2012 Fiscal Year Research-status Report
幹細胞とコラーゲン架橋を導入した無細胞真皮マトリックスによる結合組織の再生
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23592658
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
高見 佳宏 日本医科大学, 医学部, 准教授 (30201601)
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Keywords | 再生医学 / 幹細胞 / 脂肪組織 / 無細胞真皮 / 結合組織 |
Research Abstract |
無細胞化した皮膚真皮(無細胞真皮マトリックス:Acellular Dermal Matrix:ADM)の主成分であるI型コラーゲンは、生体における普遍的な結合組織線維である。よってADMは皮膚以外のさまざまな結合組織を誘導しうる移植材料としてその効果が期待されているが、一方ADMには移植後の組織吸収が避けられない。ADMの移植後の組織吸収を抑制しより安定した移植特性を得る方法としては、幹細胞の組み込み、ADM(コラーゲン分子)の架橋、他の細胞外マトリックス成分の付加などが考えられる。平成23年度研究者は、ADMへの脂肪組織由来幹細胞の組み込みおよびADMの架橋処理により、ADM移植後の安定性が向上するかどうかについて、ラットのアキレス腱欠損モデルとラットの皮下移植モデルを用いて検討した。【方法】Fischerラットの背部分層皮膚をTrypsin処理にて無細胞化しADMを作製した。Fischerラットの鼠径部Fat padからcollagenase 処理によって脂肪組織由来幹細胞を分離・培養し、第3系代の細胞をADMに組み込んだ。ADMの架橋は低濃度のグルタールアルデヒド処理により行った。幹細胞を組み込んだADMと架橋処理ADMをそれぞれFischerラットのアキレス腱切除部と背部皮下に移植した。【結果】移植4週後、腱再生・皮下組織再生ともに幹細胞組み込みADMが最も優れており、架橋処理ADMがそれにつぎ、未処理ADMでは炎症あるいは吸収が強く認められた。【結論・意義】以上の結果からADMに対する幹細胞の組み込みと架橋処理が、移植後の安定性を増強する可能性が示唆された。本研究結果は、無細胞化した同種組織を用いた組織再生治療の可能性を拡大する意義を有するものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において平成23年度に達成しえた諸点は以下の通りである。 1 皮膚の完全な無細胞化すなわち 無細胞真皮マトリックス(Acellular dermal matrix: ADM)の作製. 2 ADMの組織学的・免疫組織学的評価. 3 脂肪組織由来幹細胞の分離培養・脂肪組織由来幹細胞の凍結保存. 4 ADMへの幹細胞の組み込みと移植後の細胞同定. 5 ADMのラット腱移植モデルと皮下移植モデルの確立 6 幹細胞を組み込んだADMの腱欠損部、皮下への移植. 7 幹細胞を組み込んだADMによる組織再生の評価. 8 コラーゲン架橋処理ADMの作製. 9 コラーゲン架橋処理ADMの腱欠損部、皮下への移植. 10 コラーゲン架橋処理ADMによる組織再生の評価. 11 脂肪由来幹細胞とコラーゲン架橋処理がADMの移植特性に与える影響についての定量的比較分析. 以上のように本年度で達成あるいは確立しえた諸点は、ほぼ当初の研究計画に沿ったものであるので、上記の区分(2)であると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は幹細胞の組み込みとコラーゲン架橋によるADMの移植特性の変化について以下のような検討を進める予定である。 (1)無細胞真皮マトリックス(ADM)を0.1%、0.2%、0.5%グルタールアルデヒド溶液中で30分間インキュベートしコラーゲン架橋度の異なるADMを作製する。架橋度の異なるADM(2cm角)を、Fischer ラットの背部皮下に移植し、移植後3ヶ月までの組織学的変化を検討する。組織学的検討内容には、血管新生、炎症反応、コラーゲン吸収、I型とIII型コラーゲンの同定(Picrosirius Red染色およびIII型コラーゲンに対する免疫組織化学)等を含む。 (2)至適な架橋処理と適切な細胞数の脂肪組織由来幹細胞を組み込んだADMを、Fischer ラットの皮下と腹壁・腹膜欠損部に移植する。6ヶ月後までの皮下組織再生と腹壁・腹膜再生を検討(I型とIII型コラーゲンの同定:Picrosirius Red染色およびIII型コラーゲンに対する免疫組織化学、DiI陽性細胞の同定、結合組織の厚さと構造の検討等)する。(3)コラーゲン架橋と幹細胞を導入したADMを、Fischer ラットの脳硬膜欠損部、腱膜(鞘)欠損部へ移植し6ヶ月後までの組織再生を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究はほぼ予定通り遂行できたので、次年度も当初の研究計画に沿って研究を進める。次年度の研究費は主に以下の諸目的で使用する予定である。1 実験動物に関わる経費. 2 ラット脂肪組織由来幹細胞の分離・培養・維持・保存に関わる経費. 3 無細胞真皮マトリックス(ADM)の作製、調整および組織学的評価に関わる経費. 4 ADMの移植実験に関わる経費. 5 再生結合組織の評価に関わる経費(組織学的経費等). 6 研究結果の発表に関わる経費. 7 国内的・国際的な研究の現状を調査する経費. 以上の使用目的に沿って研究費を適切に使用させて頂く所存である。
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