2012 Fiscal Year Research-status Report
肝類洞機能を重視した新しい視点に基づく人工肝臓補助システムの開発
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23591984
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
藤井 秀樹 山梨大学, 医学工学総合研究部, 教授 (30181316)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河野 寛 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (40322127)
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Keywords | 人工肝補助装置 / Kupffer細胞 / IL-17 / ノックアウトマウス / 肝再生 / TNF-α / 脾臓摘出 / CD4陽性リンパ球 |
Research Abstract |
研究代表者が目指してきた肝実質細胞とKuppfer細胞が共存する人工肝補助装置の開発には、Kuppfer細胞の多様な機能を完全に解明することが重要である。前年度は、Kuppfer細胞が刺激のソースと、活性化により産生するサイトカインの種類と量によって、肝細胞障害、あるいは肺障害など障害臓器が異なる可能性を明らかにした。さらにIL-17Aノックアウトマウス(IL-17KOマウス)による検討からIL-17Aが肝細胞障害を防御するキーサイトカインであることを明らかにした。この結果は研究代表者が目指す人工肝補助装置の開発には、さらに厳密にKuppfer細胞を制御する必要があることを再認識させた。そこで、IL-17KOマウスとWTマウスに部分肝切除を施行し、その肝再生の状態を検討した。その結果WTマウスに比較してIL-17KOマウスでは明らかに肝再生が遅延した。すなわち肝再生にIL-17の存在が必要であることが示された。さらにIL-17がKuppfer細胞を刺激し、肝再生に重要なTNF-αも増加した。そこでIL-17の供給源を探索することが重要と考えられた。 一方、脾臓が実際にサイトカインカスケード、なかでもIL-17産生にどのように関与しているのかを明らかにするために脾臓摘出モデルを作成し検討した。その結果WTマウスの脾臓摘出モデルでは明らかに肝再生が遅延するのに、KOマウスでは脾臓摘出は肝再生に影響しなかった。さらにWTマウスの部分肝切除後には脾臓内に、IL-17A陽性のリンパ球が著明に増加しており、肝再生には脾臓由来のCD4陽性リンパ球が産生するIL-17Aがきわめて重要であることが明らかになった。 この結果は研究代表者が目指す人工肝補助装置において、Kuppfer細胞の至的な制御には脾臓の要因も導入する必要があることを提示しており、本研究は新たな段階に発展している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
この研究は、人工肝臓補助装置の実用化に向け研究が計画されたが、研究代表者らのこれまでの肝類洞細胞の研究成果のうち、肝実質細胞の生着ならびに生存に肝Kuppfer細胞の産生するサイトカインが有効であるとの結果から、肝実質細胞と肝Kuppfer細胞のサイトカインカスケードを中心とした共培養の至適条件の探索が最大の目標であった。しかしながら、共培養において肝実質細胞と肝Kuppfer細胞両者の各機能を、さらには相互作用を如何に高いレベルで維持し得るかを解析する中で、肝実質細胞に肝Kuppfer細胞が与える影響が実に多様であることが判明した。特に、本来人工肝補助装置が必要と考えられる肝再生の病態に関する新しい知見を多く得ることができた。特に脾臓の関与が重要であることが明らかになったことは特筆すべきであり、研究代表者が目指す人工肝補助装置にはこれまで考えていたような肝実質細胞と肝Kuppfer細胞の共培養といった平面的構築では解決されない問題があることが浮き彫りになり、還流回路内に脾臓の機能という新たな機能を付加する必要性が明らかになった。今年度の研究により肝臓の機能が単に肝臓という限局した臓器に限局するものではなく、門脈系によりつながれる多くの臓器相関のなかに位置付けられていることが明らかとなったことは、当初の期待以上の成果であり、当初の計画以上に進展したと考えたい。
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Strategy for Future Research Activity |
温度可塑化ポリウレタンゲルは申請者の施設でも入手可能となった。このゲルは種々の細胞をスフェロイドの形態でしかも高密度培養が可能である。このゲルで肝細胞ならびに肝Kuppfer細胞をそれぞれ高密度培養し、多重層膜を作成する。 肝不全動物モデル(大量肝切除モデル)を作成し多重層膜カラムで還流し、これまでの研究成果で明らかになった、もっとも至適サイトカインの種類と量を、肝実質細胞膜と肝Kuppfer細胞膜の比率を変えることにより決定する。 さらに今年度のもっとも重要な成果である脾臓機能を付加する。具体的には上記の還流回路に、初期には脾臓そのものを組み込む。最終的には脾臓に存在するリンパ球のうちCD4陽性リンパ球のみを対象に、これらも温度可塑化ポリウレタンゲルで培養可能とし回路に組み込み、肝臓を中心とした臓器相関回路を構築する。この回路は研究代表者が、研究当初に目論んだ肝臓のみ(肝実質細胞ならびに肝Kuppfer細胞を中心とする肝類洞細胞)から構成される人工肝補助装置ではなく、生体の免疫、代謝の中心としての臓器相関を意識した人工肝補助装置の開発を目指すことになる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、試薬等が定価より安価で購入できたため未使用金が生じた。 肝細胞障害を惹起しない肝Kupffer細胞からの至適サイトカイン量測定のため、平成24年度の未使用金と合わせてラット及びサイトカイン抗体を購入する予定である。 また、肝細胞、Kupffer細胞によるスフェロイド作成及び肝細胞オルガノイドの作製のため、細胞培養関係、ポリウレタン膜、ハイドロゲルを購入する予定である。
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Research Products
(5 results)