2011 Fiscal Year Research-status Report
植物ホルモンによるヒト血管内皮機能制御に関する基礎的検討
Project/Area Number |
23592438
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
尾林 聡 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (10262180)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久保田 俊郎 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (50126223)
寺内 公一 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (90361708)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 血管内皮 / エクオール |
Research Abstract |
大豆の摂取によって植物エストロゲンが増加し、このことが欧米に比して日本人の発汗・ほてりなどという更年期障害の軽減に大切であることが示唆されている。これは植物エストロゲンの一種であるエクオールによる作用であることがわかっているが、エストロゲン様の構造だけからその作用を説明することはできない。 我々はこれまで婦人科良性疾患手術時にヒト子宮動脈を摘出し、周囲結合織を除去したのちに輪状標本を作製し、Minimum essential medium中で1000pg/mlのエクオール添加の有無で2種類の培養条件下で組織培養を施行した。24時間の培養ののちさらに子宮動脈標本をtransverse stripにて静止張力1gのもとでアセチルコリン(ACh)誘発の内皮依存性弛緩反応を検討したところ、norepinephrine収縮下での弛緩は、エクオール添加の培養標本において有意な増強を認め、nitric oxide (NO)産生の亢進を確認した。 同様に卵巣摘出ラットに対して、4週後から4週間にわたり皮下埋没徐放ポンプを用いて慢性投与によるエクオールの内皮への影響を検討した。エクオール埋め込みラットでは、頸動脈と大動脈においてAch刺激およびcalcium ionophore刺激による弛緩反応が亢進しており、一方でsodium nitroprussideによる弛緩能には差がないため、内皮由来のNOの産生亢進があると考えられた。一方、エクオールを埋め込んだラットでも、体重増加や子宮重量の増加などは認められず、この点で同様の内皮機能の亢進作用を示し、かつ子宮重量の増加作用を有するエストラディオールとは性格が異なると考えられた。 現在はヒト子宮動脈と同時にラットへ投与実験によりエクオールの内皮機能への影響を、さらに組織学的、生化学的および分子生物学的手法により追加実験を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
イソフラボンの投与による内皮機能の改善に関しては今までもいくつか報告があるが、そのほとんどは大豆含有と非含有の食事の差によって内皮機能の差を調べる実験系が組まれている。ところが大豆に含まれる植物エストロゲンはダイゼイン, ゲニスタイン、エクオールなどさまざまあり、いままでの実験系ではどの物質に反応の責任があるのかが不明であった。このためエストロゲン様の構造を有するエクオール単独での内皮への影響に関しては、いまだ明らかとはなっておらず、今回に見いだされたヒト血管のエクオール添加組織培養に伴うNO系およびPG系の放出亢進は、エクオール単剤での内皮機能の直接的な制御を示唆している。 さらに、卵巣摘出ラットへの徐放ポンプによる補填後のNO産生の増加現象は、栄養学的にもインパクトが大きいと考え、実際エクオール単独による内皮機能制御の報告は未だなく、この点から計画以上に進展していると判断した。 内皮由来のNO産生がの亢進派明らかとはなったが、エクオールの作用機序、とくに受容体を介した反応なのか、ないしは細胞質内のMAPKやNOS阻害物質の直接制御などといった、どこかほかのの経路の刺激によるNO産生亢進なのかは現段階では明らかとはなっておらず、今後はこの点に焦点を絞って調査を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
現在まで行われた子宮動脈およびラットの実験組織の一部は冷凍およびホルマリン保存しており、今後NOの2nd messengerであるcyclic GMPやcyclic AMPの血管平滑筋組織内濃度の測定を行って内皮のNO産生能の違いを生化学的に調査する予定である。また顕微鏡標本による内膜肥厚の程度の比較や、免疫組織学を利用したNO合成酵素やarginaseといったタンパク局在の確認などといった組織学的な検討も行う必要があるため準備をしている。 一方、同組織からタンパクを抽出し、NO合成酵素の発現、合成酵素阻害物質の測定、NOの前駆体であるL-arginineの代謝系に関しての検討を続ける予定である。またエクオールによる内皮機能制御機構がエストロゲン受容体(ER)を介した反応であるのか、そうであればER alpha, ER betaの何れの受容体を介した反応かを、非特異的ERブロッカーであるICI 182-780などを用いての検討も行う。 とくにNO合成酵素の内因性阻害物質であるmonomethylarginineならびにdimethylarginineの血管における分布量に関しては、現在2台稼働中である高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定する。さらに可能であればアルギナーゼ活性の測定とアルギナーゼタンパクの発現の検討(14C-L-arginineから[14C]-ureaの生成)、細胞外基質プロリン合成オルニチンアミノ基転移酵素活性(Ornithine aminotransferase : OAT)の測定([14C]L-ornithineからpyrroline-5-carboxylateへの変換)に関しても検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は以下のように使用する予定である。1cyclic GMP測定キットの購入: NOのセカンドメッセンジャーである組織内cGMPの測定はNO産生能の変動の証拠となりうるが、市販されているELISAキットを用いることによって、高感度のcGMP含量の測定が可能となる。2抗体購入: NO産生の変動の原因としてはさまざまなものが考えられる。エクオールによる内皮機能制御部位の可能性としては、NO合成酵素のタンパクの増減や内因性NO合成酵素阻害物質の蓄積、さらにNOの前駆体であるL-arginineの代謝系にあるarginaseの増減などを調査するために各種抗体の購入が予定される。3培養液および徐放ポンプの購入4論文投稿費および旅費: 研究成果は国内学会、国際学会および国際雑誌への投稿を進める予定であるため、学会への参加旅費や投稿費用に使用する。
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