2012 Fiscal Year Research-status Report
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23591970
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
石井 良幸 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (30255468)
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Keywords | colorectal cancer / heat shock protein 27 / chemotherapy / sensitivity |
Research Abstract |
HSP27の発現および機能抑制による抗癌剤(5-FU)感受性亢進よる新たな大腸癌治療法を開発すること、5-FU以外の抗癌剤(CPT-11、l-OHP)耐性とHSP27との関連について明らかにすることを目的とし以下の実験を行い成果を得た。 1) ヒト大腸癌細胞株を用いた基礎実験では、in vitroにおいてHSP27発現レベルと5-FU感受性は相関(HSP27高発現では5-FU低感受性)し、動物モデルにおいても同様の結果であった。また、shRNAを用いたHSP27発現抑制によりin vitroおよび動物モデルにおいて5-FU感受性は増強し、また特異的リン酸化酵素阻害剤(SB203580)を用いたHSP27リン酸化阻害によるHSP27機能抑制によっても、5-FU感受性は増強した。 2) 治癒切除大腸癌症例(StageII/III)においてHSP27発現と予後との解析を行った。手術単独群では、HSP27発現に関わらず術後の無再発生存率に差を認めなかったが、術後補助化学療法群では、HSP27低発現群では高発現群に比較し無再発生存率は有意に良好であった。 以上より、大腸癌におけるHSP27発現は、抗癌剤感受性のバイオマーカーであるとともに、その抑制により抗癌剤耐性が緩和される可能性があり、新たな治療標的になり得ると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの基礎的実験において大腸癌における5-FUの薬剤耐性とHSP27発現が強い関連があること、さらにRNA干渉(siRNA)によりHSP27蛋白発現を抑制すると5-FU耐性を緩和することができることをin vitroで明らかにしてきた。平成23年度は、大腸癌細胞株へのHSP27 shRNA導入によりHSP27蛋白発現を恒常的に抑制する大腸癌細胞株を樹立することができ、HSP27発現および機能解析を行う実験の幅が拡大した。このHSP27 shRNA導入株を用いHSP27発現と5-FU感受性との関連を動物実験モデルにおいても明らかにすることができた。また、5-FUのみならず、他抗癌剤(CPT-11およびl-OHP)についても、in vitroにおいてHSP27発現大腸癌細胞株では耐性を示すことを明らかにできた。平成24年度は、HSP27の機能的解析を行い、in vitroにおいて特異的リン酸化酵素阻害剤(SB203580)を用いたHSP27リン酸化阻害によるHSP27機能抑制によって、5-FU感受性は増強することが示された。また、臨床検体(StageII/III大腸癌)を用いたHSP27発現と予後との解析では、術後補助化学療法群では、HSP27低発現群では高発現群に比較し無再発生存率は有意に良好である結果となった。 以上より、大腸癌におけるHSP27発現は、抗癌剤感受性のバイオマーカーであるとともに、その抑制により抗癌剤耐性が緩和される可能性があり、新たな治療標的になり得ると考えられる。今後は、他抗癌剤におけるHSP27の機能的解析を進めるとともに、新たな大腸癌治療として、HSP27を標的とした遺伝子治療(発現抑制)、drug delivery systemによる腫瘍特異的治療、HSP27機能抑制(リン酸化阻害)による治療の開発を目指すことは有意義であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1)5-FU感受性とリン酸化 HSP27(p-HSP27)発現およびリン酸化阻害との関連:In virtoにおいて、HSP27のリン酸化抑制程度(抗リン酸化HSP27抗体を用いてwestern blotting法で解析)と5-FU感受性変化との関連を認めたことより、各種HSP27リン酸化酵素阻害剤(SB203580, Go6983, GF109203, Rapamycin)を用いてHSP27 ser15, ser78,ser82のリン酸化を阻害し、リン酸化抑制程度と5-FU感受性変化との関連を動物モデルで検討し臨床応用への可能性を探究する。 2)多抗癌剤耐性におけるHSP27の機能的解析:HSP27と他抗癌剤(CPT-11, l-0HP, cetuximab/panitumumab, bevacizumab)耐性の関連について、これまでと同様に機能的解析を行い検討し多抗癌剤耐性因子としての治療標的になり得るかを検討する。 3)GFP組み込み HSP27 siRNA plasmid封入抗EGF-R抗体結合のPMDN complexの作成と特異性の検討:抗EGF-R抗体結合PMDN complexを作成し、GFP組み込みHSP27 siRNA plasmidを封入する。このPMDN complexを各種ヒト大腸癌細胞株にin vitroで添加し、それぞれの細胞を蛍光顕微鏡にて観察し組織移行性を確認する。Negative controlとしてscramble siRNA plasmid 封入抗EGFR 抗体結合 PMDN complexを作製し、これと比較して大腸癌細胞株におけるHSP27蛋白の発現レベルと5-FU耐性に対する抑制効果をin vitroで検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究助成金の運用については、繰越金と合わせ研究費の多くを、細胞培養関連物資(培養液、牛胎児血清、培養容器など)や抗体・試薬、動物(マウス)などの消耗品の購入費、さらに試薬調整や細胞培養管理を行う実験助手への謝金に運用する予定である。また、抗癌剤耐性にかかわる情報を速やかに入手できるよう国内外の研究会・学会(アメリカ癌学会、アメリカ癌治療学会、日本癌学会など)に参加するとともに、本研究により更なる成果が得られれば学会発表も行うため、経費として旅費も申請する。 平成24年度の未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、翌年度の消耗品購入に充てる予定である。
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