2011 Fiscal Year Research-status Report
神経幹細胞による虚血性内耳障害抑制効果の機序解明の研究
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23592486
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
白馬 伸洋 愛媛大学, 医学部附属病院, 講師 (70304623)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 内耳虚血 / 内有毛細胞 / 活性酸素 / free radical / therapeutic time window / 神経幹細胞 / 神経栄養因子 / 一酸化窒素 |
Research Abstract |
突発性難聴の原因は未だ不明であるが、多くの症例では背景に内耳虚血が関与すると考えられる。我々は長期生存可能な一過性内耳虚血の動物モデルを作成し、虚血・再灌流による内耳障害メカニズムやその防御法について研究を進めてきた。その結果、内耳虚血により難聴が生じ外リンパ中グルタミン酸濃度が著明に上昇すること、虚血後3日目までに有毛細胞にアポトーシスが生じ脱落が起こることを明らかにした。さらに、活性酸素による内耳障害との関連としては、虚血によりiNOSが誘導され、誘導されたiNOSによって蝸牛外リンパ液中にNOxが発生することや、free radicalが障害の増悪因子であることを解明してきた。また、内耳における再生治療として、神経幹細胞をスナネズミ一過性虚血モデルの内耳に虚血後注入し、虚血障害後に生じる内耳障害について生理的・組織的検討を行った結果、進行する内有毛細胞の脱落変性を抑制し、その治療効果についても明らかにしてきた。しかし、神経幹細胞がどのようにして障害を抑制する機序についての詳細不明である。もし神経幹細胞移植による、虚血障害発生のメカニズムが明らかとなれば、内耳虚血が関与する高度感性難聴疾患すべての治療が可能になる。 今回の研究として、神経幹細胞が内耳虚血障害後に生じるNOxやアポトーシス関連蛋白などの障害増悪因子と、GDNF,bFGF,IGFなどの障害を抑制する神経栄養因子の誘導に影響を及ぼすかを検討するため、スナネズミ胎児の海馬・線条体より採取・培養した神経幹細胞をスナネズミ一過性虚血モデルの内耳に虚血後注入し、虚血障害後に生じるNOx、アポトーシス関連蛋白、GDNF,bFGF,IGFなどの神経栄養因子の誘導について測定を行い、虚血性内耳障害に対する神経幹細胞の有効性を分子生物学的手法を用いて解明するこを目的とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度にはスナネズミの一過性内耳虚血モデルを用いて、スナネズミ胎児の海馬・線条体より採取・培養した神経幹細胞をスナネズミ一過性虚血モデルの内耳に虚血後注入し、虚血障害後に生じる内耳障害について生理的・組織的検討する、を行うことを計画していたが、以下の実験方法にておおむね計画通りに進行している。(1) スナネズミの虚血方法:経口挿管後に両側椎骨動脈に糸をかけて滑車につるした後に他端に5gの重りをかけ、虚血を負荷する。虚血中は人工呼吸器で呼吸管理を行い15分の虚血後に糸をはずし、一過性内耳虚血を行った。(2) 聴力閾値変化の検討:経時的な聴覚閾値の変化をABRで検討する。刺激音には8kHzのトーンバースト音を用い、反応電位は信号処理装置(Synax 1200、NEC社製)にて300回の加算を行う。10dBステップで刺激音圧を変化させて、実験動物の聴覚閾値を求めた。(3) 有毛細胞障害の観察と定量:虚血後7日目に断頭後すみやかに蝸牛骨胞を摘出し、4%パラフォルムアルデヒドで還流固定後、同液で2時間浸漬固定する。Surface preparationにて基底回転のコルチ器を採取し、Rhodamine-Phalloidin、Hoechst33342にて2重染色を行い、蛍光顕微鏡にて基底回転の内・外有毛細胞を観した。(4) 胎性神経幹細胞の移植:妊娠17日目の胎児を取り出して海馬および線条体から神経細胞を採取した。これを海馬の場合は3日間、線条体は7日間培養し、幼弱細胞を分離する。一方、recipientとなる成熟スナネズミには上述の方法で虚血を負荷し、1日後、正円窓から鼓室階に特製のガラス毛細管を用いて神経幹細胞を注入した。動物を飼育室に戻し、その後は経時的にABRを測定して聴力をモニターし、一定期間後に内耳を採取して組織学的な検討を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、神経幹細胞の内耳虚血障害に対する抑制効果のメカニズムを分子レベルで解析するため以下の項目について検討予定である。(1) 蝸牛鼓室階のNOx濃度の測定:血後虚の細胞障害メカニズムの1つと考えられているNOxの濃度およびNOSの活性について、神経幹細胞を蝸牛内投与した場合にはどのように変化しているかを実際にNOxの濃度を測定する予定である。(2) コルチ器おけるiNOS発現の組織学的検討:コルチ器におけるiNOSの発現を観察することで、神経幹細胞非投与と比較検討し、NOx測定後の蝸牛コルチ器切片をウサギiNOS抗体で染色、その発現と活性の局在を観察する予定である。(3) 内耳に発現するアポトーシス関連蛋白のmRNAを測定:分子生物学的検討では、虚血障害に伴って内耳に発現するアポトーシス関連蛋白のmRNAを測定する。神経幹細胞を投与した群としていない群虚血後ににおいてそれぞれ蝸牛を摘出し、アポトーシス関連蛋白であるbcl-xl, bcl2, Caspase3, Caspase8, Akt, Bad, CytochromeCの変化を各群ごとに測定する予定である。これにより一過性虚血によって誘導された蝸牛のアポトーシスが神経幹細胞によって如何なるメカニズムで抑制効果が発現するか解明できると考えられる。(4) 神経幹細胞の障害抑制効果が認められる期間について検討:難聴防御に関連して、therapeutic time window;治療効果が期待できる期間を考慮して、虚血性内耳障害に対する神経幹細胞の障害抑制効果が認められる期間についても検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費については各計画について以下のように使用する計画である。(1) 蝸牛鼓室階のNOx濃度の測定:経時的な鼓室階外リンパ中のNOx濃度を微小透析法と窒素分析システムを用いて測定する。微小透析膜とマイクロシリンジポンプオートインジェクターシステムを用い、透析液を参加窒素分析装置に送ることによりリンパ球中のNO2-、NO3-の濃度を0.1 pmolの検出感度でin vivoで測定できる。窒素分析システムはすでに購入されているが、微小透析膜とシステムの試薬に研究費を使用する予定である。(2) コルチ器おけるiNOS発現の組織学的検討:コルチ器におけるiNOSの発現を観察のため、免疫染色を行う予定であるが、染色のための抗体、試薬に研究費を使用する予定である。(3) 内耳に発現するアポトーシス関連蛋白のmRNAを測定:アポトーシス関連蛋白のmRNAの測定のために、神経幹細胞を投与した群としていない群虚血後ににおいてそれぞれ蝸牛を摘出し、Rneasy kit mini (QIAGEN)を用いてtotal RNAの抽出を行い、このRNAを遺伝子増幅装置を用いて増幅、ついでReal time PCRを用いたアポトーシス関連蛋白の変化測定のための一連の試薬に研究費を使用する予定である。(4) 神経幹細胞の障害抑制効果が認められる期間について検討:内耳虚血後、正円窓から鼓室階に特製のガラス毛細管を用いて神経幹細胞を注入するが、神経幹細胞を採取するための試薬、動物に研究費を使用する予定である。
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