2012 Fiscal Year Research-status Report
エナメル芽・象牙芽前駆細胞株のスフェロイド共培養による組織成熟機構の研究
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23592695
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
小代田 宗一 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80400480)
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Keywords | 歯胚形成 / スフェロイド培養 / エナメル芽前駆細胞 / 象牙芽前駆細胞 |
Research Abstract |
歯胚形成には、歯胚上皮と間葉の2種の細胞の相互作用が重要であり、歯胚発生時の特異的時期に、組織の特異的部位において、特異的分子が発現していることがこれまでの研究で明らかにされたが、歯胚形成のメカニズムについては未解明な点が多く残されている。 本研究では、独自に樹立したマウス上皮由来エナメル芽前駆細胞株ALCと間葉由来象牙芽前駆細胞株OLCを用いて、歯胚形成における組織の成熟を再現しその機構を明らかにすることを目的とした。「歯胚上皮―間葉細胞の空間配置」を模倣する3次元培養組織の構築を検討し、スフェロイド-コラーゲンゲル培養による歯胚組織の形成を試みた。 ALCを赤色蛍光化合物で標識し、GFPを発現するOLCと蛍光顕微鏡下で区別して観察できるようにした。次に、細胞接着性を抑えたU底培養プレートを用いてそれぞれの細胞でスフェロイドを作製した。この2つのスフェロイドを同一ウェルに入れて培養するとスフェロイド同士が融合し、上皮-間葉系相互作用が惹起されると考えられた。培養法の検討の結果、培養組織の広範囲で2種の前駆細胞を接触させると、組織全体が著しく石灰化することを見出した。また、両前駆細胞のスフェロイドを一部分のみ接触させる培養法を検討し、組織全体で石灰化が急激に起こる事を回避しながら、歯胚発生時の上皮細胞が間葉組織に陥入する現象と類似の状態を起こすことに成功した。さらに組織中に細胞外マトリックス様構造が形成されていることを確認した。 次に、上記現象にともなって起きる遺伝子発現の変化を、細胞分化シグナル経路の遺伝子について集中的に解析するリアルタイムPCRアレイを用いて解析し、スフェロイド-コラーゲンゲル培養法で培養すると、組織の石灰化や骨芽細胞への分化に関与するTGFbシグナルのうちBMP経路や、TGFb経路の各遺伝子の発現が増加していることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
歯胚3次元培養のために歯胚上皮―間葉細胞の空間配置を模倣するスフェロイド-コラーゲンゲル培養法を検討した結果、培養組織の広範囲で2種の前駆細胞を接触させると、組織全体が著しく石灰化することを見出した。これまで通常の培養皿上で2種の細胞を共培養しても石灰化の誘導はできず、石灰化には石灰化誘導因子を添加して長期の培養が必要だったが、本培養法によってそのような因子を添加しなくても石灰化を短期に誘導することができた。また、両前駆細胞のスフェロイドを一部分のみ接触させる培養法を検討し、組織全体で石灰化が急激に起こる事を回避しながら、歯胚発生時の上皮細胞が間葉組織に陥入する現象と類似の状態を起こすことに成功し、さらに組織中に細胞外マトリックス様構造を形成させることができた。本培養法によって初めて株化した歯胚上皮―間葉前駆細胞に相互作用を惹起する事に成功したと考えている。 24年度は、上記現象にともなって起きる遺伝子発現の変化を、各種細胞分化マーカーおよび細胞分化シグナル経路の遺伝子について集中的に解析するリアルタイムPCRアレイを用いた解析を行なった。スフェロイド-コラーゲンゲル培養法で培養すると、上皮由来エナメル芽細胞前駆細胞(ALC)では、組織の石灰化や骨芽細胞への分化に関与するTGFbシグナルのうちBMP経路のBMP4およびsmad1/5/8の発現が増加し、TGFb, TGFbレセプターI、smad2/3の発現が増加していることが分かった。一方、間葉系由来象牙芽細胞前駆細胞ではBMP4の発現は抑えられ、BMP8aの発現が増加していた。また、TGFbシグナルの制御に関与するWntシグナル経路や種々の細胞接着分子の発現が両細胞で増加しており、歯胚形成に関与する遺伝子発現の変化が観察された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、3次元培養開始から経時的に組織を回収しリアルタイムPCRアレイ法を使用して遺伝子発現解析を行ない、上皮―間葉相互作用による遺伝子発現の変化を組織の形態変化の様子と対応させて解析する。発現変化した分子に対して特異抗体を使用して抗体染色法により組織形成過程での発現部位を詳細に観察し、分化誘導が起きる細胞相互作用部位を推定し、そこから相互作用部位特異的に発現する遺伝子を微量リアルタイムPCR、および微量マイクロアレイ法により探索する。さらに、特定した遺伝子について、RNAiによる発現抑制や、発現ベクターによる強制発現を、本研究で用いている上皮・間葉両前駆細胞株に対して行ない、3次元培養において組織形成にどのような変化があるかを解析し、その分子の機能を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に使用する予定の研究費は、3次元培養による組織形成過程での遺伝子発現解析においてリアルタイムPCRアレイを用いたことにより、各種マーカー分子および細胞分化シグナル経路の遺伝子発現について集中的に解析が進んだため、歯胚形成過程において特異的に発現する遺伝子の網羅的解析として計画したマイクロアレイ法を使った解析を次年度に必要に応じて行なうと判断したこと、特異的に変化する分子に対する抗体試薬を使用して3次元培養組織を染色し、上皮―間葉相互作用の部位を特定する実験が途中である事などから生じた。そのため、交付申請書に記載した研究費に加えて、収支報告書に記載した次年度に使用する予定の研究費を合わせて使用する。研究計画の変更はないが、実施計画に沿って、3次元培養組織の染色など抗体試薬を使用した実験、特異的遺伝子発現解析実験、同遺伝子の強制発現およびRNAiによる発現抑制の実験を行なう。このための試薬物品費、共通機器使用費、また、成果発表のための学会参加の旅費などを研究費として予定する。
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