2011 Fiscal Year Research-status Report
脳を育てるうつ病治療:中枢-末梢両面からの脳神経回路網修復促進機構の解明
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23591677
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
橋本 恵理 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (30301401)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鵜飼 渉 札幌医科大学, 医学部, 講師 (40381256)
山田 美佐 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所, 研究員 (10384182)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 神経科学 / 脳・神経 / うつ病 / 抗うつ薬 / 神経新生 / BDNF / 末梢血 |
Research Abstract |
我々はこれまでに抗うつ薬が脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)を介して神経新生促進に働いている可能性を示し、内在性神経幹細胞の活性化を介した神経回路網の修復・再生を目指した治療に関する研究を進めてきた。BDNFは脳内のみならず末梢血にも存在し、その多くが血小板で貯蔵、放出される。抗うつ薬により血小板からのBDNF遊離が促進されて末梢血中のBDNFが増加することを既に報告しているが、BDNFは血液脳関門を通過し、その血中濃度は脳内濃度を反映することが推察されている。末梢血中のBDNFが脳内へ移行し作用している可能性が指摘されており、その治療的応用も期待されるが、末梢BDNF変化が脳に与える影響およびその具体的作用機序は未だ不明である。本研究では、BDNFが中枢-末梢双方向で果たす役割を解明するため、蛍光標識したBDNF(BDNF-FITC)を用いて、末梢BDNF投与後の脳内移行に関する検討を行った。末梢BDNF-FITC投与24時間後にラット海馬歯状回にBDNF-FITCの集積が認められ、一部は神経細胞の形態を有していた。さらに、神経新生促進時の中枢における変化を分子レベルで把握する試みとして、抗うつ薬長期投与によりラット脳内で発現量が特異的に変化する遺伝子をスポットしたADRG(antidepressant related gene) microarrayを用いて、神経幹細胞分化時に選択的に発現変化する遺伝子の網羅的スクリーニングを行い、rhotekinの発現が変動していることを見出した。Rhotekinの産生は神経幹細胞と神経細胞で認められた。この産生量は神経分化に伴い有意に増加し、rhotekinが神経幹細胞から成熟神経細胞へ分化する過程の重要な調節因子であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、BDNFをはじめとする神経新生促進因子の中枢-末梢両面からの活用による神経回路網修復促進機構の解明を図ることを目的としている。まず、BDNFが中枢-末梢双方向で果たす役割を明らかにするため、末梢から蛍光標識したBDNF(BDNF-FITC)を経静脈的に投与し、その後の脳内移行を検索することを計画し、良い結果が得られている。すなわち、末梢BDNF投与24時間後にラット海馬歯状回にBDNF-FITCの集積が認められ、一部は神経細胞の形態を有していたことから、投与BDNF-FITCが脳内へ移行し、内在性神経幹細胞の活性化促進に影響を与えたことが示唆された。実験に用いる動物の条件を変えてのさらなる検索に関してはまだ終了していないが、同様の手法で実施可能な見込みが十分に立っている。また、神経幹細胞の分化に関与する遺伝子の検索に関しては、スクリーニングのみならず、候補遺伝子のひとつに関して、蛋白発現の変動などの解析を進めることができ、この点は当初の予定以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の研究成果のひとつとして、抗うつ薬慢性投与後のラット脳内遺伝子変化に関する網羅的スクリーニングから、rhotekinの発現が変動していることを見出したが、低分子Gタンパク質Rhoの下流シグナルであるrhotekinについては、中枢神経系における機能はあまりわかっていない。よって、今後は遺伝子の発現変動およびin vitro, in vivoでの機能解析、特に神経幹細胞の増殖、神経分化、神経突起伸長、および神経細胞の生存維持に関する影響を検索し、神経新生促進時の中枢における変化の分子レベルでの把握を目指す。また、神経新生促進因子を末梢-中枢両面から治療的に活用するという本研究の目的に沿った新たな知見が得られるように、末梢投与BDNFの脳内移行に加え、脳内での動態の追跡解析を進めていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は東日本大震災の影響により交付額の減額が行われる可能性があるとのことで研究費が分割払いされることになったため、特に上半期は当初の計画通り予算執行できなくなり、仮に2回目の研究費送金額が減額となった場合でも最大限の成果をあげるために当初の予定から研究実施計画の順番など多少の変更を余儀なくされた。よって、モデル動物を使用する検討の一部を次年度に行う計画とし、その実施に次年度使用額をあてる。平成24年度の研究費の使用計画に関しては、前述の理由で平成23年度に多少抑えざるを得なかった消耗品費として、研究遂行に必要不可欠な神経幹細胞の培養や細胞機能評価に用いる試薬、末梢血因子遊離機能評価に必要な試薬、実験動物、実験器具類の購入・維持に必要な経費を使用する予定である。また、国内外での学会での研究成果発表のための費用を年間数件程度見込んでいる。現時点では平成24年開催の学会CINP, ISBRAへの参加が既に決まっており、そのための旅費、参加費として使用予定である。
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Research Products
(20 results)