2012 Fiscal Year Research-status Report
アレルギー性鼻炎の診断治療における鼻腔一酸化窒素濃度の有用性の検討
Project/Area Number |
23592507
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
山本 英之 福井大学, 医学部, 特別研究員 (50345691)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤枝 重治 福井大学, 医学部, 教授 (30238539)
坂下 雅文 福井大学, 医学部附属病院, 助教 (40555455)
木村 有一 福井大学, 医学部附属病院, 講師 (50281035)
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Keywords | 鼻腔一酸化窒素濃度 (nNO) / アレルギー性鼻炎 / スギ花粉症 / NOx- |
Research Abstract |
前年度までに重篤な鼻閉を有する通年性アレルギー性鼻炎患者5例において術前術後の鼻腔一酸化窒素濃度(nNO)測定を行ったが、更に症例数を増やし38例の患者における術前術後のnNOを測定した。その結果、術後群において統計学的有意差をもってnNOが低下していることが分かった。更に非アトピー群慢性副鼻腔炎患者24名における術前術後のnNOを測定を行った。いずれの症例も症状の改善は認められたものの、術前術後でnNOに有意な差は認められなかった。これらの結果からnNO値は、ただ単に鼻腔通気度や、副鼻腔の閉塞などに影響されるのではなく、アレルギー疾患に特異的なものである可能性が強く示唆される。 初年度の検討においてスギ花粉症状陽性患者34例の症状スコアの合計値とnNOは正の相関関係あることを示した。当該年度には舌下免疫療法を行ったスギ花粉症患者のnNOを測定した。舌下免疫療法1~3年目の患者群(n=65)においては有意なnNOの低下は認められなかったが4年目の患者群(n=35)では統計学的有意差は認められなかったものの治療群でnNOが低下傾向にあった。一般に舌下免疫療法は治療効果が患者間で効果発現の差が大きく、さらに継続年数が多いほど症状が改善することが知られており、今後治療5年目以降の患者においても同様の検討を行う価値があると考えられる。 酸化ストレスもアレルギー性炎症の増悪要因のひとつであると考えられている。酸化的環境下ではNOは酸素やスーパーオキサイド(O2-)と反応しNOx-を生成する。NOx-は個体における酸化ストレスを反映するといわれており、アレルギー性鼻炎の重症度のマーカーになる可能性がある。我々はスギ花粉陽性患者21人と陰性患者12人を対象にスギ抗原刺激による尿、血清、鼻腔洗浄液のNOx-測定を行い、血清、鼻腔洗浄液のNOx-が症状スコアの合計値が正の相関関係を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究で、アレルギー性鼻炎患者の症状と鼻腔一酸化窒素濃度 (nNO)に正の相関がある事が分かり、更に手術または薬物治療によるアレルギー性鼻炎の治療効果判定や、重症度のマーカーになる可能性が示唆された。また非アトピー性慢性副鼻腔炎患者の術前術後のnNOが症状と相関しないという結果は、NOが鼻疾患でもアレルギー性鼻炎特異的なマーカーになりうるという我々の仮説を強く裏付けるものである。 舌下免疫療法を行ったスギ花粉症患者においては治療継続4年目の患者群においてのみ有意差は認められないもののNOの低下傾向が見られた。一般に舌下免疫療法は治療継続期間が長いほど治療効果が高いと言われており、今回のnNOの値もそれを裏付けるものであるが、更に長期治療群でのnNO測定が必要であると考えている。舌下免疫療法は効果に患者間でばらつきが多く治療効果に影響を与える他の因子との関係も検討する必要がある。 NOは生体では比較的不安定な物質で、酸化ストレスによって容易に代謝されてしまう。今回、アレルギー性鼻炎患者においてその症状とNOの代謝産物であるNOx-が正に相関することを示した事は本プロジェクトにとって極めて重要な結果である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで臨床サンプルを用いた検討でアレルギー性鼻炎患者においてその重症度や、手術、または薬物治療による治療効果の判定にNO, NOx-が特異的なマーカーとして利用できる可能性を示唆することができた。今後は、酸化ストレスがアレルギー性炎症にどのように影響するのかを検討する。 NOはL-アルギニンを基質に一酸化窒素合成酵素(nitric oxide synthase: NOS)によって合成される。アレルギー性鼻炎モデルマウスでは、このNOSの発現異常が認められるという報告が複数あり、酸化ストレスがアレルギー性炎症に深く関与するという事実からもNO,またはNOx-がアレルギー性炎症の病態に何らかの機能的な役割を果たしている事は間違いないと思われる NOS, NO, NOx-がplasma cellのIgE産生に与える影響を検討する。具体的には末梢血からB cellを分離し、IL-4, 抗CD40抗体を加えることによってIgE産生性のplasma cellを誘導し、NOS刺激によるIgE産生を評価する。更に酸化ストレスの影響を検討するために本実験を酸化環境下にても行う。更に局所におけるplasma cellのIgE産生能について検討するために、手術時に採取したアレルギー性鼻炎患者、および非アレルギー性鼻炎患者の下甲介粘膜からplasma cellを分離し同様の刺激を行い検討を行う。 上皮で産生されたNOが肥満細胞の活性に影響を与えるという報告があり、我々は別のプロジェクトにおいてTh2炎症性疾患において気道上皮に肥満細胞が集積する事を明らかにした。NOと肥満細胞がアレルギー性鼻炎の病態形成に果たす役割を明らかにするためにヒト末梢血幹細胞を採取し、サイトカイン刺激によって肥満細胞に分化させこれに各NOSの刺激を加え、IgE産生に関わるサイトカインについて検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は主に以下を予定している。 引き続き患者のnNO測定を行うため、NO機器のメンテナンス費用、NOx-測定キット 患者末梢血からB cellを分離するための抗体磁気ビーズ、分離用カラム、確認用フローサイト用蛍光標識抗体一式。 手術摘出サンプルからplsma cell分離のための組織融解バッファー、チューブ、抗体磁気ビーズ。確認用フローサイト用蛍光標識抗体一式。 ヒト肥満細胞作成に必要な血液採取のためのボランティアへの謝礼、サイトカイン一式、プラスティック容器。
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