2011 Fiscal Year Research-status Report
皮膚再生機構の解明ー毛包細胞内シグナル伝達機構の解析ー
Project/Area Number |
23591644
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
板見 智 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座教授 (30136791)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
乾 重樹 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座准教授 (30324750)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 毛包 / 幹細胞 / LRIG1 / 再生 / ARA55/hic-5 / TGF-β-Smad |
Research Abstract |
1. 成長期への移行や創傷治癒には毛隆起に存在する幹細胞が間葉系の毛乳頭細胞や真皮繊維芽細胞(いわゆる幹細胞のニッチ)からのシグナルにより活性化され再生に必要な娘細胞を供給すると考えられている。我々はLRIG1という1回膜貫通型蛋白が毛隆起の直上にあるjunctional zoneに局在する角化幹細胞に特異的に発現していることを明らかにしてきた(Cell Stem Cell. 4: 427-439, 2009)。LRIG1はErbB レセプターを介するシグナルを負に制御しMycの発現を抑制し、表皮と脂腺の恒常性を維持するために機能している。LRIG1はErbB レセプター以外にMetを介するシグナルも負に制御しているが、その細胞外ドメインはADAMプロテアーゼにより切断され、パラクライン機構で細胞増殖を制御していることも明らかにした(Exp Cell Res. 317: 504-512, 2011)。さらにLRIG1は腸管の幹細胞にも発現しており、その増殖を負に制御することで幹細胞の恒常性を維持していることを明らかにした(Nat Cell Biol.in press,2012)2. ARA55/hic-5は毛乳頭細胞において男性ホルモンレセプター活性を増強する共役因子である(J Invest Dermatol. 127:2302-2306, 2007)。TGF-β1は毛乳頭細胞自身に働いてSmad3を介してアンドロゲン受容体の活性を増強しており、さらにこの作用はHic-5/ARA55の高発現によって逆に抑制されていた(J Dermatol Sci. 64:149-151, 2011)。これはアンドロゲン受容体の活性を増強するというHic-5/ARA55の本来の機能とは逆の働きであり、男性型脱毛症部の毛乳頭細胞において複雑な代償機構も存在することが推測された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1.LRIG1の機能解析については、共同研究により多くの新知見を得ることが出来た。可溶型LRIG1の存在とその機能解析は我々が以前明らかにした扁平上皮癌におけるLRIG1発現低下に対して細胞外ドメインのみの可溶型LRIG1による分子標的治療薬の可能性を示唆した。またLRIG1が皮膚のみならず腸管などの幹細胞においても非常に重要な機能を担っているという知見は幹細胞研究に重要な情報を提供できた。2.男性型脱毛症における男性ホルモンの作用機構については共役因子である Hic-5/ARA55によるチェックバランスという一見複雑な制御機構があることを明らかに出来た。TGF-β1は男性ホルモンによって毛乳頭細胞から誘導される毛の成長抑制分子であるが、毛乳頭細胞自身にパラクリンに作用した場合にはHic-5/ARA55を介してsmad3経路を抑制することで代償機構として機能していた。
|
Strategy for Future Research Activity |
23年度は共同研究によるLRIG1の機能解析に重点を置いたことにより多くの新知見を得た。今後は毛乳頭細胞におけるTGF-β-Smad経路の解析を重点的に行う。さらにLED照射の皮膚再生に関する新知見を得ており、その機能解析も行う予定である。1.TGF-β1の毛乳頭細胞男性ホルモン受容体活性へ影響を及ぼす細胞内シグナルの同定TGF-βが受容体に結合すると細胞内シグナル伝達分子であるR-Smadがリン酸化され、 Co-Smadと結合して、核内へと移行する。核内でSmad複合体は自らDNAに結合し、あるいは種々の転写因子と相互作用することにより、標的遺伝子の転写を調節する。そこでSmad3をはじめとするSmad分子群をsiRNAを用いて毛乳頭細胞においてノックダウンし、TGF-β1による男性ホルモン受容体への影響の変化をMMTV-Lucによるレポーターアッセイにて調べ、Smad経路の関与について検討する。Smadを介さない経路の検索に関しては、男性型脱毛症毛乳頭細胞を用いてTGF-β1により、発現量が変化する遺伝子をマイクロアレイ法にて検索する。また成長期誘導に関与する遺伝子、男性ホルモン受容体活性に影響しうる遺伝子に注目し、その変化をreal time RT-PCRにて確認する。さらにヒトキナーゼに対するリン酸化部位特異的抗体をスポットしたアレイで、部位特異的にリン酸化されたセリン、スレオニン、チロシンキナーゼを検出する。2.LEDによる皮膚再生機構最適照射波長、時間について創傷治癒や毛周期の進行に関わる細胞成長因子産生をマウスと培養毛乳頭細胞を用いて検討する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
男性ホルモンの毛包での作用機構解析がやや遅れたため23年度の研究費に未使用額が生じたが、次年度に納入されるため今年度行う予定の研究計画と併せて実施する。研究計画に必要な機器はすでに有しており、研究費はおもに消耗品に使用する。培養関連試薬としては毛乳頭細胞のために牛胎児血清(1 リットルにつき約2 万円)、角化細胞培養液(1 リットルにつき約2.5 万円)を使用する。分子生物学的手法を行うための試薬(例:ルシフェラーゼアッセイ試薬およびトランスフェクション試薬が各々1000 サンプルで約20 万円ずつ)の購入やマイクロアレイ法およびリン酸化アレイ法のプレートは1 枚あたり約10 万円を必要とする。さらに数種類の抗体(例:phospho smad3 抗体が7.3万円など)の購入、さらには国際学会等における成果発表に使用する。
|