2012 Fiscal Year Research-status Report
大腸ポリポーシスにおける日本人型MUTYH遺伝子異常の実態とその検出法の確立
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23591977
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Research Institution | Japanese Foundation for Cancer Research |
Principal Investigator |
瀧 景子 公益財団法人がん研究会, 有明病院遺伝子診療部, 研究員 (50332284)
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Keywords | MUTYH / FAP / 大腸ポリポーシス / 多発大腸癌 / 家族性大腸腺腫症 / MYH / ミスマッチ修復 / 大腸癌 |
Research Abstract |
昨年に引き続き、タンパク質コーディングエクソン内及びエクソン・イントロン境界のダイレクトシーケンスでAPC遺伝子内に病的変異が同定できない症例について常染色体劣性型の大腸ポリポーシスの原因遺伝子とされるMUTYH遺伝子の変異を持つ症例の有無を調べるために、PCR・ダイレクトシーケンス解析を行い、現時点で19例の解析を終えた。このうち3例に検出されている、IVS12-2A>Gは、培養細胞系では異常なスプライシングの結果、核移行ドメインのあるカルボキシル末端側を欠失したMUTYHタンパク質が産生されることは既に明らかになっている(Tao et al.,Carcinogenesis 25:1859-1866,2004)。しかし、本課題で解析を行っている検体では、この変異はヘテロザイゴートであったため、多発大腸癌への寄与は不明であった。そこで、昨年から解析系を整備してきた、DNAフラグメントの定量解析を応用したMLPA法による解析を行った。この方法では、PCR・ダイレクトシークエンス法では検出不能であるエクソンレベルの遺伝子再編成の有無を調べることができる。ヘテロザイゴートでMUTYH変異を持つ検体は、残る正常アレルにエクソンレベルの欠失があれば、大腸発癌へのリスクが高いことが示唆されるため、その有無が重要であると考えた。しかし、今のところ大規模な遺伝子再編成の発見には至っていない。現在、世界中で1例が報告されているのみであることから、MUTYHではこのタイプの変異頻度は低いことが予想された。また、今年度は、プロモーターのメチル化修飾を検出する系の構築に取り組み、大腸発癌におけるその関与が明らかになっているMLH1遺伝子と多発ポリープへの寄与には議論があるAPC遺伝子の、検体における腫瘍組織のメチル化検出が可能となった。MUTYHはコントロールDNAのメチル化検出に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、初年度から引き続き1)家族性大腸腺腫症(FAP)の臨床所見を呈しながら、APC遺伝子変異が見られない症例の集積およびPCRダイレクトシーケンス解析を継続するとともに、2)Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification (MLPA)法により、MUTYH遺伝子のエクソンレベルの遺伝子再編成の有無を調べる計画であった。MLPA法については、集積した17症例の解析を順調に終えた。しかしながら、エクソンレベルの大規模な欠失や重複は見られなかったため、ホモザイゴートでの変異検出には至っていない。また、3)MUTYH遺伝子のメチル化について検出法を確立し、これまで検討されてこなかったエピゲノム情報が多発ポリープ発生に与える影響についても検討を加えられるように系を構築する計画であった。MUTYH遺伝子のメチル化については、これまで全く知見がない。そのため、まず最初に、メチル化修飾による大腸発癌が知られているSW48培養細胞株を用いて、MLH1遺伝子のメチル化について検出を試み、細胞塊やホルマリン固定パラフィン包埋切片からの抽出とバイサルファイト変換-パイロシーケンス法によるメチル化検出の方法を確立した。次に、本来のターゲットである、APC遺伝子とMUTYH遺伝子のプロモーター部位付近のCpGアイランドのメチル化修飾をパイロシーケンス法にて検出するため、プライマーと、PCR増幅条件の検討を進めた。APC遺伝子については、抹消血試料には発見できなかったが、腫瘍組織におけるメチル化が4症例に検出された。MUTYH遺伝子については、数種類の組み合わせのプライマーを検討中であり、化学的にシトシンのメチル化修飾を施したポジティブコントロールにおけるメチル化検出には成功したことから、到達度をおおむね順調とした。
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Strategy for Future Research Activity |
家族性大腸腺腫症(FAP)を疑う多発性大腸ポリープ症例を対象に、APC 遺伝子に病的変異が同定できない症例が出れば、これを随時解析に加え、MUTYH遺伝子のPCR・ダイレクトシークエンス、MLPA法によるエクソン単位の欠失や重複の有無についてのデータを収集し、MUTYH遺伝子のポリープ形成への寄与について検討する。3症例で検出されているIVS12-2A>G変異は、培養細胞系では異常なスプライシングの結果、核移行ドメインのあるカルボキシル末端側を欠失したMUTYHタンパク質が産生されることが既に明らかになっているにもかかわらず、依然として大腸発癌への寄与に議論があるため、連携研究者である臨床遺伝専門医より該当症例の患者に説明を行い、協力が得られる場合は、異常なスプライシングを受けた産物が検出できるかどうかを検討する。また、今年度はボランティアの協力を得て、高齢で癌既往歴のない血液検体の収集を開始しており、現在も継続中である。このコントロール群の検体について、MUTYH遺伝子のIVS12-2A>G変異の有無を調べ出現頻度の比較を行い、この変異が罹患性に関与するかどうについて検討を進める。 また、プロモーターのメチル化修飾の有無については、実際の検体での検討を進める。引き続きMUTYH遺伝子のプロモーター部位を調べ、メチル化に関与し得る領域の候補を増やし、バイサルファイト変換-パイロシーケンス法による検出を試みる。特にヘテロザイゴートとして検出されたゲノム変異を持つ症例における、残されたアレルの異常の有無を調べることにより、MUTYHのホモザイゴートによるポリポーシス発生の可能性を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
引き続き、家族性大腸腺腫症(FAP)を疑う多発性大腸ポリープ症例を収集し、解析するが、症例数は多くは期待できない。しかし、メチル化解析は、検出部位の検索を含め、これまで収集した検体に対して実施するため、試薬類に20万円程度を見込んでいる。正常ボランティアについては、 100例を目標にしており、その末梢血検体からDNAを抽出する試薬や、PCR-ダイレクトシーケンス法で用いるPCRとシーケンス試薬などの解析試薬やプライマー費用を計上する。最終年度ではあるが、研究拠点が移ったことにより、新たな研究先でのPCR(60万円程度)、電気泳動装置(10万円)、トランスイルミネーター等の機器が不足しており、購入する予定である。正常ボランティア検体の運搬費用、打ち合わせ等にかかる費用と、それらの処理にかかる人件費も必要である。成果をまとめるにあたり、広く遺伝子発現や代謝をはじめとした文献情報を集めたソフトウエア (ライセンス50万円程度)の使用を予定しており、文献複写費用と外国語論文の校正費用にも10万円程度を予定している。日本家族性腫瘍学会(別府)と日本分子生物学会(神戸)での発表も行う予定であり、その費用15万円を計上する。また、特に重要な症例で家族の協力も得られるような特別なケースが出た場合には、アレイなどの受託解析が必要になる場合も想定している。
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