2012 Fiscal Year Research-status Report
がんの相同組換え修復能の特性に基づいた放射線治療とPARP阻害剤の併用療法の開発
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23591836
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
細谷 紀子 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00396748)
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Keywords | 癌 / 相同組換え / 放射線 / PARP阻害剤 |
Research Abstract |
がん治療を効果的に行うためには、がん細胞には存在し、正常細胞には存在しない核酸代謝情報の特性を踏まえることが重要である。研究代表者らは、正常の体細胞では発現せず、がん細胞において特異的に発現する減数分裂特異的シナプトネマ複合体形成分子SYCP3が体細胞で異所性に発現することによって生じる生物学的影響について検討を行い、SYCP3が体細胞では癌抑制遺伝子産物BRCA2と複合体を形成して相同組換え修復機能を抑制することにより、細胞の放射線感受性の亢進と染色体不安定性を引き起こすことを明らかにした。前年度には、PARP阻害剤のSYCP3発現細胞における有効性、および、PARP阻害剤とDNA損傷性処理の併用の有効性について検討を行い、SYCP3発現細胞がPARP阻害剤に極めて高い感受性を示すこと、また、SYCP3発現細胞において、PARP阻害剤とDNA損傷性処理を併用した場合の方が、PARP阻害剤を単独で投与した場合に比べて、殺細胞効果がより強く発揮されることを示した。今年度は、SYCP3がBRCA2と複合体を形成することにより、どのように相同組換え修復を抑制しているのかを明らかにするために、タグを付加したSYCP3と別のタグを付加した様々なBRCA2の欠失体のコンストラクトを外来性に培養細胞に共発現し、免疫沈降(IP)・ウエスタンブロット(WB)法を用いて、SYCP3と結合するBRCA2の領域の絞り込みを進めてきた。その結果、BRCA2のN末端とC末端にSYCP3が結合することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
BRCA2の機能が抑制されているSYCP3発現細胞においてPARP阻害剤が有効であることを2012年1月に国際学術誌に発表後、SYCP3の結合によるBRCA2の機能の抑制のメカニズムの解明のため、SYCP3が結合するBRCA2の領域の同定のための実験を進めてきた。BRCA2が3,418アミノ酸から成る巨大な分子であることも影響し、SYCP3との結合領域の絞り込みに時間を要したが、BRCA2のN末端とC末端に2箇所、SYCP3との結合領域があることを明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、がん細胞において異所性に発現するSYCP3分子が、BRCA2との相互作用により、どのように相同組換え修復を抑制するかについて検討を進める。BRCA2蛋白質は3,418アミノ酸から成る巨大な分子であり、中央領域のBRC リピートモチーフおよびカルボキシル末端において相同組換え修復の中心分子RAD51と直接結合する。BRC リピートでのRAD51との結合がDNA二本鎖切断の相同組換え修復の初期過程に重要な役割を果たすことが報告されている。これまでの研究代表者の検討により、SYCP3分子が、BRCA2のBRCリピートとは異なる部位に結合することが分かってきた。これらの部位にSYCP3が直接に結合しているのかどうか、また、BRCA2の同じ領域に結合する別の分子の有無を検索し、そのような分子が存在する場合には、SYCP3との競合の有無と相同組換え修復能への影響について明らかにする。 また、SYCP3以外の減数分裂特異的分子の中にも、がん細胞で異所性に発現するものがある。これらは、体細胞における染色体の安定性に影響を及ぼすことが想定されるため、その影響と作用機序について分子レベルで検討を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、がん特異的に発現する分子を正常体細胞で強制発現させたり、がん細胞での発現を抑制したりし、放射線・薬剤感受性試験を行なうとともに、DNA損傷応答に関わる蛋白の発現の変化や蛋白間の相互作用をウエスタンブロット法、免疫沈降/ウエスタンブロット法、免疫染色法で解析する他、クロマチン免疫沈降法を駆使して、DNA損傷応答に関わる分子のDNA損傷部位へのリクルート状況の変化を見る予定である。そのため、トランスフェクション試薬、siRNA、DNA損傷応答分子の阻害剤や抗がん剤、抗体、細胞培養液などを購入する予定である。また、本研究の遂行のための情報収集、および、研究成果の発信のために、引き続き、国内外の学会への積極的な参加、研究発表、国際学術雑誌への成果発表(投稿)を行う方針であり、それらの費用にも充てる予定である。
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Research Products
(8 results)