアルタイムPCR法などによる遺伝子発現の解析、血清中・組織中の酸化ストレスマーカーの測定などに要する費用として、30万円は必要と考えている。その他、情報収集目的の学会参加に10万円程度を見込んでいるが、飼育に要する費用の推移によっては減額もやむなしと考えている。
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