2011 Fiscal Year Research-status Report
共用ベクターを用いた難培養性口腔嫌気性菌への遺伝子導入・発現系の開発
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23592722
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Research Institution | Aichi Gakuin University |
Principal Investigator |
西川 清 愛知学院大学, 歯学部, 講師 (50340146)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | タンネレラ・フォーサイシア / ポルフィロモナス・ジンジバリス / 共用ベクター / エレクトロポレーション / ナチュラルコンピテンス / 制限修飾系 / バイオフィルム |
Research Abstract |
ポルフィロモナス・ジンジバリス(Pg菌)で有用性が認められたpTCB系プラスミドを、タンネレラ・フォーサイシア(Tf菌)でも応用可能な共用ベクターの原型候補として選択した。pTCBは鎖長が9kbを超える大型のプラスミドで、Pg菌への導入は専ら大腸菌を介した接合法で行われてきた。しかし煩雑な接合法に依らずともエレクトロポレーション法(EP法)でpTCBを直接Pg菌に導入できることを新たに見出した。そこで詳細が不明だったpTCB全長の塩基配列を決定し、接合に関わる遺伝子領域などを同定し削除することによって、コンパクトなpEPTシリーズへと再構築した。これらは実際にPg菌に導入でき機能する。サイズ縮小によってEP法専用ベクターとなったが、遺伝子操作性と安定性は格段に向上し、形質転換効率の向上も期待できる。 Tf菌標準株のゲノムデータベースを検索し、外来DNA取り込み能力(コンピテンス)の障壁となり得る制限修飾系オペロンの存在を確認した。一方、Pg菌のコンピテンスに重要とされるcomF遺伝子クラスターがTf菌にも存在することを発見した。Pg菌では液体培養よりも固形培地上で培養した時の方がcomFの発現量は増加し、逆に制限修飾系の発現量は減少するとの報告がある。そこでTf菌の形質転換にバイオフィルム状態の菌を用いる方法を検討した。血液平板上で培養したTf菌の菌塊をグリセロール水に懸濁し、薬剤マーカーを含むPCR産物をEP法で強制導入し、直後の回復培養も血液平板上で行った結果、従来法よりも形質転換効率が向上することが判った。更に、EP法に依らずとも、DNA断片をTf菌バイオフィルムと混ぜるだけで自然にDNAの取り込みが起きる現象(ナチュラルコンピテンス)が初めて観察され、Tf菌への遺伝子導入方法を検討する上で重要な新知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
共用ベクター候補として選んだプラスミドの全塩基配列を決定し、その改良型の構築は計画以上に順調に進んでいる。更に2成分制御系遺伝子のクローニングとベクターへの組込みも、計画よりも速いペースで進んでいる。 ゲノムデータベースの検索結果から、Tf菌では制限修飾系の働きがPg菌よりも強い可能性が考えられた。潜在的な制限酵素活性による分解を防ぐため、プラスミドベクターを予め人工的なメチル基修飾法(PAM法)で保護したうえでTf菌に導入する試みは現在も継続中である。当初は大腸菌接合法による導入も検討したが、Pg菌の場合とは異なり、大腸菌共存下でのTf菌の分離培養は想像以上に困難で現実的な方法ではないとの結論に達した。その一方で、バイオフィルム状態のTf菌を用いてDNA断片の形質転換を行うと、従来よりも効率が上昇することを発見し、更に恐らく本菌では初となるナチュラルコンピテンスの発見もあった。
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Strategy for Future Research Activity |
共用ベクター候補が様々な機能や大きさを持つ遺伝子産物の発現に広く対応できるように、pEPTシリーズの改変作業をさらに進める。プロモーター領域の配列を適宜組換えて発現強度に変化をもたせると同時に、プラスミドのサイズ自体はできるだけ小さく保つことで、潜在的な制限酵素活性による消化を受けにくくし、かつ菌体への導入効率向上に寄与するような設計とする。 プラスミドのTf菌への導入は本菌の持つナチュラルコンピテンスおよびエレクトロポレーション法を利用し、既に成功しているDNA断片の形質転換データを参考にしながら、導入条件の至適化を行う。 なおPg・Tf両菌種に共通して存在する2成分制御系への応用については、Pg菌を宿主としたベクター導入株の作製とそれらの表現型解析を先行させる予定である。本研究では発現ベクターの構築にPCR法を多用しているため、ベクター作製過程で想定外の変異が導入・蓄積される恐れが常にあることを考慮し、作製した多種類のベクターが機能的に問題無く使用可能であることをPg菌の表現型を利用して効率良く確かめる狙いがある。2成分系遺伝子を強制発現させた菌株中で、その制御下にある遺伝子産物の発現を、転写レベルとタンパク質レベルで解析する。確認の終わったベクターから順次Tf菌へ応用していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究基金の特徴を生かし、年度をまたいでの試薬の発注や遺伝子導入装置のレンタル等を初めて行った。お陰で年度の移行期に起りがちな研究の停滞を避けることができた。次年度への繰り越し確定額は千円未満であり、23年度はおおむね当初の計画通りに研究費の使用ができたと考えている。 24年度は、23年度と同様にベクターの構築や形質転換、遺伝子発現解析に用いる分子遺伝学関連の試薬・消耗品の購入に加えて、2成分制御系遺伝子導入株の形態学的性状や免疫生化学的性状解析に関連する抗体・試薬・消耗品の購入にも研究費を充てる計画である。この他に現在作成中の論文の投稿に関わる経費(英文校閲サービス、投稿料など)に対し支出する可能性がある。
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