2011 Fiscal Year Research-status Report
スプライシング因子阻害剤とヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の併用効果の検討
Project/Area Number |
23591975
|
Research Institution | Hyogo Medical University |
Principal Investigator |
冨田 尚裕 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (00252643)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山野 智基 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (00599318)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | スプライシング因子 |
Research Abstract |
FRはアステラス製薬からサンプル提供を受け、ヒト大腸癌(HCT116,DLD1,COLO320)、マウス大腸癌(CT26,MC38)に対する抗癌作用をTSAと共に細胞培養で検討した。またHCT116,CT26においてSV40, TK, CMV, h-PGK, h-Midkine, h-TERTのプロモーターで制御されるルシフェラーゼ発現プラスミドを遺伝子導入してFR、TSAによる遺伝子発現への影響を検討した。その結果は平成23年10月に開催された第70回日本癌学会で報告した。その後対象とする大腸癌細胞株を増やすと共に、FR耐性細胞をクローニングして細胞障害活性、遺伝子導入発現に対する影響を検討し、その結果は平成24年9月に開催される予定の第71回日本癌学会で報告する予定である。導入遺伝子発現に対するFRの影響はせいぜい2倍程度であり、条件によっては10倍近くになるTSAに比べて小さかった。また遺伝子発現増強効果がTSAの場合はプロモーターに因らないのに比べ、FRはSV40でしか見られずTKではむしろ抑制効果を示した。またFR耐性細胞においては増殖速度が遅くなっており今後フローサイトメトリーを用いた解析も行う予定である。更に最近の報告で血液疾患(骨髄異形成症候群、急性リンパ性白血病)においてSF3bに遺伝子変異が多いことが報告され疾患の予後との関係も示唆された。耐性細胞を含む大腸癌細胞株、大腸癌患者においてSF3bに遺伝子変異があるかの検討を開始している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではスプライシング因子SF3b阻害剤であるFR901464(FR)をヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるトリコスタチンA(TSA)と併用し、ヒト大腸癌において導入した遺伝子発現への影響、ケモカインレセプターCCR7、CXCR4への影響、抗腫瘍効果への影響を検討することを目的とする。遺伝子発現への影響についてはTSAと違いFRでは細胞株、プロモーターの種類によって異なっており、非常に複雑であることが分かった。抗腫瘍効果への影響については細胞培養では単剤でもIC50が1 ng/ml未満であり非常に抗腫瘍効果があることを確認している。またFR耐性細胞においてIC50は100 ng/mlを超えており、一部細胞株では500 ng/mlを超えて測定不能である。しかしこれらの細胞株においてもTSAには親細胞と同等の感受性があり、交差耐性が無いことを確認している。また大腸癌治療のKey Drugであるオキサリプラチン耐性細胞株のクローニングも行っている途中であり、治療抵抗性大腸癌に対する新しい治療法となるかを検討する予定である。ケモカインレセプターCCR7、CXCR4への影響であるが、耐性細胞も併せてFRに対する遺伝子発現の変化をこれらの遺伝子も併せて網羅的解析(マイクロアレイ)で検討予定である。血液疾患でSF3bの重要性が示されたことから、今後この分野に対する注目度は大いに上昇すると考えられる。当初の実験計画を行いながらも、大腸癌でのSF3bの遺伝子変異を調べ、遺伝子変異の部位とFRに対する感受性の関係についても検討する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでSF3bに関する論文は非常に少なく、基礎的な論文ばかりであり本科研申請時にも悪性疾患との関連を報告したものは無かった。しかし昨年秋にSF3bが血液悪性疾患において重要な役割を果たしていることを示唆する論文が、New England Journal of medicine に2報、Nature, Nature Genetics, Bloodに各1報と有力誌に相次いで発表された。血液疾患では遺伝子変異の場所に明確なホットスポットがあり、固形がんでは同じ部位には数パーセントではあるが遺伝子変異があることが示された。一方でFRとは違うSF3b阻害剤を用いた研究で薬剤耐性大腸癌細胞においてはSF3bに変異があることが示されたが、その変異部位は血液疾患でのホットスポットとは異なるエクソンであった。従って大腸癌においてのSF3bの遺伝子変異は報告されている以上はあることが予想され、大腸癌とSF3b遺伝子変異の関係が非常に注目される。従ってSF3bをターゲットとするFRはこれらの悪性疾患に対する新しい分子標的治療薬となることが期待出来る。そしてSF3bにおける遺伝変異の有無、遺伝子変異の場所とFRに対する感受性が関係していることが予想され、効果が予測できる分子標的治療薬の可能性が高い。従って当初の実験計画の他にこれらのSF3b遺伝子変異に関する実験を行い、この分野の更なる発展を図ることが非常に重要と考えている。FRを含めSF3b阻害剤は日本で開発された薬剤であり、日本発の新薬としての可能性を秘めている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究計画申請時と状況が大きく変化したので研究計画を一部変更することを考えている。FRとTSAを併用する実験を本来は行う予定になっていたが、SF3bの遺伝子変異に関する研究を優先することにしている。まずHCT116とそのFR耐性細胞2株、DLD1とそのFR耐性細胞3株についてそのSF3bの全25エクソンについての遺伝子変異をサンガー法でシークエンスしてその変異部位を同定するが、外部委託する予定であり約60万円必要である。このデータを元に大腸癌サンプル(100例以上)においてもSF3bの遺伝子変異を調べる。遺伝子変異部にホットスポットがあるようであれば、これまで分かっている変異部位と併せてその部位のみの遺伝子変異を調べる(約30万円)。遺伝子変異部位がバラバラであればSF3bの全25エクソンを調べる必要があるが予算を超えるので、変異が見られた部位に絞って解析を行う。また既にSF3bに遺伝子変異があることが報告されている固形がん細胞株が3種あるので(一つは血液疾患で多く見られる変異部位と同じところに変異がある)、それを購入してFRへの感受性と遺伝子変異部の関係を調べる(細胞株購入に約30万円)。その他培養試薬に30万円、培養器具に20万円、遺伝子工学研究試薬に40万円使用する予定であるので、総額が210万円となるため平成25年度から繰り入れする必要がある。動物実験に関してはこれらの結果を踏まえた上で、細胞株を絞って平成25年度に行う予定である。
|
Research Products
(1 results)