2012 Fiscal Year Research-status Report
網膜色素変性症患者から樹立したiPS細胞の遺伝子治療および病態モデルサルへの移植
Project/Area Number |
23592616
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
吉田 哲 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (00365438)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小澤 洋子 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (90265885)
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Keywords | 網膜色素変性症 / iPS細胞 |
Research Abstract |
網膜色素変性症は失明にいたる可能性がある眼科疾患であり、世界中で様々な研究されているものの根本的な治療法の開発には至っていない。そこで申請者は、iPS細胞を用いた再生医療による網膜色素変性症の根本的な治療法の確立を試みてきた。しかしながら、網膜下にiPS細胞から分化誘導した視細胞を移植しても視力の回復が認められないなど困難な点が多く、移植による再生医療の確立は困難であった。 そこで、申請者は網膜色素変性症の進行を抑制する薬剤のスクリーニングを行うことにした。申請者のグループでは、ロドプシン遺伝子座に点突然変異をもつ網膜色素変性症患者の皮膚細胞からiPS細胞を樹立していたので、この点突然変異の遺伝子治療を行った。遺伝子治療は変異をもたないロドプシン遺伝子をiPS細胞の変異ロドプシン遺伝子座にノックインすることにより行った。また、逆に、ロドプシン遺伝子に変異を持たないiPS細胞株を準備すると共に、そのロドプシン遺伝子に同様の方法で変異を導入した。これら4種類のiPS細胞を視細胞に分化誘導したところ、同じ遺伝的背景を持つiPS細胞でもロドプシンに変異をもつ株では視細胞への誘導効率が下がっていた。ロドプシン変異によりさがった視細胞の誘導効率を、変異を持たないiPS細胞の分化誘導効率レベルに上昇させる薬剤のスクリーニングを行うことにより、効果が認められる薬剤を複数確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
網膜色素変性症患者からiPS細胞を樹立し、その遺伝子変異の遺伝子治療および網膜色素変性症モデルマウスへの細胞移植を行ったが、視機能の改善は認められなかった。そこで方針を変更し、上記iPS細胞を用いて、網膜色素変性症において視細胞の変性を抑制する薬剤のスクリーニングを行った。 まず、視細胞を可視化させることを試みた。2種類の視細胞のうち桿体細胞に特異的に発現しているNrl遺伝子のプロモーター領域の下流にGFPをつないだコンストラクトを持つ組換えアデノウイルスを作成した。このコンストラクトが桿体細胞に導入されると、GFPが発現する。ワシントン大学のThomas Reh博士のグループが報告した、iPS細胞を桿体細胞に分化誘導する方法を用いて、網膜色素変性症患者由来iPS細胞を桿体細胞に分化誘導し、上記組換えアデノウイルスを感染させることにより、フローサイトメーターを用いることにより桿体細胞の誘導効率を求めることができるようになった。 この方法で、遺伝子治療したiPS細胞としていないiPS細胞の桿体細胞の分化誘導効率を求めたところ、ロドプシン遺伝子に変異を持つiPS細胞は有意に誘導効率が低かった。この変異により低くなった誘導効率を高める薬剤をスクリーニングしたところ、数種類の薬剤に効果が認められた。 この分化細胞の可視化と、iPS細胞の遺伝子治療による薬剤スクリーニングの方法は、簡便に大量の薬剤をスクリーニングできる上、他の神経変性疾患にも応用できるものであり、非常に有用であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今回行った、網膜色素変性症における桿体細胞の細胞死を抑制する薬剤スクリーニングにより、いくつかの薬剤に効果が認められた。これら薬剤が、in vivoでも効果があるのかを確かめることにより、実際、患者に使用できるかどうかを調べる。 我々は既に、変異ロドプシンのノックイン・マウスおよびトランスジェニック・ショウジョウバエを入手している。まず、これらの動物に薬剤を投与することにより、視細胞の変性を抑制できるかどうかを確かめる予定である。もし効果があった場合は、マウスに比べて網膜の構造がヒトに近いサルを用いて網膜色素変性症モデルを作成し、このモデルにおいても薬剤に効果があるかどうかを調べる。網膜色素変性症モデルは、Nrlプロモーターの下流で変異ロドプシンを発現するコンストラクトをアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いてサルの網膜に導入することにより作成する予定である。ショウジョウバエについては、使用した薬剤が関与するシグナル分子の変異体とかけあわせることにより、ロドプシン変異による視細胞の変性機構について、より深く解析するために使用する予定である。 本研究で行う予定であった、移植による網膜色素変性症の再生医療の確立はできなかったが、この薬剤スクリーニングおよび動物をつかったin vivoでの薬剤の効果のアッセイは、網膜色素変性症の新しい治療法を確立する有用な研究であると考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
iPS細胞の培養および分化誘導に必要な、ピペットやシャーレなどの消耗品類、培地類、培地に添加する液性因子類が大量に必要となる。さらに、分化したiPS細胞の検出にアデノウイルス、移植細胞をラベルするためにレンチウイルスを用いているが、これらのウイルスを作成するためにも、細胞培養の消耗品や培地類は必要となるため、これが来年度の主な支出になると予想される。 それに加えて、薬剤効果のアッセイに用いるマウスおよびショウジョウバエ維持費も必要である。
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[Presentation] An analysis of the mechanisms of degradation of photoreceptor cells in a retinitis pigmentosa patient using iPS cells.2012
Author(s)
Yoshida T, Ozawa Y, Suzuki K, Hirabayashi Y, Suzuki S, Koizumi H, Yuki K, Kobayashi T, Ohyama M, Amagai M, Okada Y, Akamatsu W, Matsuzaki Y, Mitani K, Shimmra S, Tsubota K, Okano H.
Organizer
International Society for Stem Cell Research (ISSCR)
Place of Presentation
Pacifico Yokohama, Yokohama, Japan.
Year and Date
20120613-20120616